第19話 俺の称号はアムのあとで

 茶色い宝箱の中に入っていたのは、ポーションと500イリスだった。

 ポーションはほとんど売ってしまったので、ある程度在庫を確保しておきたい。

 中身を取った後の宝箱は消滅してなくなる。

 銀色とか金色の宝箱なんてそのまま持って帰っても価値がありそうなものだが、宝箱は固定されているのか動かすことすらできない。

 

「アム、そっちは――まだ開けてないのか?」

「はい。緊張してしまって……」

「最初の一個だもんな」


 ゲームだと宝箱の種類は魔物を倒した瞬間、宝箱の中身は宝箱を開けた瞬間に決まるという説がある。

 というのも、宝箱の種類は全てのダンジョンで共通の確率設定なのに対し、その中身はダンジョンごとに異なるテーブルが存在するから管理を別にしているという理論に基く説だ。

 なので、宝箱を開けるときに気合いを入れるアムの気持ちはわかる。

 俺もゲーム内で虹色宝箱を最初に出したときは宝箱を開ける前にゲーム画面に向かって謎の念波を送ったものだ。


「開けます」


 決心がついたのか、アムが宝箱を開ける。

 俺も一緒に中を覗く。

 中に入っていたのは一冊の本だった。


「アム、道具欄に収納してくれ」

「はい……あれ? ご主人様、触ることができません」

「あ、そうだった。俺にしか触れないんだ」

「ご主人様、その本はなんなのですか?」

「これは技能書っていう本だ。詳しく説明するとだな――」


 魔法を覚えるのが魔導書なら、能力を覚えるのが技術書である。

 能力を覚えるための書物であり、入手方法は宝箱から入手するか、拠点内の商店で拠点ポイントを払って購入するか、クエスト報酬のどれかである。

 俺が宝箱から取り出し、道具欄からアイテム名を確認――する前に、


【ダンジョンから脱出しますか?】


 とメッセージが来たので、ダンジョンから脱出を選んだ。


「――っ!? ご主人様、突然ダンジョンの外に。これは一体」

「ああ、これも俺の能力だ。ダンジョンをクリアしたら一瞬で外に出ることができるんだ」

「ご主人様の能力はけた外れのものばかりですね」


 うん、普通の人から見たらそうだよね。

 ゲームだと普通のことなんだけど。

 改めて技能書の確認をする。


【技能書(鑑定)】

 鑑定能力か。

 序盤に手に入る技能書としては便利なものだ。

 道具の説明を見ることができるし、装備類の付与効果も装備せずに見ることができる。

 手に入る人は簡単に手に入るし、手に入らない人は何十時間ダンジョンに潜っても手に入らないのが技能書だ。

 技能書は一期一会。

 今日手に入ったことに感謝し、俺は技能書を使った。


「よし、鑑定能力を獲得したぞ」

「おめでとうございます。鑑定の能力は商人にとってとても重要だと聞いたことがあります。ポットクール様も持っているとか」

「そういえば持ってたな……アムも覚えられるのか?」


 技能書は主人公にしか使えないが、レギュラーメンバーに覚えさせることはできる。

 ただし、主人公が全能力、全魔法の習得が可能なのに対し、仲間が覚える場合は適性がないと覚えさせることができない。

 ファイアボールの魔導書もこっそり使ってみたが、アムには覚えられなかった。

 魔力の数値1だもんな。

 技術書をアムに使うと念じる。

 実際に読ませる必要はない。

 俺だって読んでいなくても覚えることができたのだから。


「アム、試しに持ってる剣を鑑定すると念じてみてくれ」

「はい……あ、出ました。【ボロの剣(攻撃+2)錆びた剣を使えるように研いだ剣。いつ折れてもおかしくない】となっています」

「俺と同じ結果が出たな」


 鋼鉄の剣+3は攻撃+13と表示されている。

 試しに彼女のステータスを確認してみる。


―――――――――――――――――――――

名前:アムルタート

種族:妖狐族

職業:奴隷

レベル:6

体力:30/30

魔力:1/1


攻撃:48+13(+1)

防御:25

俊敏:45

運:25


装備:鋼鉄の剣+3 ボロの剣

生産能力:鑑定

戦闘技能:剣術(レベル2)

称号:神の遣いの従者(闇耐性+1)

―――――――――――――――――――――


 職業が村人から奴隷になっている。

 せめてステータスの表記だけでも奴隷から別の職業に変えたい。

 職業を変えるために拠点に職業酒場の建設が急がれるが、直ぐには無理だろうな。

 レベルに変化はないが、剣術技能がレベル一つ上がっていて、攻撃が4増えている。

 ボロの剣の攻撃力が半分になっているのは、アムに両手剣の能力がないからだろう。

 鋼鉄の剣で攻撃したら攻撃値61のダメージが、ボロの剣で攻撃したら攻撃値49のダメージが与えられるということになる。

 鑑定能力もきちんと覚えていた。

 それと、称号を獲得してるな。

 でも、神の遣いの従者ってなんだ?

 俺が正式に神の遣いと認められたってことか?

 俺は自分のステータスを一応確認する。


―――――――――――――――――――――

名前:トーカ

種族:ヒューム

職業:無し

レベル:11

体力74/74

魔力:145/145


攻撃:99+4

防御:26+2

俊敏:25

運:11


装備:鱗の守り【防御+2 Crt+1%】

特殊能力:聖剣召喚 共通言語

習得魔法:ファイアボール

戦闘能力:投石

回復能力:自動回復

生産能力:天の恵み 鑑定

戦闘技能:剣術(レベル12)短剣術(レベル2)槍術(レベル1)斧術(レベル3)自然魔法(レベル3)

生産技能:採掘(レベル5)伐採(レベル7)採取(レベル6)農業(レベル5)釣り(レベル5)

一般技能:瞑想(レベル11)疾走(レベル1)

称号:無し

―――――――――――――――――――――


 俺には称号がないというのに。

 俺にも神の遣いの称号があればいいのだが、そんなものはなかった。

 称号獲得はアムに先を越されてしまったようだ。

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