第296話 勇者召喚は召喚石を100個揃えたあとで

 四階層の入り口に戻ると、ノワールが倒れていた。

 意識を失っているが目立った外傷はない。

 地図で見ても敵の反応ではないので、以前のポチのように操られてもいないだろう。

 回復魔法をかけてやると、直ぐに目を覚ました。


 ノワールの無事を確認したら、さっそく捕まっている人達の救出に向かった。

 全員薬か何かで眠らされているようだ。

 全員起こして事情を説明して一緒に出るのも面倒だし、ワグナーのことやクナイド教のことを説明しても信じてもらえるかわからない。下手に説明したら、アムが攫われたことから、アム=アミという情報がカイザーに伝わる危険もある。

 そのため、全員をノワールの中に入れて下水道から脱出したところで出して、下水道の入り口の脇に寝かせた。

 ここならフェンスの内側だが外から隠れて見えないので、変な奴に見つかって殺されたり身ぐるみはがされたりする心配はないだろう。まぁ、この辺りは職人街だから貧民街やスラムに比べて治安も悪くないからそこまで心配しなくてもいいかもしれないが。

 そして、急いで家に戻った。

 次の瞬間、ミスラがアムに抱き着いた。


「……遅い」

「ミスラ、心配かけましたね。その、さっきまで下水道にいたので臭いでしょう?」

「……ん」


 やっぱり臭いのか。

 アムが困っている様子でいると、ハスティアがやってきて、ミスラを引きはがす。


「いなくなったのに気付くのが遅れて申し訳ありません」

「いや、俺もミスラに言われるまで気付かなかったんだ」

「それを言うのであれば、みすみす召喚されてしまった私の責任でもあります」


 みすみす召喚されたって、召喚されない方法とかあるのだろうか?

 勇者召喚とかアイリス様でも止められない魔法だったわけだし、今回だって油断していなくても防げなかったと思う。


「……召喚?」

「悪い、そのことについても話をしたいが、その前に風呂に入りたいんだ。ミスラ、準備を頼めるか?」

「……ん、もうできてる。トーカ様が汗をかいていると思って」

「そうか。助かるよ」


 俺はミスラの頭を撫でようとして、手が臭いからいやがるかもと思って引っ込めようとしたら、ミスラは俺の手を取って自分の頭に持って行った。


「……ミスラもあとでお風呂に入るから」

「そうか」


 遠慮なくミスラの頭を撫でた。



 アムと二人でお風呂に入る。

 普段二人で入ると、ちょっとえっちなあれこれをするんだけど、今日は流石にする気にはならなかった。

 幸い、服はアバターのため洗濯の必要はない。

 ステータスから装着すれば、いつでも新品、クリーニング仕立てくらいの綺麗な服を纏うことができる。

 俺たちと交代でミスラたちもお風呂に入り、全員スッキリしたところで、今回の件について話をすることにした。


「……召喚魔法……実用化されているとは。見てみたかった」

「そう言うと思って、召喚石は持ってきたぞ」

「……トーカ様、ぐっじょぶ」


 俺が召喚石を道具欄から取り出すと、ミスラが親指を立てて褒めた。

 遺跡由来のものだとしたら持ちだし厳禁かもしれないけれど、また別の奴に召喚されたら困るからな。


「……試しに使ってみたい」

「使えるのか?」

「……精霊魔法の本で召喚の理論は理解している」


 さすがミスラ、略してさすミスだな。

 どれだけ魔法に造詣が深くなったんだ。


「てことは、異世界から勇者を召喚したりもできるのか?」

「…‥理論上は。ミスラの魔力が三倍になって、この規模の召喚石があと100個あれば可能」

「それは不可能って言うんだろ?」

「…‥ん、ブルグ聖国にあればその規模の召喚石があるはず。魔力もミスラ一人ではなく、複数人で賄えば可能」


 可能なのか。

 俺みたいに異世界に無理やり召喚される人間を生み出すわけにはいかないので、ミスラには絶対に使わないように念を押しておく。

 ただ、そうなると別の場所に行くだけなら転移魔法と変わらないか。

 ん? 待てよ?


「異世界の勇者の召喚は無理でも、異世界のものを召喚することはできるか?」

「……もの?」

「ああ。道具とかそういうものだ」

「……んー、やってみないとわからない。理論上は可能なはず」


 可能だと?

 ていうことは、もしかして――ゲーム機をこっちの世界に持ってこられるんじゃないか?

 つまり、《聖剣の蒼い大地》をこの世界で遊ぶことも可能ってことじゃないか!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る