第114話 働き口が決まるのは三匹と遭遇したあとで
歩いて村に戻る。
本当は帰還チケットを使って一気に帰りたかったのだが、この子どもたち三人、いまだにゲストパーティにも入っていないんだよな。
戦闘能力がないと判断したからだろうか?
万が一帰還チケットを使って子どもたちを置き去りにするようなことになったら面倒だ。
子ども三人は文句を言わずについてきた。
国境に行くと、もう顔見知りって呼んでいいんじゃないかと思う衛兵が大した取り調べもせずに通行許可を出す。
途端に、ポワとトウの顔色が緊張しだした。
彼らにとってここは法律の関与しない地獄だそうだからな。
「なぁ、盗賊とか出ないか?」
「いや、盗賊は一度しか戦ったことがないな。倒したけど」
「魔物が村を襲ってくるって聞いたことがあるんですが」
「ああ、ゴブリンに襲われてたり、ヤンガートレントに襲われていたりしたことがあったな。倒したけど」
「お兄さん、凄い!」
ルルが純粋な瞳を俺に向けて褒めたたえる。
ああ、凄いだろ凄いだろ。
子どもから尊敬の念を向けられると嬉しいな。
「ゴブリンやヤンガートレントって、低レベルの魔物だろ。そんなの一匹倒したところで――」
「ゴブリンキングも倒したぞ」
「ゴブリンキングって、Bランク相当の魔物ですよ」
トウが驚いているな。
Bランクでこれなら、ジャイアントゴーレムを倒したって言ったらどれだけ驚くだろう。
とはいえ、この状態で言うつもりはない。
こいつらがダンジョンに潜って死にそうになった原因が、そのジャイアントゴーレムの大量納品だからな。
勘のよさそうなトウなら真っ先に気付くだろう。
そんなことになったら、せっかく築き上げた彼らからの信頼が崩れ落ちるかもしれない。
話すのは折りを見てからだな。
「……ポワ、ルル疲れたよ」
「もう少しだ、我慢しろ」
さすがに六歳の子供にこの距離は辛いか。
「よかったらおんぶしてやろうか?」
「おい、ルルに変なことしたら承知しないぞ」
「さすがに六歳の子供相手に変な気は起こさないよ」
文句を言うポワをそう諭すが、
「ご主人様、それなら私が。ルル、こっちに――」
「うん、ありがとう、お姉ちゃん」
とルルはアムに背負われることになった。
するとミスラがちょいちょいと俺の袖を引っ張り、
「……トーカ様、ミスラも疲れた。おんぶ」
「しない。自分で歩け」
冗談なのは知ってるが、八歳の子供二人が歩いているのにお前をおんぶできるわけないだろう。
なんてこともあり、ようやく村に到着した。
「凄い、作物がこんなに――」
「果物もいっぱいあるぞ。本当にここが死の大地なのかよ」
「綺麗な畑!」
村の周りの畑に子供たちは大興奮している。
天の恵みの技能のお陰で、村の野菜はいつも豊作状態だからな。
いまのところ連作障害なんかも起きていない。
畑で小麦の収穫をしていた男が俺たちに気付いて手を振りながら近付いてきた。
「村長、おかえり! その子たちは?」
「ああ、村で暮らすことになった子どもたちだ。とりあえずうちの畑の雑草取りでもして働いてもらうつもりだ」
大樹の恵みは畑に効果のある能力のため、作物だけでなく雑草なども大量に生えてくる。
その世話は結構大変だ。
「そうか、息子と年齢が近いな。いい遊び相手になってくれそうだし、いいんじゃないか?」
この村には子どもの数もそれなりにいるからな。
「親がいないからな。ちゃんと働いてもらうよ。とりあえず、アムが使っていた家が空いてるだろ? そこに泊めるつもりだ。いいよな?」
「村長決めたことに文句を言う奴なんていないよ。そんな奴がいたらそいつは偽物だ。坊主共、いい人に拾われたな」
そう言われて、三人は初めて俺が村長だって知ったようだ。
「村長だったんですか? でも、この村ってガモンさんって人の村だって聞いた気がします」
「なんで村長なのにダンジョンで冒険者みたいなことをしていたんだよ」
「村長って村で一番偉い人だよね?」
まぁ、村長といっても名前だけの村長で、村長の仕事は副村長のガモンに任せているからな。
三人を家に案内する。
「とりあえず、ここが三人の家だ」
「少々三人だと窮屈だと思いますが、我慢してください」
「いや、雨風を防げるだけでもありがたいよ」
元々住んでいたアムが申し訳なさそうに言う。
ポワにしては殊勝なことを言うな。
「次に仕事場を案内する」
俺はそう言って、俺の家に案内した。
「ここが俺の家だ」
「すげぇ。うちの村の町長の家より綺麗だな」
「うん。開拓村って何もないって言っていたのに――それに、あれって酒場だよね? お酒ってこの村で作ってるの?」
「ルルもあんな家に住みたいな」
はは、拠点ポイントが貯まったら、村人の家もリニューアルできたらいいな。
確か、拠点レベルが上がったら、村全体を町に格上げするシステムがあったはずだ。
そうなったら、村全体の建物も綺麗に、そして大きくなることだろう。
ポチの仕事がかなりヤバいことになりそうだが。
家の中には入らず、そのまま裏に案内しようとすると、
「社長。おかえりなさい。ぴょん」
「ただいま、ウサピー」
ウサピーがやってきた。
子どもたちにウサピーのことを紹介する。
「その子どもたちは社長の隠し子ですか? ぴょん」
「こんなでかい子どもがいるか。町で死にそうになってたから連れて来ただけだ」
「そうですか……んー、君の名前はなんですか? ぴょん?」
「ト、トウです」
「トウくん。うちで働いてみないですか? ぴょん。研修中は一日300イリス。研修後は一日500イリス支払います。ぴょん。昇給あり、有給取得制度あり、まかない料理に福利厚生社員特典、ボーナス年二回、育児休暇も推奨しています。ぴょん」
「え? えぇ?」
「契約成立、ぴょん。じゃあ、うちで早速働いてもらいます。ぴょん」
いまのは驚いているだけで、了承しているのとは違うと思うぞ――って思っていたら、今度はミケがやってきた。
「話は聞かせてもらったにゃ」
「「「猫(さん)が喋ってるっ!?」」」
あ、うん。その反応は普通だよね。
三人には、ミケはよいどれケット・シーという名前の猫の魔物の一種で、人間の言葉を理解していて人に友好的な種族であり、この店の酒場を営んでいることを説明。
「じゃあ、そっちのおんにゃのこはオレっちの店で働いてもらうにゃ。子どもにゃらお酒を盗み飲みされる心配もにゃいからにゃ」
「猫さんと働けるの!? ルル、頑張る!」
「おい、トウ、ルル、勝手に決め――」
「じゃあ、最後の一人はポチのところで働くのですね」
「「「今度は犬(さん)!?」」」
いつの間にかポチが来た。
NPC召喚で呼ばれた三人が勢ぞろいだな。
「ポワくん。ポチのところで働くのです。裏庭の畑の管理はもちろん、錬金工房の管理、仕事は盛りだくさんで猫の手も借りたいのに、ミケも手を貸してくれないのです」
「オレっちのこれは手じゃなくて前足だから貸すことはできにゃいにゃ」
「ちょ、ちょっと待てよ。勝手に決めるな。だいたい――」
「あるじ、いいのです?」
「ああ。ポチ、ミケ、ウサピー、頼んだ」
「はいなのです」
「任せろにゃ」
「はいです、ぴょん」
三人はそれぞれ子どもたちを引っ張って、それぞれの職場に向かった。
なんか一気に解決したな。
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