第159話 霧の中の魔物の発見は前進のあとで

 俺たちは隊長さんと一緒に進む。

 隊長さんにスポットライトを横に向けて使えないかと尋ねられた。

 それができるのなら、霧の中でも俺たちが灯台代わりになるからだ。

 あいにく、スポットライトは頭上から降り注ぐ光で、例え俺が寝転がっても上から光が注ぐのは変わらない。


 そう伝えたところ、それでも可能なら、スポットライトを使い続けて欲しいと言われた。

 俺たちを囮にするためではなく、霧の中、少しでも目印になればとのことらしい。


「ところで、アム。ダイダラワームももしかして――」

「はい。百獣の牙が良く使っていた魔物です。常に何匹か纏めて行動していました。恐らく、繁殖しやすい魔物なのでしょう。そえrと、ダイダラワームは百獣の牙にとって、もっとも重要な役割があると母は生前言っていました」

「重要な役割?」

「ロック鳥やワイバーンといった大きな魔物にとって、ダイダラワームは良質な餌なのです」


 餌っ!?

 従魔に別の従魔を食べさせているのか。


「ダイダラワームは土の中に含まれる魔力を吸収して急速に成長するだけでなく、顔が無事なら、下半分を斬り落としても再生しますから――その下半分を餌にしていたのだと思われます」


 ロック鳥とダイダラワームの関係が、ヒヨコとミミズのような関係なのか。大きさは全然違うけど。


「それと、例の街道ですが――」

「アムも気付いたか。俺もそう思う」

「どういうことだ?」


 俺はゲームの知識でダイダラワームの生態について知っていたし、アムは母親から聞いていただろうが、隊長さんはダイダラワームについて詳しくないので気付いていないようだ。

 そもそも、この地域にはいない魔物だって言っていたからな。


「ダイダラワームはあの巨体ですので、二つの意味で地形を大きく変える魔物なんです。一つは、その巨体。穴を掘るのもそうですが、地上を歩くだけでもその場所が押し固まってしまいます」

「つまり、我々が街道だと思っていた道はダイダラワームが通った道だったと⁉」

「その可能性が高いです。さらに言うと、ダイダラワームが穴を掘った場所は大量にダイダラワームの排泄物が出て、土壌が肥えて草が生えやすいそうで――それこそ本来の街道があった場所を掘っていたら、一週間もしないうちに草地になっていてもおかしくありません。それに、岩盤をかみ砕く力があれば、土砂崩れを起こしてハンバル漁村の近くの街道を塞ぐこともできます」

「なるほど――短時間で街道が変わったカラクリはそんな方法だったのか」


 隊長さんがため息を吐く。

 さらに、ダイダラワームにはもう一つ特徴がある。

 蒼剣において、ダイダラワームは対象を丸のみにする攻撃をすることがあるのだが、丸のみにされた側は即死するわけではなく、あくまで数ターン消化されて継続ダメージを受け、そして吐き出される。

 つまり、丸のみにされた騎士達はまだ生きている可能性がある。

 助けられるのなら助けないといけないな。


 俺たちは霧の中を進んだ。

 だんだんと霧が濃くなっていく。

 騎士達が松明に火をつけた。

 霧の向こうにぼんやりと松明の火が見えるが俺は地図を使って周囲を確認する。


「敵の気配はありません」


 俺が言った。


「了解した。前進を続ける」


 部隊は徐々に岬の先端へと向かっていく。

 その時だ。

 白いマークが現れた。


「一時の方向に何かいますです!」

「ダイダラワームか!?」

「違うと思います。敵対行動はとっていません」

「一時の方向とはどっちだ⁉」


 あ、この世界には時計がないから、一時って言ってもわからないか。

 こういうところは翻訳能力があっても通用しない。


「ほぼ真っすぐ、やや右方向に三十メートルくらいの位置です。俺が先に行きます」

「ご主人様、私も一緒に――」

「いや、敵は一体だけだ。アムはここで待っててくれ」


 俺はそう言って真っすぐ進む。

 霧の中、足下を確認しながら慎重に近づく。

 何かの影が見えた。

 結構大きいが、ダイダラワームやロック鳥ほど大きくない。

 それに影の形も違う。

 相手は動かない。

 

「なんだ?」


 あれは……亀?

 ミストタートルか。

 そうか、霧の原因はこいつか。


「ヤバイ魔物じゃありません。こっちに来てください」


 俺はそう叫んだ。

 ミストタートルは、霧を出す亀の魔物だ。

 戦闘力はほとんどない。

 ゲームでもミストタートが出てきたが、戦闘力はあに。

 亀の甲羅の頂点部分にある穴を塞ぐことで対処していた。

 いくら魔物とはいえ、攻撃してこない魔物を殺す必要がないという主人公の優しさかもしれない。

 攻撃してこないボールは経験値のために殺しまくってるけど。


 ということで、騎士達が来るまでに、ゴーレムツルハシで近くの地面を掘って土で甲羅の穴を塞ぐことにした。

 これ、体内に霧が溜まって死んだりしないよな?

 少し心配になったが、ゲームでも平気だったし大丈夫だろう。

 ただ、この一匹でこれだけの霧を出すのは不可能だ。

 もっとミストタートルがいると考えていいだろう。


「それにしても、本当に大人しいな、こいつ」


 甲羅に土を詰められているというのに全然怒ったりしない。

 マークもNPCを示す白色だし、魔物だけどほとんど動物のようなものだよな。


「これ、食べるか?」


 ハンバルの漁村で買った海藻を差し出すと、ミストタートルはゆっくりと首を伸ばして食べ始めた。

 うん、こうしてみると結構可愛い。

 ペットとして飼いたいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る