第134話 マフィアダンジョンに入るのは、後方の安全を確認したあとで

 マフィアの本拠地の地下にあるダンジョンに案内してくれたのは、俺を無理やり連れて来たせいでトンプソンにボコボコにされていた男だ。

 立って歩いているのも辛そうだ。

 明らかにイライラしているのはわかるが、被害者は俺の方だし、回復魔法を掛けてやる義理もない。

 というか、回復魔法をかけたらトンプソンに怒られそうだ。

 彼の怪我は、日本のヤクザで言うところのケジメなのだから、そのケジメを勝手になかったことにしてはいけない。

 

「トーカ様、ここが我々が管理するダンジョンになります」


 一応、客人として扱うつもりはあるらしい。

 男は丁寧な口調でそう言った。

 それは鉄の扉だった。

 入口は鍵を掛けられている。

 もしも外から鍵を掛けられたら――なんて思ってしまうが、俺ならエスケプの魔法と帰還チケットを使うことでどこからでも拠点に戻ることができる。

 ただ、罠のことを考えると三人でダンジョンに行くわけにはいかないか。


「アム、ポットクールさんのところに戻って護衛を頼まれてくれないか?」


 宿はマフィアが管理しているから安全だって言っていたけれど、そのマフィアが俺を従わせるために無茶をしないとも限らない。

 俺たちがダンジョンに行っている間にポットクールさんを拉致する可能性だって考えられる。

 

「………………………………………………………………そうですね。ポットクール様が心配です」


 凄い間があった。

 アムは宝箱を開けるのが好きだからな。

 俺もアムには一緒に来てほしい。彼女がいた方が宝箱の昇格率が高い。


「ん? 三人で行かないのか? 俺としてはどっちでもいいが――」


 と言ったのは、鍵を持っている赤らめ顔の髭男だった。

 頭の上に小さな犬が乗っているが、男の飼い犬だろうか?

 このダンジョンの管理人らしい。

 昼間から酒を飲んでいるところが、なんかどこかの酔いどれケット・シーを思い出す。


「ああ。ダンジョンに行くのは俺とミスラの二人で――」


 と言おうとしたとき、男の頭の上の子犬が大きく跳躍して俺の頭の上に飛び乗った。


「おぉ、うちのチビが俺以外の人に懐くなんて珍しいな。ガハハハ」


 男は笑って言った。

 懐かれているのか?

 頭に飛び乗るのは少し怖いからやめて欲しい。

 チビは俺の耳をくんくんと嗅ぎ、


『あるじ、この子の身体を借りて伝言なのです』


 ――ポチっ!?

 犬の身体を依り代にして会話しているのか?

 そういえば、蒼剣の中で、コボルトビルダーに保護犬を預けるとコボルトビルダーの犬属けんぞくになってコボルトビルダーが好きに操れる他、全員集まったら犬属たちが歌って踊るパフォーマンスを見せるイベントがあった。

 歌えるってことは喋ることもできるってことか。

 いつの間にチビを犬属にしていたのか気になるが、ポチだからそのくらいできるってことだろう。


『ポットクールさんのことは僕に任せるのです。あるじたちはダンジョン探索してほしいのです』

「いいのか?」

『はいなのです。それと、拠点クエストが新しく発行されたのです――』


 チビポチはそう言って口頭で拠点クエストを伝える。


―――――――――――――――――――――

物資の配送:300ポイント

推奨レベル35

達成条件:星露草をトンプソンに納品する

―――――――――――――――――――――

 強クエストだ。

 しかも強クエストの中でもポイントが結構高め。

 星露草というのは、今回の依頼の品とは違う。

 確か、トンプソンに頼まれたのはダンジョンのボスが落とす癒し草という名前の草だったはずだ。

 星露草はダンジョンの中にあるのだろうか?


 ただ、納品というからには彼女が必要にしているものに違いない。


「やっぱりアムも一緒に来てくれ」

「ポットクール様の護衛はよろしいのですか?」

「ああ、大丈夫になった」


 俺がそう言うと、チビは俺の頭を蹴っておっさんの頭の上に着地した。


「ガハハ、チビもやっぱり俺様の頭の方がいいようだな。さて、三人様、地獄の一丁目にご案内だ」


 おっさんはそう言ってダンジョンを封じている扉の鍵を開けて中に案内した。

 さて、推奨レベル35ってことは、ジャイアントゴーレムを越えるボスがいるってことだよな。

 どんなダンジョンか前情報が少ないが、今から楽しみだ。


 扉の向こうは地下に続く階段になっていて、そこからダンジョンに入っていく。

 そこで俺が目にしたのは二つの光る魔法陣だった。

 そして、その部屋には入ってきた階段以外、他に通路はない。


「ご主人様ここでもう行き止まりなのでしょうか?」

「……違う。あの魔法陣……エスケプと同じ。転移系の魔法の力を感じる」

「ああ。転移系のダンジョンだ」


 厄介なことに、転移系のダンジョンは地図がほとんど役に立たない。

 転移先に魔物の群れが待ち受けていることもあるし、記憶力も問われる。

 また、転移魔法陣には一方通行型と双方向型の二種類があって、転移先に元の場所に戻る転移陣がなかったり、入った転移陣に戻ったら別の場所に飛ばされたりするものもある。

 さらに、特定の条件を満たしたときでないと現れない転移陣や、目には見えない転移陣なんてものもあるもんだから余計に手に負えない。


「こりゃ、久しぶりにマッピングの時間だな」



――――――――――――――――

すみません、二泊三日の旅行から先ほど帰ってきました。

その間に溜まった誤字報告、明日以降適時処理させていただきます。

反応遅くなりますがご了承ください。


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