第31話 防衛戦は作戦準備のあとで

 ゴブリンの襲撃。

 それだけなら良かったのだが、そうではない。


「ゴブリンキングが一緒って本当なんですか!?」

「ああ。騎士様の従者の修道女さんが確認した。確かな情報だ」

「メンフィスさんがっ!?」


 ここに来て情報源がメンフィスって。

 ますます彼女が怪しく思えてきた。

 しかし、ゴブリンキングが攻めてくるというのが嘘とは思えない。

 俺とアムは村長とともに村の広場に向かった。

 念のためにポチも連れていく。

 

 広場に行くと、戦える人間は全員集まっていた。

 村人たちは全員リザードマンの剣を持っている。

 地図を確認すると、戦わない老人、女性、子供は前回のゴブリン襲撃時と同様、奥の倉庫の中に隠れているようだ。

 ただし、ゴブリンに襲われていたときのような絶望感や悲壮感は感じない。

 アムの怪我も治っているし、俺やハスティアもいる。

 なにより、訓練を受けて戦える力を身に着けた自信が高揚感に繋がっているのかもしれない。

 無茶をしなければいいのだが。


「聖者様、話は聞いているな」

「ええ、ハスティア様。ゴブリンキングが出たそうで。メンフィスさんが見たのですよね? どうして彼女が?」

「ゴブリンの様子は定期的に確認していた。ハスティア様が村に滞在している間にゴブリンに襲われて村に被害が出たら、それはハスティア様の失態になる」

「さすがはメンフィスだな」

「お褒めに預かり光栄です。ハスティア様の役に立てるのが私の最大の喜びですから」

「ははは、可愛い奴だ。村の防衛にも手助けしてやってくれ」


 ハスティアに頭を撫でられ、恍惚の表情を浮かべるメンフィス。

 もしも彼女にアムのような尻尾があったらブンブンと振っていたことだろう。


「さて、聖者様。これから来るゴブリンキング。私も共に戦わせてもらうぞ。今回は提案ではなく、実行だ。断られても同行する」


 そうだよな。

 大規模進軍の大将はやはりゴブリンキングだろう。

 ここでゴブリンキングを倒せば、ゴブリンの村への侵攻は止まる可能性がある。

 つまり、一刻一秒を争う事態であり、我儘を言って二人だけで戦いを挑むという選択肢はない。

 それに、もともと二人で戦いたいと言ったのは、ゴブリンを倒した後にダンジョン踏破報酬として現れる(かもしれない)宝箱をハスティアに見られたくなかったからだ。

 ゴブリンキングがダンジョンから出てきたのであれば、そちらの理由ももうなくなった。


「一番の最優先事項は村の被害を最小限にすることです。もちろん、俺とアムも戦います」

「即席のスリーマンセルだな。妖狐族は共闘が苦手だと聞いているが大丈夫か?」

「問題ありません。ご主人様との戦いの中で日々身に着けています」

「そうか、期待している」


 開いている地図で、ハスティアを示す白いマークが仲間を示す青い色に変わった。

 そして、地図の端に、おそらくゴブリンを示すであろう薄い赤のマークが現れた。

 その数、かなりのものだ。

 以前攻め込んだとき、外に出ていたゴブリンもいるだろうが、それを含めても百匹程度しかいなかったはずだが、まだ群れの全貌がマップに表示されていないのに、既に前回洞窟で見たゴブリンの数を上回っている。

 前回洞窟で見たときより数が増えているのは明白だ。

 どういうことかと思ったら、アムが説明をしてくれた。

 マザーゴブリンは一週間で五十匹のゴブリンを産むと言われ、生まれたその日からゴブリンは戦える。

 つまり、この一週間でゴブリンが二百匹も増えたことになる。

 ネズミ算的に増えるにしても増えすぎだろう。

 ゴブリンキングが誕生する確率が少ないから、増やせるときに増やしておけっていう考えなのかもしれない。

 いくら村人が戦えるといっても、村人たちは三対一での戦い方を主に練習してきた。

 三対一どころか、十対三百の戦い方なんて想定していない。


「三人一組って言いましたが、ゴブリンの数が思ったより多いです。一度三人ばらけて戦いましょう。ただし、キングにはまだ手を出さないように」

「聖者様も気配を感じたか。確かにこの数――ゴブリンキングだけ倒してなんとかなる規模ではない。キングを仕留めたはいいが、戻ってみたら村が全滅していたでは意味がない」

「かしこまりました。本来であれば村を守るのは私の仕事。ご主人様、ハスティア様、ご協力感謝いたします」


 話はまとまった。

 俺は道具からポーションを三本取り出して、ポチに渡す。


「ポチ、怪我人が出たらこれを使ってくれ。三本しかないから慎重にな」

「わかったのです。ポチは制約により家の中以外では戦えないので、精一杯サポートするのです」

「それと……」


 俺はポチに耳打ちをする。

 ポチは全てを聞き終えて頷いた。

 その上で、ポチは「任せるのです」とやわらかそうな胸を犬の肉球でぽにゅっと叩く。


 村の中は皆に任せた。

 最悪、畑は荒らされても構わないと告げる。

 前回も一部のゴブリンは村の手前で作物を食べていたので時間稼ぎになるだろう。

 畑は天の恵みがあれば数日で元に戻せる。

 襲撃イベントの達成項目に【畑の被害が出る前にクリア】が今回もあったら未達成になるかもしれないが、死傷者が出ることを考えるのならその程度構わない。


「聖者様、アムルタート、行くぞ。私は中央。聖者様は左を、アムルタートは右から。全ての敵を倒そうと思うな。我々の目的は殲滅ではない。数を減らしたうえで、最初の討伐目標はマザーゴブリン、そして最終目的はゴブリンキングだ」


 ハスティアの号令とともに、俺たちの襲撃イベント――防衛戦が始まった。

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