第18話 宝箱検証はレギュラー入りのあとで
アムが俺の奴隷になったその日、彼女には自分の家で休んでもらった。
俺の家に来てもらってもよかった――というか、ポットクールから奴隷は主人の家に住むのが普通だと言われたが、自分の家があるわけだし、いろいろあって疲れているだろうから、慣れ親しんだ家で休んだ方がいいだろうとのことだ。
それに、次の日にはアムにある検証に付き合ってもらわないといけないのだから。
翌日、俺とアムは再びダンジョンに来ていた。
一人で何度も通った場所だが、アムと来るのは初めてだ。
「アムはここには来たことがあるんだよな?」
「はい。幼い頃から母に連れられて来ていました。近年も村で農作物が採れず食糧不足になった時などは魔物の肉をこのダンジョンで集めて食糧にしていました」
魔物の肉にも美味しいものと美味しくないもの、食べられないものがあるそうだ。
食べられない魔物はクレイゴーレムのみで他の魔物は食べられる。毒はないらしい。
一番食べられたのはジャイアントスネークだそうだ。
とても大きいから食べ応えがあるし、味もそこそこ。
なにより、ボス部屋に定期的に湧くので探してまわる必要がない。
(……村長がジャイアントスネークには毒がないと言っていたが、それは牙に毒がないという意味ではなく、食べても毒がないという意味じゃないだろうな?)
少し不安になったが、アムから本当に牙に毒はないと教えてもらった。
「よし、じゃあ早速行くか」
「はい!」
最初に見つけた魔物は、またもグリーンキャタピラーだった。
ジャイアントスネークより美味しいそうだ。
糸を貯める器官を取り除いても体内の糸がべたつくので、よく熱さないといけないそうだ。
俺は絶対に食べたくない。
アムが「あーん」してくれても食べたくない。
村人の大半も同じ感想のようで、人気はない。
「アム、倒してくれ!」
「はい!」
アムが二本の剣を使いグリーンキャタピラーを倒す。
剣の舞いを見ているかのようだ。
そして、ここからが本番だ。
「アム、グリーンキャタピラーを触ることはできるか?」
「はい、大丈夫です」
「よし、じゃあ触って、回収したいと念じてくれ」
「かしこまりました」
普通なら、「何故?」という疑問が浮かび、尋ねるだろう。
だが、アムは言われるがままに行った。
すると、グリーンキャタピラーが消えたのだ。
俺はシステムメニューを確認して、さらにあることを確認する。
グリーンキャタピラーは道具欄にあった。
ただし、俺のではなく、アムの道具欄にだ。
「ご主人様、これはいったい?」
「俺の力の一部がアムにも使えるようになってるみたいなんだ。たぶん、俺の奴隷になった影響だと思う」
アムが俺の奴隷になったとき、彼女がレギュラーメンバーになったというメッセージが出た。
仲間はレギュラーメンバーとゲストメンバーの二種類に分かれる。
物語の上でのキーパーソンであり、そして主人公とともに戦うのがレギュラーメンバーであり、短い間だけ一緒に戦うのがゲストメンバーだ。
共通する点として、どちらの仲間も敵を倒せばレベルが上がるし、技能も覚える。
マップでの表示も青色だ。
異なる点を纏める。
〇レギュラーメンバー
・装備の変更が可能
・道具欄が存在し、道具の出し入れが可能し、自由に使わせることができる。
・魔導書(魔法を得る道具)、技術書(能力を得る道具)の使用が可能。
・職業変更が可能(拠点に職業酒場ができた後)であり、職業ランクも進化する。
・ずっと一緒に戦ってくれる。
〇ゲストメンバー
・装備は固定
・道具欄は存在しないが、主人公の命令がなくても持っている道具を使うことがある。
・魔導書、技能書の使用は不可能(イベントで使用することはある)
・職業変更は不可であり、職業ランクも変化しない(イベントで変更することはある)
・その名の通りイベントが終了するとパーティを抜ける。
なお、最初のダンジョン探索における村長の役割はゲストメンバーですらない、ただのモブ扱いだった。
パーティ登録されてなかったからね。
そして、レギュラーメンバーが必ず主人公とずっと一緒に戦ってくれるかというと、そうではない。
途中でパーティを一時的に抜けることもあったし、一回だけ完全にパーティから抜けていなくなることもあった。
『聖剣の蒼い空』ではレギュラーメンバーだったリディウスがやむを得ない事情で主人公を裏切って敵となり、その後最後まで再加入することはなかったのだ。
アップデートでリディウスが再加入するイベントがあるとか噂になっていたが、『聖剣の蒼い空』のクリアデータがあると『聖剣の蒼い大地』でゲストメンバーとして登場するとか噂があったが、どちらも現実にはならなかった。
そして、今回俺が重要視しているもう一つの違いがある。
〇レギュラーメンバー
運の値が宝箱のレア度に影響を及ぼす。
〇ゲストメンバー
運の値が宝箱のレア度に影響を及ぼさない。
ダンジョンでボスを倒したときに手に入る宝箱。
通常は茶色い宝箱だが、
この変化率について、有志による調査が行われた。
宝箱が茶色から銀色に変化する確率=仲間の最大の運の値×0.5%(上限25%)+仲間全員の運の値の合計値×0.1%(上限25%)+能力やアイテムによる上昇という式が導き出された。
たとえば、俺の運の値は11だ。
つまり、宝箱が変化する確率は5.5%+1.1%=6.6%となる。
参考数値は少ないがこれまでの茶色宝箱の銀色宝箱への変化率は1/18=5.6%とそこそこ近い値になっている。
だが、運の値が20のアムが加入したことで、宝箱が変化する確率は
10%+3.1%でなんと13.1%にまで上昇したのだ。
ちなみに、銀色から金色への変化の確率は、上の確率の半分、つまり6.55%、さらに虹色への進化はその半分の3.27……いくらだ?
茶色から虹色までの進化する確率を計算すると0.03%くらい?
虹色宝箱は当分出ないな。
でも、金色の宝箱が1%というのは少し現実的になってきた。
運の値はレベルアップでも上昇しないので、こうしたレギュラーメンバーの加入はダンジョン攻略のモチベーションアップに繋がる。
今日はダンジョンを何周かして、アムの加入が期待値通り影響するかの検証をしたい。
「つまり、アムのお陰でダンジョンで珍しいものが見つかる可能性がぐんと上がったってことだ」
「宝箱ですか。ダンジョンの中で極稀に見つかると聞いたことがあります。母はダンジョンに何度も潜っていましたが、一度しか見たことがなかったそうで、この鋼鉄の剣はその時に見つけたものだと言っていました」
その剣、いいものだと思っていたがダンジョン産だったのか。
茶色い宝箱からは武器は出ないので銀色の宝箱だろうか?
いや、アムの母親は俺のゲームの能力を持っていないから、俺が知っている宝箱とは違うのだろう。
「じゃあ見に行こうか」
俺とアムはダンジョンの最奥へと向かった。
出てきたのはいつも通りジャイアントスネークだ。
先制のファイアボールも様になってきた。
俺がファイアボールを放つと同時に、アムが前に出る。
ジャイアントスネークの攻撃を一度躱した。
尻尾の攻撃が来るぞ! と警告しようとしたがやめた。
アムは何度かジャイアントスネークを倒していると言っていたからだ。
警告しなかったのは正しかった。
アムは二度目の尻尾の攻撃をさらに躱したのだ。
尻尾の攻撃は威力が低い分、速くて躱しにくい。何度か避けようと試しても躱せなかったのに。結果、攻撃を受けながら倒す方法を取ってきたのだが、アムはしっかり攻撃を躱して倒していた。
俊敏値の差だけではない。
恐らく、躱して攻撃をするのが彼女の戦闘スタイルなのだ。
「ご主人様のお陰で楽に倒すことができました。死体は回収致します」
「いや、アムの実力があってこそだよ。うん、回収お願い」
鱗の守りは無しか。
俺の経験だとジャイアントスネークの鱗の守りのドロップ率1/3(二回しか落としていないのでまだまだデータ不足だが)。
魔物のドロップ率と運の数値に関連性があるのも有志の調査により確認済みなので今回見つかるとは思っていなかった。
俺が見たかったのは宝箱の方だ。
「おっ! いきなり来たな!」
銀色の宝箱が一つ、茶色の宝箱が二つだ。
「何もないところから宝箱が! これもアイリス様から与えられたご主人様の能力なのですね」
「うん、その一つ。じゃあ、俺は茶色の宝箱を開けるからアムは銀色のを開けてみてよ」
ビギナーズラックに期待だ。
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