第30話 事情聴取は訓練のあとで
本来、今日は技能レベルを上げるつもりだったのだが、予定を大幅に変更。
アムと別行動を取ることにした。
彼女には俊敏を活かすため、村人からナイフを買い取り、それを使って技能のレベル上げをしてもらうことにした。
そして、俺はハスティアと話をする。
「私に話しを? 村人たちの訓練が終わってからでいいだろうか?」
「もちろん構わない。そうだと思ってこれを持ってきた」
俺はリザードマンの剣を十本置く。
「水辺のダンジョンで見つけてきたんだ。木刀や農具も悪くないけど、本物の剣で素振りしたほうが修行の効果もでるだろ?」
農具を振るっても身につくのは農業技能。
剣術技能は剣を振ってこそ身につくのだ(青ネギソード含む)。
「聖者様、これ、本当に俺たちが貰っていいのか?」
「ええ。ポットクールに売るつもりだったんですけど、査定する時間がなかったので。棚のこやしにするくらいなら皆さん使ってください。もちろん、悪用はダメです。それと、剣を持ったからといって剣の性能以上に突然強くなるわけではありません。自分の強さを見誤って、強い魔物と戦おうとなんてしないでください」
「うむ、聖者様の言う通りだ。先ほど説明した通り、今度ゴブリンと戦うときは三対一の戦いになるように意識して立ち振る舞うように」
ハスティアの訓練に俺も参加した。
体力づくりから始まり、素振り、型の稽古、三人一組でのチームでの戦い方、そして模擬戦。
俺も最後にハスティアと模擬戦をしたのだが、負けてしまった。
剣の打ち合いは互角に戦えていると思ったが、あっさりとフェイントを入れられたら負けてしまったのだ。
「聖者様の剣術は技術はあるのに経験がないようだ」
剣術技能のおかげで剣を振るうことはできるのだが、頭がついていかない。
ハスティア、勇者に仕えたいというだけあってやっぱり強かった。
彼女ならゴブリンキングも倒すことができるだろう。
(となると、俺の読みはハズレか)
メンフィスが俺にゴブリンキング退治を諦めるように迫った理由について、昨日の夜ずっと考えていた。
単純に、急いで村を出たいだけだろうか?
もしかしたら、メンフィスは誰かに雇われ、ハスティアの殺害の依頼を受けていて、ゴブリンキングに彼女を殺させようとしているのかと思ったが違った。
ゴブリンキングとの戦いに乗じて暗殺をするという可能性もある。
「ハスティア様はメンフィスさんとは付き合いが長いのですか?」
「ああ。彼女とは十年来の付き合いだ。私は子供のころから結構無茶をしてな。怪我をしては治療院に連れていかれた。その治療院で働いていたのが彼女だった。何度も命を救われたことがある。まぁ、少々世話好きが過ぎるところがあるのが玉に瑕でな。湯あみはともかく、厠にまでついてきて一緒に入ろうとするのは流石にやめてほしい」
それって俺が想像していたのとは別の意味でヤバイんじゃないか?
学校だとクラスの女子が連れ立ってトイレに行くのはよくある光景かもしれないが、流石に同じ個室に入ったりはしないだろう。
「そういえば、そのメンフィスさんは何をしているのですか?」
「今朝早くに村を出て何かしているようだが、まぁあいつのことだ。任せて大丈夫だろう」
「随分と信用しているんですね」
「もちろんだ。仮に彼女が私を裏切り、背後から刺されたとしても彼女相手なら諦めがつくと思えるくらいには信用している」
彼女のその言葉に俺はメンフィスがハスティアを害そうとしているのではないと確信が持てた。
彼女が本気でハスティアを殺そうと思えば、ゴブリンキングとの戦いになんて乗じなくてもいつでも殺せるだろう。
しかし、だとすると昨日の敵表示はなんだ?
直接、「昨日、俺を殺そうとしました?」なんて聞いて正直に答えてくれるとは思わないしな。
まぁ、明日ゴブリンキングを倒せば、ハスティアもメンフィスも旅立つんだし、そうなったら問題ないだろう。
翌朝――予定通り俺とアムはゴブリンキング退治を行うことになる。
だが、予定と一つ違うことがあった。
「聖者様、大変だ!」
出発前に朝食――野菜のスープと蕎麦粉のパン――を食べていると、村長が靴を履いたまま家に入ってきた。
おいおい、この家は土足厳禁だ!
靴を脱いでスリッパに履き替えて上がってくれ……と注意できる雰囲気ではない。
タダ事ではないのは、彼の慌てようから理解できる。
「どうしたんですか?」
「ゴブリンたちがこっちに向かって来る!」
「ゴブリン、また襲撃か」
まぁ、ゴブリンだけならいくらいようがなんとでもなる。
むしろ、村に来てくれる分なら、ハスティアとメンフィスも戦力に数えられる。
それに、これが襲撃イベントだとするのなら、拠点ポイントを大量に手に入れるチャンスだ。
地図を見ると、まだ村には来ていない。
今回は襲撃イベント開始と同時に戦えそうだ。
と俺が食べかけのパンを口に押し込み、スープで流し込んで立ち上がる。
アムも食事中だったが、完食はせず、武器を持って俺の横に控える。
「ただのゴブリンの襲撃じゃねぇ! ゴブリンの指揮を取っているのはゴブリンキングだ!」
ゴブリンキングもっ!?
嘘だろ、ダンジョンボスがダンジョンを棄てて村に来たっていうのかよ!?
さすがにそれは想定外過ぎた。
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