第22話 拠点拡張はゴブリンキング退治のあとで-2

 拠点クエストというのは、ストーリーとは関係がない。

 その名の通り拠点を発展させるために必要なクエストだ。

 拠点クエストを達成すると拠点ポイントがもらえ、拠点の施設を追加・拡張させたり、拠点ショップで商品を増やしたりすることができる。

 拠点クエストはファンの間で二種類に分かれる。

 強クエストと弱クエストだ。

 強クエストは大量にポイントが手に入るクエストであり、弱クエストはポイントがほとんど手に入らない上、とにかく時間がかかる。

 そのため、大概のプレイヤーは拠点拡張にポイントが僅かに足りないとき以外に弱クエストは受けたりしない。

 強クエストを達成すると、別の強クエストが現れることがある。

 そして、強クエストはストーリーイベントの進行とともに発生し、ストーリーイベントの進行とともに消失する。


 今回の【ゴブリンキング撃破(報酬:50ポイント)】は間違いなく拠点クエストの中でも強クエストだ。


 ゲームと同じ仕様なら、ゲームをクリアしたら達成できなかった強クエストは全部受けることができるようになるのだが、この世界でゲームクリアが何を示すのかわからない。もしかしたら、クリアなんてないのかもしれない。

 さらに、ゲームだと襲撃イベントのポイントにより拠点ポイントが手に入り、やり直してハイスコアを更新するごとに拠点ポイントが手に入るのだが、この世界ではやり直しができない。

 つまり、拠点ポイントの入手は一発勝負。

 なので、たかが50ポイントであろうと強クエストを達成できないと辛い。


「お気持ちはありがたいのですが、ハスティア様は勇者様をお迎えに行かれる旅の途中。ゴブリンキングの退治は私とアムルタートが行いますので、どうかお二人はブルグ聖国にお急ぎください。勇者様があなたを待っています」


 俺がそう言うと、メンフィスが当然だと言いたげに頷いた。


「村人にしては正しい判断です。聖者と呼ばれるだけのことはありますね。ハスティア様、この者の言う通り、我々は旅を続けましょう」

「いいや、メンフィス。我々は勇者様とともに旅をするのだ。困っている人を放って旅をしたことが勇者様に知られたら従者失格の烙印をおされるだろう。なにしろ、通常の人間は五つの感覚器しか存在しないのに対し、私の想像では勇者様には八つの感覚器官があり、そのうちの一つの感覚器官を持って他者の心を読むことができるのだ」


 んなわけあるか!

 なんだよ、八つの器官って。

 読心術が一つとして、あと二つはなんだ?

 ナチュラルにセブンセンシズ超越してるんじゃねぇよ。


「本当に、俺が倒しますんで必要ないです」

「貴様、ハスティア様の好意を無下にするつもりか?」


 メンフィスはどっちの味方なんだよ。

 あぁ、でも拠点クエストとか話して納得してくれるとは思わないし、どう言えばいいんだ?

 このままだと拠点クエストが……


「ハスティア様。ゴブリンキングは私達が倒さなければならない敵なのです。どうかその矛を収めてはくれませんか?」


 そう言ったのは控えていたアムだった。


「君達が倒さないといけない理由、聞かせてもらえるだろうか?」

「ゴブリンキングは私の母の仇なのです」


 ……?

 どういうことあ?

 アムの母親は野盗に殺されたって聞いたんだが。


「かつてこの村を野盗が襲いました。野盗そのものは大した脅威ではなかったのですが、野盗の長は魔物使いでして、恐ろしい魔物を率いていたのです」

「魔物使いの野盗……もしや百獣の牙団か? 魔物使いの個人ユニーク能力を持つS級手配犯だ」

「はい。野盗に襲われたとき、母は隙を見て背後に控える魔物使いの男を倒しました。ですが、その野盗の長は倒れる間際、その場にいた魔物に一言命じました。『自分以外の人間を殺せ』と。その後、野盗たちはリーダーを除き、仲間だったはずの魔物に殺され、そして母もまた村を守るために魔物と戦い、命を落としたのです。そこに野盗のリーダーの姿はありませんでした」

「話はわかった。それで、ゴブリンキングが仇というのは?」

「ゴブリンキングを倒しに行ったとき私は見ました。その首に刺青があるのを。かつて母が倒した魔物と同じ、その百獣の牙のリーダーの配下である魔物の証です。だから、ゴブリンキングは母の仇の魔物の一匹であると同時に、母の意思を継ぎ倒さなければならない魔物なのです」


 アムとゴブリンキングの間にそんな因縁があったなんて。

 彼女が危険を顧みずゴブリンのいる洞窟に向かったのも、もしかしたらその洞窟のゴブリンキングが、その事件の残党だと気付いてのことだったのかもしれない。


「事情はわかった。それなら、私達も同行しよう。四人でゴブリンキングを倒す。それでどうだろうか?」

「必要ありません。私とご主人様の二人で十分です」

「しかし、直ぐに倒せるのか? 聞いた話では君はゴブリンキングに一度破れたそうではないか。聖者様は強いがまだ退治には行っていない。あまり退治を長引かせると村人達も不安に思うだろう」


 ハスティアの言い分はもっともだ。

 だから俺は言った。


「近々倒しますよ。だからご心配なく」


 そう言ったが、ハスティアは「わかった」とはならない。


「なら、一週間だ。それだけ待つ。それで無理だと判断したのなら四人で退治に向かう。別に二人でも四人でも仇を打つには変わりないだろう」


 彼女はそう言うと、袋から革袋を取り出して村長に渡す。

 中身はお金で、村に居座る間の滞在費のようだ。

 四人で倒してもゴブリンキングクエスト達成はできそうだが巣窟のダンジョンの場合でも宝箱が出てくる可能性がある。俺の力はできれば二人には見られたくない。

 二人で倒す期限は一週間。

 一週間以内にゴブリンキング退治――問題ない。

 最初からそのくらいの期間で倒そうと思っていたところだ。

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