第235話 まともな会談は質問攻めのあとで
「私の服はアイリス様の服に合わせてデザインしているのですが、本物の服の色はどうでしょうか? 白い服だとは聞いていたのですが、同じ白でも違いはありますよね? 待ってください、一緒にゲームをしていたときはって長い間アイリス様と一緒にいたのですか? その間アイリス様が召し上がったものをできるだけ教えてください。ピーマンが苦手だと聞きましたが、その間食べた記録はありますでしょうか? やはり甘いものがお好きなのですか? そもそも、料理は誰が作っているのですか? もしも料理人がいないというのならば私が変わって――いいえ、私が作ったものをアイリス様が召し上がると想像するだけで尊死してしまいそうです。それで、そのチョコモナカアイスとはなんなのでしょうか? アイリス様のお好きなものであるのなら、是非ブルグ聖国でも研究し、開発せねばなりません。ああ、そうですね。国民食にするのもいいかもしれません。レシピわかりますか?」
「いや、白がに200種類以上あるって言われていても俺はカラーコーディネーターではないので。ピーマンは食べていなかったですが、何を食べたのかは。ああ、確かに甘いものは多かったです。チョコモナカアイスっていうのは、まずチョコレート……いや、待ってください。国民食にはしないでください。あれは主食ではなく嗜好品ですので」
その後も、ヨハルナ様の質問は続いた。
護衛たちが大きくため息をついている。
彼女のアイリス様への敬愛――というかマニアっぷりは皆の知るところだったようだ。
ブルグ聖国との取引を纏めたいウサピーですから会話に入る余地がないくらいだった。
「その時、アイリス様はなんと仰ったのですか? え? 待ってください、語尾は本当に「にゃ」だったのですか? 寝ぼけていたとはいえ、アイリス様が「にゃ」……これは新しい境地ですね。聖典の是非記さないといけません。毎年勇者降臨の日には信者全員に、語尾を「にゃ」にする教義を追加しましょう」
あまりにも長時間の質問に、つい口が滑ってアイリス様のつまらないミスを話してしまった。
この時は、単純にゲームの中で「よいどれケットシー」を仲間にして、その語尾に嵌っていただけで、普段のアイリス様の口調ではないと思うのだが、それを説明するのも面倒だよな。
「あの、ヨハルナ様。さすがに無断でそのようなことをしては怒られるのでは?」
「そうですね。それでも教皇を説得してみせますよ。なんと言っても私、前教皇ですし教皇の母親ですから」
「いくら教皇様のお母上でも……え?」
それって、教皇のお母さんで、前教皇?
それってほぼトップレベルの人じゃないのか?
なんでそんな人がこんなところに?
会談が終わった。
少し疲れているのでこの状態でハスティア様やヨハルナ様と会話するのが疲れるので、なんとかウサピーに彼女たちの相手をしてもらっていると、メンフィスが通りかかったので彼女に声をかけた。
「メンフィスさん、ちょっと聞きたいんですが」
「ええ、言いたいことはわかります」
ヨハルナ様がここに来たのは、やっぱり俺からアイリス様の話を聞くためだったようだ。
かなり無理を言ったようで、最終的には「教皇、話を聞いてくれないのであれば皆さんに話さないといけませんね。あなたが小さい頃、司教のお嬢さんの――」って言ったところで受けてくれた。
内容はわからないけれど、たぶん脅したのだろう。
教皇を脅すとか、さすが母親だ。
「それにしても、聖者様が勇者様だったとは――何故、以前来たとき話さなかったのですか?」
「あの時はただ異世界から召喚されただけだからですよ。前の勇者が勇者と認められたのは魔王の討伐という大きな成果を成し遂げたからですよね? 俺はあのときはまだ何もしていません」
「以前の勇者は勇者となるべく召喚されていますので、召喚されたときから勇者でしたよ」
え? そうなのか?
いや、きっと彼女はハスティアから勇者の話を飽きる程聞かされているだろうから、勇者に関する情報に間違いはないだろう。
ドヤ顔で、「勇者と名乗るのは勇者として認められたあとで」とか言っていた自分が情けない
「ところで、メンフィスさん、なんか雰囲気変わりました?」
「そうでしょうか?」
「はい。なんか雰囲気が柔らかくなったというか、よそよそしくなったというか」
「……はぁ……あなたは勇者様ですからね。ハスティア様を従者とするのであれば、ハスティア様の従者である私にとっても主人になります。敬意を払うのは当然でしょう」
「えっと、まだハスティア様を従者にするとは言ってませんが――」
「ハスティア様の願いを断るというのですか? いくら勇者様であり恩人であるユサキ様といっても看過できませんよ。ただし、ハスティア様の主人になるといっても、ふしだらな要求をするのも許せません。二人きりになるのも禁止します」
どうしろっちゅうねん(何故か関西弁)。
「しかし、ハスティア様が望まれたとき、断るのは許せません」
どうしろっちゅうねん(何故か関西弁)。
「そのときは私もご一緒します」
どうしろっちゅうねん(何故か強めの関西弁)!
本当に今日の使者は変態ばかりだな。
初日の会談が終わり、ようやく家に帰って一息がついた。
「申し訳ありません、本来であれば私もお役に立ちたかったのですが、私は現在はトーカ様の妻ではなく、トーラ王国の大使という身分でして、使節団の相手をすることができず」
こういう会談に一番慣れていそうなリーナが言う。
「殊勝なことを言うけど、リーナもトランデル王国の使者に同行してきたよな」
「あれは若気の至りというやつです」
いまでも十分若いリーナが視線を逸らして言う。
「ああ、ポチ、悪いがさっきのご飯、食事食べた気がしないんだ。軽めにお茶漬けとか用意できるか?」
「わかったのです。これから作るのですよ」
さて、お茶漬けを食べたら風呂に入って寝よう。
そう思っていたときだった。
何故か、家にハスティア様、メンフィス、ヨハルナ様、あと護衛数人が訪れた。
家に来るなんて聞いてないぞ?
とりあえず俺は――
「ええと……お茶漬けでも食べていきますか?」
という京都風に「帰ってくれないかな?」と言ったのだが――
「勇者様からいただけるものでしたら、豚の餌でもいただきます」
「ハスティア様のものを多めに用意してください。私はその残りを食べますので」
「アイリス様も召し上がったことがあるお茶漬け――ぜひご相伴に預かりたいです」
全員帰ってくれなかった。
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