第234話 質問攻めはバニラアイスを食べたあとで
「ハスティア様、お久しぶりです」
なんで彼女がブルグ聖国の使者としてきたかはわからないが、相手はトランデル王国の侯爵令嬢だし、過去に世話になった。
「様なんて付けないでください、勇者様! まさか聖者様が勇者様だったなんて。私は己の眼の節穴をこれほど呪ったことはありません。どうか、私のことは豚とお呼びください! ハァ、ハァ」
息を荒げて媚びるような目で見てくる彼女に俺は引いた。
違う!
彼女は俺の知ってるハスティア様じゃない。
「あの、ハスティア様」
「ぜひ、豚と」
「呼びません。なんでハスティア様が? ブルグ聖国の使者と聞いていたんですけれど」
「もちろん、私がそれを希望したからです。ブルグ聖国に行った私でしたが、そこで私が知ったのは勇者様の召喚が失敗したという情報でした。しかし、勇者様はどこかに召喚されているのも事実。私は周辺国を調べて回りました。そんなとき、知ったのです。聖者様がトーラ王国から勇者の称号を授与されたとを。それで、ブルグ聖国は使者を送ることになったので、私も同行させていただくことにしました」
同行?
ってことは、使者はハスティア様だけじゃないのか?
そりゃそうだよな。
遠くから馬車が近付いてくる。その両脇を護るように神官騎士っぽい人たちがついている。
あ、その中にメンフィスもいた。
そりゃいるよな――ハスティアのこと大好きなあいつが、ハスティアと一緒にいないはずがない。
どうやら、あれが本当の使節団一行らしい。
馬車が俺たちの前に止まった。
降りてきたのは、シンプルながらも高そうな絹のローブを纏った老婆だった。
たぶん、とっても偉い人なのだろう。
彼女が馬車から降りてきたときの周囲の空気が変わった。
もしも彼女に何かあったら、自分たちの首が飛ぶ。それも物理的に――という感じの雰囲気だ。
「良くおいでくださいました。この町の町長をしているトーカ・ユサキと申します」
「ええ、話は聞いています。私はヨハルナです。勇者様にお会いできて光栄です」
彼女がそう言って手を差し出してきたので、俺は握手した。
ブルグ聖国も俺を勇者として認めているのか?
もしかしたら、勝手に勇者を名乗ることを許さないとクレームが入るかと思ったが問題ないらしい。
「長旅お疲れ様です。どうぞ、お入りください。簡単ですが食事の準備ができています」
ブルグ聖国は宗教国家だけれども、肉を食べてはいけないとか、お酒を飲んではいけないとかそういう戒律はないらしい。
村で育てた豚を潰して、ミスラ商会が仕入れた生姜を使って、豚の生姜焼きにして振舞った。
これが好評だったが、俺が料理の説明をするために、「豚」という言葉を使うと、ハスティアが息を荒げたので正直失敗したと思った。
デザートのアイスクリームも好評だった。
氷のように冷たい菓子など見たことがないらしく、とても驚いていた。
こういう美味しいバニラアイスを食べていると、上にウエハースを載せたくなる。
さすがにレシピがわからないが、ポチなら作れそうな気がする。
今度頼んでみようかな?
「勇者様はこの地に新たな国を建国なさると伺いました。どうでしょう? 私たちにも協力させていただけないでしょうか?」
「よろしいのですか?」
「ええ、もちろんです」
ヨハルナさんが微笑んで言った。
とってもいい人だな。
「それで、勇者様。先日トーラ王国にアイリス様が降臨なさったと伺いましたが、そのお話を詳しく教えていただけないでしょうか?」
「ええ、もちろんです」
やっぱり、教会にとってアイリス様は信仰の対象だからな。
彼女が何をするために来たのは気になるのだろう。
「アイリス様はなんと仰っていましたか? その時のお召し物は? この肖像画と比べてどうでしたか? 匂いは? 近くにいてなにかいい香りはしませんでしたか!?」
「え、ちょっと待ってください」
「過去の勇者様の話によるとアイリス様はスイカが好きだって聞いたことがあるのですが、本当ですか?」
「そんなの知らない……一緒にゲームしてたときはスイカより、チョコモナカアイスを食べていた回数の方が多いですけど」
「ゲーム? ゲームってなんですかっ!? それがアイリス様の趣味なのですか?」
信仰の対象というのは確かのようだが、あまりにも熱いその質問攻勢に俺は引いていた。
もしかして、この人ってかなり変わり者なのか?
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