第112話 処遇を考えるのは子どもを助けたあとで
ダンジョン探索を終えて歩いて外に向かう。
これまでゲームシステムやエスケプの魔法で一瞬でダンジョンから出ていたからじれったく感じる。
とりあえず、ウィル・オ・ウィスプを倒しながら倒して――とか考えていたら、敵意の無い人を示す白いマークが三つ、こっちに向かって走ってきた。
魔物に追われているようだ。
でも、なんでこっちに向かって逃げているんだ?
ここからなら安全地帯より出口の方が近いと思うが、道に迷ってるのか?
それほど複雑な道じゃないと思うが。
「こっちだ、速く逃げますよ!」
「急げ、追いつかれるぞ!」
「待ってよっ! トウ! ポワ!」
聞こえてきたのは子どもたちの声だった。
俺たちはアイコンタクトで合図を取り、声のする方に向かった。
やっぱり追われていたのは子どもだった。
六歳から八歳くらいの男の子二人と女の子一人だ。
一番後ろの子どもは頬に黒く大きな痣のようなものがある。
追っているのはスケルトンとウィル・オ・ウィスプだった。
スケルトンは動きが速い方ではないが、それでも小さな子どもの足で逃げ切るのは難しいのだろう。
スケルトンの一体が一番後ろの女の子に追いつこうとしていた。
「サンダーボルト!」
「キャっ!」
女の子の少し横を通り抜けて雷がスケルトンに突き刺さる。
次の瞬間、アムが三人の隙間を縫うように走り抜け、後方から来る残りのスケルトンを倒し、
「……聖なる水よ顕現せよ」
扇状に広がる散水が子どもたちだけでなく、ウィル・オ・ウィスプにも降りかかる。
一番後ろの子どもの顔についた黒い痣と、そしてウィル・オ・ウィスプが一瞬で消え去った。
黒い痣は呪痕と呼ばれるもので、ウィル・オ・ウィスプによって攻撃された痕らしい。中々消えない上に、回復魔法やポーションでも治療できないそうだが、ミスラのなんちゃって聖水の効果で治療できたようだ。
ミスラの奴、微妙に魔法の詠唱を変えたのは、一応誤魔化しているつもりだろうか?
「す、すごい」
「魔法使いが二人もいるパーティなんて聞いたことがありません」
「トウ! ルルの呪痕が消えてるぞ」
「え? 本当に? そういえば痛くない」
「本当にに消えてる。呪痕なんて簡単に消えるものじゃないのに」
子どもたちが騒いでいるが、俺は大きく咳ばらいをした。
すると、子どもたちはビクッとして直立不動で並ぶ。
「お前達、何してるんだ、こんなところで」
「そ、それは……」
「今日は冒険者が誰も来ないから、私たちだけでウィル・ウイルス? を倒そうとしたの」
「バカ、ルル、喋るな!」
なるほど、事情はわかった。
普段は囮として冒険者についてダンジョンの中に入っていたこいつらだったけど、いつもの冒険者の動きを見て、自分たちでも倒せると勘違いしたのだろう。
そして、ダンジョンに入って、魔物たちに追いかけられた。
いつもは冒険者についていっているだけの不慣れなダンジョン探索。方向感覚を見失い、出口と反対方向に逃げて来たところで、俺たちと出くわしたってわけか。
「ダンジョンの入り口に見張りがいたはずだが?」
「交代の時間に隙をついてちょちょっと。入ってしまえばこっちのもんだって思ったんだ。仕方ないだろ、俺たちの年齢だとアイアンゴーレムの荷物運びなんて仕事はできないし、今日ダンジョンに潜らなかったら飯が食べられなかったんだ」
年長者のポワって呼ばれていた少年が開き直ったように説明した。
なんて無茶をしやがるんだ。
「外に行くぞ! 見張りの兵に説教してもらうからな」
「なんだよ、正直に言ったんだから許してくれよ。あんたたちについて言ったってことにしたらいいじゃん!」
「ダメに決まってるだろ。生きるのに必死なのはわかったが、一歩間違ったら――いいや、俺たちがいなかったら死んでただろうが」
「でも、黙ってダンジョンに入ったことがバレたら、俺たち、一カ月はダンジョンに入れなくなるんだ! そうなったら囮の仕事もできなくなる」
そうなのか? とミスラに尋ねると彼女は教えてくれた。
昔、こっそりダンジョンに入って命を落とす子どもが多かったそうで、Cランク以上の冒険者が一緒ではないとダンジョンに入れない規則を作るさいに、その規則を破ったら、例えCランク以上の冒険者と同行していても一カ月間、ダンジョンに入れないという罰則を追加した。
彼らはその罰則については知っていたが、それでも霊魂石を十個集めれば、一カ月は飢えることのない稼ぎになると思っていたのだろう。しかし、彼らは十個どころか一個も霊魂石を手に入れていない。
呆れたことに、冒険者がウィル・オ・ウィスプを倒すのに使っている矢は清めの矢という特別なものであることを彼らは知らず、普通に廃材置き場にあった折れた矢を投げて攻撃していたそうだ。
そんなもの、ウィル・オ・ウィスプに効果がないことを知らなかったのだろう。
つまり、ここで彼らを衛兵に突き出せば、稼ぎはゼロで一カ月収入無し。
そうなったら――
「……奴隷落ち。大丈夫、奴隷も案外楽しそう」
ミスラが親指を立てて言うと、子どもたちは怯えている。
アムのことを言っているのだろうが、彼女は奴隷としての扱いはされていないからノーカウントだぞ?
でも、だからといってこのことを衛兵に報告しないという選択肢は俺にはなかった。
ここで見逃せば、こいつらは同じことをするかもしれないし、衛兵も同じ過ちをして、別の子どもたちをダンジョンの中に入れてしまうかもしれない。そうなったら次はその子が死ぬかもしれないのだ。
この町の孤児院は定員いっぱいでこれ以上受け入れもできないそうだし。
子どもの仲間たちも、働かない子どもを養うことはできないだろう。
さて、どうしたものか――
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