第21話 拠点拡張はゴブリンキング退治のあとで-1

「勇者が来てるのですか?」


 あれ? 勇者って俺じゃなかったのか?

 アイリス様の話だと俺は勇者として召喚されたはずなのだが。

 俺の召喚に失敗したから別の勇者が召喚されたのだろうか?

 それとも現地人勇者か?


「いや、勇者様御一行だ。勇者様は来てない」

「そうなんですか」

「それでなんだが、その勇者様御一行が是非、聖者様にお会いしたいとのことなんだ。会ってくれるか?」

「いいですよ。俺もこの村の一員ですし」


 もしかして、俺を勇者として迎えに来たのだろうか?

 だとしても、ここを拠点に頑張らないとなぁ。

 そう思って村長の家に向かった。

 村長の家は、村の中では俺の家の次に大きく、集会場を兼ねている。


「失礼します」


 中にいた人の中で見たことがない人物は女性が二人。

 赤い髪の騎士風の女性と、青い髪の修道女っぽい女性の二人だ。

 どちらも若い――二十歳かその手前くらいだろうか?


「おお、聖者様、アム! こっちだ! 騎士様、紹介する。この人が聖者様だ」

「はじめまして。トーカと申します。彼女は俺の従者のアムルタートです」


 俺は胸に手を当てて、一礼をする。

 隣にいるアムも黙って頭を下げる。


「丁寧なあいさつ痛み入る。私はトランクル王国はハスティア・ジオ・イリア・クリオネルです」

「握手はもういいでしょう」


 騎士っぽい女性――ハスティアが手を差し出したので、握手を交わすと、二秒ほどで修道女が俺の手を引っ込ませる。

 握手会のはがし屋以上の手際の良さだ。


「私はメンフィスと申します。見ての通り修道女で、ハスティア様の従者をしています。ハスティア様はクリオネル侯爵家のご息女です。話をするときは跪くべきではありませんか?」

「よせ、メンフィス。ここは王国内ではないのだ、彼らも王国の民ではない。身分など何の関係もなく、我々はお世話になっている客人なのだぞ」


 今の流れだけを見ると、ハスティアは優しい貴族のように思える。

 実は事前に打ち合わせをしていて敢えてメンフィスにきつい態度を取らせ、ハスティアが寛大な姿を見せることで心の広い貴族を演じているだけかもしれないが、そこまで疑ってかかったら切りがない。

 最初から貴族だからといって尊大な態度を取られるよりははるかにいい。


「ところでトーカ殿は聖者様と呼ばれるそうだな? なんでも、村の畑の作物を個人ユニーク能力により急成長させることができたとか」

「このあたりの土地と私の能力の相性がよかったみたいですね。私自身、初めての経験です。私の以前いたところではこんなことにはなりませんでしたから。ここ以外の土地では効果がないかもしれません」

「そうなのか? その力があれば我が父の領地で役立てて欲しいと思ったのだがそのような事情では仕方ない」


 ハスティアが残念そうに言う。

 まぁ、こんな能力、どこにでも使えるとなったら大変なことになるからな。


「俺からも質問をしていいですか?」

「ええ、何でも聞いてくれ」

「勇者様御一行と伺ったのですが、勇者様は一緒ではないのですか?」


 勇者は来ていないと事前に聞いていたが、別行動をとっているのだろうか?

 俺が尋ねると、ハスティアは小さくうなずいた。


「ええ、これからお迎えにあがるところだ」

「お迎えに?」

「先日、国の占術師が見通したのです。南のブルグ聖国にて勇者召喚の儀式が行われたと。なので、私は勇者様の伴となるべく、ブルグ聖国に向かっている途中なんだ」


 勇者召喚――気になるキーワードが出てきたな。

 それってやっぱり俺のことだろうか?

 でも、俺が呼ばれたのはそのブルグ聖国という場所ではないのだが。

 あと、それでハスティアたちが勇者一行と名乗るのは間違いではないか?

 占術の精度がどのくらいかはわからないが、仮に聖ブルグ王国で勇者召喚が行われたのが事実だとしても 聖ブルグ王国に行ったところで、その勇者が従者として認めてくれるとは限らないだろう。

 確証があるとしても、まだ勇者に会ってすらいないというのならやはり勇者一行というのはどうかと思う。

 名前を付けるとすれば勇者の追っかけだな。


「あなた、ハスティア様に何か言いたげですね」

「いえ、俺は勇者様がどんな人なのかと想像していただけです」


 メンフィスが睨んでくるので、俺はそう言ってごまかした。


「聖者様も勇者様には興味があるのか? いいだろう、お教えしよう。これはあくまで私の想像なのだが、勇者様は魔王を倒すために異なる世界から召喚されたと聞く。魔王に匹敵するのだ。その身の丈は常人の倍。少なくとも四メートルは上回るであるかと思われる」


 はい?

 身の丈四メートルって、それ人間じゃないだろ。

 アフリカ象よりでかい。

 キリンとかそういうレベルの身長だ。

 少なくとも地球にはそんな人間はいない。

 ギネス記録でも2メートル70から80くらいだったと思う。

 異世界だと巨人族とかいるのだろうか?

 さらにハスティアは続ける。


「そして、目は赤く光り、頭には角が生え、口から火を吐き、背中の翼で空を飛ぶのだ! 私は幼いころから勇者様の背に乗り冒険することに憧れていた」


 どこの化け物だそれは!

 そして、勇者が乗りもの扱いされてるじゃないか。

 ハスティアの想像という前置きがあってよかった。

 これが公式に記録として残っているようなら、きっとその勇者は人間ではなく悪魔だったに違いない。


「あぁ……幼い頃の妄想を大人になっても尚抱き続けるハスティア様、素敵です」


 メンフィスはそんな化け物みたいな勇者と一緒に旅をしたいのか?

 と隣にいる修道女を見ると、うっとりとした目でハスティアを見ていた。

 いろいろダメだ、この二人。


「そうですか。それは是非お会いしたいものです……どうぞ今晩は村でゆっくりお休みください」

「村長にもそう言ってもらえた。感謝する。そういえば、先ほど聞いたのだが、近くのダンジョンでゴブリンキングが発生したそうだな。今晩世話になる礼だ。私達が退治に行こうではないか」


 へぇ、ハスティアがゴブリンキングを退治してくれるのか。

 そりゃ村としては助かる。

 見たところ、ゴブリンキングなんて余裕で倒せるって雰囲気を出しているし、任せても……よくない!

 ゴブリンキングを倒されたら拠点クエストが達成できないじゃないか!

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