第115話 お米の脱穀は一週間天日干ししたあとで?

 ポワ、トウ、ルルの三人が村に来て三日が経った。

 三人とも村の仕事にだいぶ慣れてきた様子だ。

 毎日食事を食べられるのがなによりも嬉しいらしい。


 そして、今日は米の収穫日だ。

 水の張った田んぼで、稲の穂先が黄金色になって低く下がっている。。


「実るほど頭を垂れる稲穂かな――ってか」


 こんな短時間で米が収穫できるのは本当に嬉しい。

 いやぁ、これで米を食べられる――と思ったが、そうはいかなかった。

 なんと、収穫した米は一度干さないといけないのだとか。

 一週間干して、脱穀し、稲の葉や藁くずを取り除き、籾殻を除去し、精米する。

 なので、米を食べられるのは少なくとも、ポーツ村から帰って来てからになりそうだ。

 なんてことだ。


 と思ったが――


「待つのが嫌ならあるじが食べる分だけあるじが刈ればいいのです

「あ、そっか」


 普通の人が稲を刈ると稲は稲のままだ。何を当然のことを言っているのだろうか? と思うかもしれないが、俺が刈ると、刈った作物は道具欄に米として保存された。

 蒼剣の中では稲を収穫すると、干す作業はもちろん脱穀や精米といった細かい作業をしなくても炊けば食べられる状態になっている米が手に入る。

 それはアイリス様の力によりゲームシステムと同じことができるようになった俺でも同じだ。

 ゲームシステム最強だ。

 ちなみに、もう一人ゲームシステムの恩恵を享受しているのはミケだった。

 彼女も稲を刈ると脱穀もせずに酒場の中に持っていき、酒樽の中にぶち込んでいた。

 精米しようがしまいが、日本酒や米焼酎、みりんなどを作ることができるらしい。本当の醸造家が聞いたら顔を真っ赤にして怒鳴り込んできそうな酒造りだが、もうなんでもありって感じだ。

 というわけで、採れたての米でさっそくご飯を炊く。


 調理能力を使えば一瞬で米がご飯になるのだが、せっかくなので昼食としてポチにご飯を炊いてもらった。

 家に土鍋があったので、土鍋ご飯だ。


「本当は昆布があったらよかったのですが――どうぞなのです」


 一粒一粒、米が立っている。

 最高の白い飯だ。

 お茶碗にご飯をよそう。

 まずは一口――あ、これはいい。

 この世界の米のはずなのだが、ゲームシステムで収穫したせいか、食べると日本のご飯そのものだ。

 コシヒカリだろうか?


「ポチ、例の物を!」

「はいなのです!」


 ポチが出してくれたのは、川魚だ。

 以前、釣っておいた魚をポチが燻製にして保存していた。

 棚に入れておけば腐ることはないらしい。


「うまい! 日本から離れてまだ数カ月なのに涙が出てきそうだ」

「これがご主人様の故郷の味なのですね」

「……これだけだと味気ないけど、いろんな料理にあいそう」


 うんうん、言いたいことはわかる。

 だが、俺は敢えて次の食べ方をする。

 でも、ご飯の可能性は無限大!

 次は塩にぎりを――


「村長! 大変だ!」


 食べようと思ったら、ガモンが入ってきた。


「どうした?」

「ゴブリンの群れが襲ってきた。数は30。結構な規模だ」


 ぐっ、ご飯が食べたいが、行かない訳にはいくまい。


「行くぞ、アム、ミスラ!」

「はい!」

「……ん。もぐもぐ」


 アムと、口の端にご飯粒を付けたミスラも立ち上がる。

 三人で家を飛び出し、地図を確認して魔物のいる方に向かった。

 幸い、畑にまで迫っていない。

 早く倒そう。




 ゴブリン退治そのものは五分で終わったんだけど、久しぶりのゴブリンの襲撃のせいで村人たちが浮足立っていて、見張りの増員や緊急時の対応について話し合うことになった。

 お飾りとはいえ村長の俺がその話し合いに参加しないわけにはいかず、結局夜まで家を留守することになった。


「あるじ、襲撃クエスト達成お疲れ様なのです」


 家に帰るなり、ポチがそう言って襲撃クエスト達成のリザルトを教えてくれた。


―――――――――――――――――――――

小規模ゴブリン襲撃クエスト


クリア時間:5分31秒

討伐数32

村人被害0


達成:ゴブリンを一匹も逃がさずにクリア

達成:畑の被害が出る前にクリア

未達成:ゴブリンスレイヤーを使って撃破

達成:道具を使わずにクリア

達成:ノーダメージでクリア

未達成:傭兵だけでクリア


ランク:B

獲得ポイント175

―――――――――――――――――――――


 ゴブリンスレイヤーに傭兵か。

 ゴブリンスレイヤーはゴブリン特化の剣で、それを作るには鍛冶場が必要だし、傭兵を雇うには酒場のレベルを上げて宿屋と冒険者ギルドを併設させる必要がある。

 現時点で達成不可のものだ。

 さて、相談だ。


 これから村に作るものとして、櫓を考えていたんだ。櫓があれば村で敵が襲ってきたとき、直ぐに対処できる。だけど、ポットクールさんとポーツ村にいっているときに、村に敵が襲ってきたら、護衛の仕事を放って村に帰還チケットで帰るわけにはいかない。

 だったら、鍛錬場を作った方がいいのではないだろうか?


「ご主人様、鍛錬場について詳しく教えていただけますか?」

「ああ。鍛錬場はレベル1の段階で五人、NP……村人を訓練させることができる。村人がそこで鍛錬に励んでいる間、俺たちが魔物を倒すと、その経験値の1パーセントが鍛錬している村人の経験値となり、レベルを上げることができる」

「……たった1パーセント?」

「ああ、たった1パーセントだ。レベルが上がれば、最大で5%まで上がるけどな。でも、魔物と戦う術を持たない村人たちが安全にレベルを上げることができる。ゴブリン程度ならレベル5になれば倒せるようになるはずだ」


 傭兵は村人より強いが、好感度を上げないと直ぐに村を去ってしまう。

 それに、酒場のレベルを上げるのには、鍛錬場を建てるよりもさらにポイントが必要になる。


「私は賛成です。そのような施設があるのなら、ゴブリンやヤンガートレントに襲われても問題ありませんからね」

「……ん。魔法研究所の礎にもなるし」


 ミスラの奴、鍛錬場レベル2と錬金工房レベル3になったら魔法研究所が作れるようになることを覚えていたのか。


「って、それよりお米! 硬くなってないよな!」

「大丈夫なのです。棚に保存したので、炊き立てほかほかなのですよ。あるじの分として塩にぎりと、そして今日はキノコの出汁でお味噌汁も作ったのです」

「おぉっ! 塩にぎりと味噌汁! 最強の組み合わせじゃないか!」


 鍛錬場のことも大切だが、いまはお米だよな!

 日本人に生まれてよかった。

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