第111話 ボス退治はボス退治のあとで
ダンジョンの奥で、ウィル・オ・ウィスプと戦う。
以前に来た時は霊珠――こっちの世界では霊魂石と呼ばれる魔石目当てに多くの冒険者が子どもを囮に使ってウィル・オ・ウィスプと戦っていたが、今日は冒険者をほとんど見かけない。
そういえば、ダンジョンの前でも子どもが少なかったな。
「……たぶん、冒険者ギルドが人手を募集掛けたと思う」
「ジャイアントゴーレムやアイアンゴーレムの解体は技術よりも力と人手が必要ですから」
どうやら、アイアンゴーレムの解体のために多くの冒険者が狩りだされ、子どもたちも解体したアイアンゴーレムを運ぶために駆り出されたのだろうと二人が言った。
ジャイアントゴーレムは昼間に盗まれることはないってマッコラが言っていたけど夜になったら人目を盗んでジャイアントゴーレムをばらして持ち出す人がいるかもしれないから、昼間のうちに倉庫に納めることができるくらいにはしたいのだろう。
他にも、解体された鉄を他の町に売りに行く行商人の護衛として町から出ているのかもしれない。
「だから人が少ないのか――サンダーボルト」
「……そういうこと。サンダーボルト」
ウィル・オ・ウィスプはとても素早く、さらには壁の中に逃げたりするので見つけると同人にサンダーボルトの魔法で倒している。
ウィル・オ・ウィスプの堕とす霊珠は、神棚で呼び出す神獣のお供えに大量に使う消費素材だから、集められるのなら集めておきたい。
ただ、自宅のレベルアップをしないと神棚が現れないので今は使い道がないので、そればかり集中してもモチベーションは上がらない。
やっぱりダンジョンといえばボス戦の宝箱だ。
ボス部屋に到着する。
ここのボスはハイスケルトン三体。
一カ月前ですら余裕だったので、ますます今の俺たちの敵ではない。
こちらも三人パーティなので一人一体だな。
ボス部屋の中に入ると、普通のスケルトンの三割増しの大きさのハイスケルトン三体が待ち構えている。
俺とミスラはサンダーボルトで一撃で撃破、アムもライトソードで最後の一体を倒していた。
文字通り瞬殺。
負ける要素がない。
宝箱が三つ現れた。
色は全部茶色。
中を確認するとお金と砂金が二個入っていた。
宝箱の昇格がないのは珍しいことではないが、アムとミスラは落胆している。しかし、俺は商店ができてお金の使い道も増えたので、お金や換金アイテムが出るのは地味に嬉しい。
「では、帰りましょうか。ここは人目のあるダンジョンですから、転移で帰るわけにはいかないですから、周回は難しいですね」
ああ、アムが落胆している原因はそれもあったか。
普通のダンジョンなら何周もするから最初はハズレでも二回、三回、四回と挑めばいつかは銀色宝箱が出る。
運がよければ金色宝箱も。
でも、ここでは転移で脱出できない。
出てきたところを他の人に見られたら、どうやって転移してきたのか質問される。
転移門のこともあるし、いつかはバレることであるが、面倒ごとはできるだけ後に回したほうがいい。
だから、歩いて帰って、歩いてボス部屋に戻るのは大変だ。
しかし――
「ふふふ、アムよ。俺は、いや、この世界は進化しているのだ」
俺はそう言って懐から取り出したのは、懐中時計のような道具だった。
ただし、針は秒針しかなく、しかも止まっていて動いていない。
「……それなに?」
「揺り戻しのねじ巻きっていうアイテムだ」
アイリス様から届いたメールに書かれていたアップデートにより実装されたアイテムだ。
DLCで無料販売されたのでGETした。
「これのゼンマイを巻くと、時計の針が一周する。そして手を離すと、針が進んで――」
だいたい十秒で一周。
その針が元の場所に戻ったとき、倒れたはずのハイスケルトンが再度現れた。
俺はサンダーボルトでハイスケルトンを撃破。
アムとミスラも先ほどと同様にボスを倒す。
負ける要素がないって言った通り、今回も瞬殺だった。
現れたのは銀色宝箱一個と茶色宝箱二個。
「とまぁ、この通りボスともう一度戦えるアイテムだ」
「凄いです! そのようなアイテムがあったのですね」
「……ん、とても便利」
「そうだろそうだろ。まぁ、ダンジョン一周につき一回しか使えないって欠点があるが、それでも効率が二倍近く……って、ミスラ! 勝手に銀色宝箱を開けるなよ」
「……弓と矢? 変な形」
ミスラが宝箱の中から弓と複数本の矢が入った矢筒を取り出す。
ハートの模様が目立つ弓矢だ。
矢の羽の部分もハートになっている。
「キューピットの弓だな。普通の武器としても使えるし、これで攻撃をするとヘイトが逆に下がる効果がある。狙われたくない後衛向きの弓矢だが、攻撃力があまり高くないから、序盤の武器だな」
「……ハズレ?」
「弓矢を使う奴が仲間に加わったら使い道があるかもしれないが――いまはハズレだな。そういえば、エルフって弓矢が得意なイメージがあるが、お前は使えないのか?」
「……ん、無理。お母さんは得意だったらしいけど、ミスラは教わらなかった」
「そうか。アムはどうだ? お母さんからいろんな武器の使い方を教わってたけど弓矢は使えるのか?」
「教わったので使えるのですが――」
とアムがキューピットの矢を引く素振りを見せた。
様になってるな。
これなら――
「……それだと弦が胸に当たって大変なことになる。実にけしからん」
ミスラが少しうつむいて言う。
彼女が弦を離す前に気付いてよかった。
「ご主人様の望みとあれば削ぎますが」
「アマゾネスみたいなことをするな。絶対に削ぐなよ」
それを捨てるなんてとんでもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます