第116話 閑話 契約魔法の設定
今回は閑話 契約魔法についての設定の閑話です。
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この世界にも慣れてきたが、気になることがいくつかある。
例えば、魔法についてだ。
「ミスラ、質問があるんだが」
「……なに?」
「この世界って、魔道具とかそういうものはあんまり一般的じゃないよな? なのに、なんで契約魔法については、一般的に使われるくらいまで広がっているんだ?」
契約魔法と言われるものは、ミスラが使う能力による魔法ではなく、むしろポットクールさんがアムを奴隷にするときに使った契約魔法の方が一般的だ。
その契約方法は簡単。
特別なインクを使い契約内容を羊皮紙などの紙に書き、その契約を履行する者が血判を押す。
するとその血とインクが混じり、身体の一部に――奴隷契約の場合は首の後ろに刺青となって刻まれる。
契約を破ると、刺青の部分が絞められていく。首や胸に刻まれていたら死に至る。
ただし、そのインクは非常に高価で簡単には使えない。
奴隷契約をするよりも、水を生み出す魔法の方が便利だと思う。
水を生み出す魔道具ができれば、干ばつとか無縁の世界になると思うんだ。
水じゃなくても、火を生み出す魔法を一般的に使われたら火付け石なんて必要なくなるし、もっといえば自動的に攻撃魔法を打ち出す銃のような魔道具があれば強いはずだ。
「……魔法を道具に付与するっていうのは本来は難しい。ミスラも水魔法に光属性を付与させて聖水っぽい物を作ってるけど、普通の水に光魔法を付与する方法はわからない」
「そうなのか? じゃあ契約魔法に使うインクってのはミスラでも作れないのか?」
「……ん。一般的に契約魔法に使うインクは人の魔法によるものではない」
人の魔法じゃない?
ってことはどういうことだ?
人以外に魔法を使える存在といえば――
「まさか――」
「……そう。契約に使われるインクは最下級悪魔の血」
「悪魔の血っ!?」
「……そう。悪魔の血には契約を破った者に呪詛の力が込められている。とても強力。それは契約する相手だけでなく自分自身にも向けられる。だから悪魔は契約を破らない。バルクニルもお父さんの魂を契約通り返してくれた」
契約魔法の魔道具だけが一般的なのは、それ専用の素材があるからってことか。
でも、契約魔法による罰則が呪いだとするのなら、万能薬を使えば治療できるんじゃないだろうか?
万能薬を使ってアムの契約を解除――は無理か。
それで解決できるのなら、ミスラの悪魔の契約も万能薬で解除できた。
契約はあくまで契約であり、状態異常ではない。
呪いが発動して、初めて状態異常なのだ。
それに、ここでアムの奴隷契約を解除できたとしても、彼女が奴隷であるという記録は残っている。
書類上の問題であろうと、それをなんとかしないと本当の解決にはならない。
「じゃあ、バルクニルを呼んで献血に協力してもらえば契約魔法用のインク作り放題だな。いっそのこと商店で売ってみるか」
「……ん、ダメ」
「契約のインクって勝手に売ったらダメなのか? でも、この村って法律の外にあるだろ?」
「……そうじゃない。バルクニルは中級悪魔。その血は強力過ぎる。契約を破ったら首が絞まったり胸が締め付けられる程度では済まない。即死」
「即死……あぁ、そういうことか」
奴隷契約の場合、主人が奴隷に犯罪行為を命令したとき、奴隷は司法機関に逃げ込むことで契約魔法を一時的に解除してもらい、犯罪行為に手を染めずにいられる緊急措置のようなものがある。
だが、即死効果のある中級悪魔の血を使えば、奴隷は絶対に逆らうことができない。
そんなもの、悪用しようとする者の手に渡ったら大変なことになる。
だから、最下級悪魔の血が使われているのか。
「それと、もう一つ理由がある」
「もう一つ?」
「中級悪魔の血による契約は、最下級悪魔の血の契約を上書きすることができる」
「上書き……それって――」
「そう。奴隷契約の解除が非常にお金がかかって、手続きが面倒なのは、契約を無効状態に上書きにするのに中級悪魔の血を使っているから。だから、中級悪魔の血を売ったりしたら大変なことになる」
うわぁ、マジか。
さっきと同じ理由で、バルクニルの血を使ってアムの奴隷契約を解除しようとは思わないが、そのバルクニルを呼び出したり強制的に従わせることができるのを知られたらかなりヤバいんじゃないか?
世の中には知らなければいいことがたくさんあるんだな……と少し後悔した。
ちなみに、ミスラが自分に掛けた契約不履行による呪いを発動させたあとで万能薬をかければ問題ないようだ。
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