第20話 昆虫食は食糧難のあとで
アムとのダンジョン探索は順調だった。
俺のレベルも12に、アムのレベルも6に上がった。
順調だった一番の理由は、なんといっても話し相手が隣にいることだな。
孤独な作業を黙々とするより、アムと一緒にダンジョンに潜っている方が楽しい。
宝箱も金色の宝箱こそ出なかったが、銀色の宝箱がさらに二個出た。
最初の銀色の宝箱を含むと三個だ。
十五個中三個は、確率的にはかなり得している。
中身は技術書(鑑定)、銅の髪飾り、子牛
「ご主人様、何故宝箱に子牛が入っているのですか?」
銀色の宝箱の中から小さな牛が出てきたときは、アムだけでなく俺にも衝撃を与えた。
「……ああ、えっと、これは便利アイテムなんだよ。ほら、道具欄に入るし」
普通、生きている動物は道具欄に入らないが、子牛は道具欄に入れることができた。
【子牛:拠点用アイテム。拠点の牧場に納品することが可能。納品後30日で成牛となり、毎日ミルクを生み出す】
という拠点で使う道具なのだ。
普通、牛乳というものは出産した後の牛から絞って出すものなのだが、この牛はなんと単体でミルクを生み出すことができるのだ。
プレイヤーからの「生物学上あり得ないのでは?」という質問に対し、開発者の金村氏が「この子牛は本物の牛ではなく古の錬金術師が生み出した魔法の生物だから問題ありません。宝箱の中から出てきたり、道具欄に収納できるのが証拠です。普通の牛は宝箱から出てきませんから」と反論したのは蒼剣ファンの間では有名な話だ。
それと、銅の髪飾りについてはこんな感じ。
【銅の髪飾り:青銅製の髪飾り。防御+2。付属効果:麻痺耐性・中】
普通、RPGの防具といえば、鎧、兜、盾なのだろうけれど、蒼剣の防具は全て装飾品である。
髪飾り、首飾り、腕輪、指輪の四種類であり、それぞれ一種類ずつ装備できる。
一応、鎧とか服も存在するのだが、見た目を変えるだけの扱いになっている。
尚、「聖剣と蒼い空」に登場するレギュラーメンバーの中に、チュンという名前の男性僧侶がいるのだが、彼だけはスキンヘッドのため髪飾りを装備できないという不遇な扱いを受けている。続編の「聖剣の蒼い大地」にも同じくスキンヘッドのキャラで老師という名前(本名不明)のキャラがいるのだが、その老師は何故か髪飾りを装備することができる。最初は理由がわからなかったが、イベントで髪飾りを髭に着けていることが判明してるんだよな。
閑話休題。
髪飾りは俺が使い、鱗の守り【睡眠耐性・小】も手に入れたのでこれはアムに装備してもらった。
他にもお金やポーション、鉄塊、魔法粘土などを入手。
鉄塊は鍛冶場ができてから使うだろうし、魔法粘土は拠点を拡張させるときに必要になるので棚に保存しておこう。
ダンジョンを出てから二人で遅い昼食を摂る。
ポチから貰ったお弁当――ハンバーガーだ。
美味しいのだが、この肉は何の肉が使われているのだろう?
考えるまでもない。蛇の肉だよな。
昨日から村人たちに素材を渡していたが大盤振る舞いしていたのに、まだまだ冷蔵庫の中に在庫が残っている状態だし、なによりそれ以外の肉がないのだから。
でもポチのことだ。
大豆からお肉を作ってくれていると信じたい。
「ご主人様、とても美味しいですね。蛇肉の癖の悪い部分を香草を使って上手に消しています」
「あ、やっぱり蛇肉なんだ」
うん、知ってた。
なんなら鑑定して確認してた。
鑑定したら【蛇肉バーガー】ってでたもん。
……いや、青虫バーガーって出てないだけよかったよ。
青虫バーガーだったら食べなかった。
それに、この蛇肉バーガー、アムの言う通り美味しいんだよな。
鑑定していなければ鶏のササミ肉かと思ったくらいだ。
「ポチに、グリーンキャタピラーの肉は使わないように言わないといけないな」
「美味しいのですが」
「うん、美味しくてもやっぱり嫌だ」
俺はそう言った。
セミは海老の味がするとか聞いたことがあるが、それだったらエビを食べる。
芋虫はピーナッツの味がすると聞いたことがあるが、それだったらピーナッツを食べる。
大丈夫だ。
この世界では蛇肉は取り放題!
食糧難になる心配はない!
蛇肉は我慢して食べるから、昆虫肉は許してくれ。
「ご主人様――」
「虫は食べないよ」
「そうではなく、嗅ぎなれぬ者たちのにおいが村に続いています。誰かが村に向かった様子です」
「匂い? 俺にはわからないが香水でもつけてたのか?」
「私達妖狐族は、人間族より嗅覚が優れていますので、微細なにおいでもわかるのです」
そうだったのか。
「ゴブリンじゃないよな?」
「違います。人のようです」
「だったら――いや、野盗の可能性もあるし、少し急ぐか」
人だったら安心だと言おうとしたが、アムの母親は野盗に殺されている。
油断はできない。
俺たちは急ぎ村に向かった。
幸い、村は荒らされた様子はない。
野盗じゃなかったのか。
「おーい、聖者様!」
村人が俺に気付いて声をかけてきた。
「誰か村に来ませんでしたか?
「そうなんだ! 来てるんだよ!」
彼は興奮するように大きな声で言った。
「村に勇者様御一行が!」
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