第五章

第228話 ダンジョン廃人生活は書類仕事のあとで

 俺たちの村にもいろいろな設備が揃ってきた。

 転移門、職業酒場、鍛冶場、錬金工房、商店、櫓、鍛錬場、牧場、畑。

 さらに、自宅のレベルも1から2にあがり、部屋数や設備が充実。二階もできた。

 冷蔵庫にも冷凍機能も追加され、アイスクリームが作られ、村人に振舞われていて、いま村ではちょっとしたブームになっている。

 転移門の利用や港町トーラスから運ばれてくる魚介類や交易品を求めて多くの行商人が村を訪れてお金を落としていき、住民も増えてきた。

 そして、村は町に進化した。


 いやぁ、ようやくだ。

 俺が留守をしている間、ちょっと大きな盗賊団が村を襲撃してくれたらしいが、それを村の自警団だけで対処してくれて、討伐ポイントが加算されたのが大きい。


「それにしても、本当にみんな強くなったよな」

「はい。全てはご主人様の指導のたまものです」


 アムはそう言うけれど、俺が彼らに何かを伝えたということはないと思う。

 それでも自警団だった連中は、レベルが20相当の強さに上がっていた。

 俺たちが外で魔物を倒していたその経験値が僅かに加算されたのだ。

 もちろん、彼らが鍛錬場で真面目に鍛錬をした結果なのは間違いない。

 装備も鍛冶場でそこそこいいものを鍛えて揃えている。

 盗賊のレベルは一桁か、多くて十代前半なので、そりゃ盗賊団も圧倒できるわ。

 自警団の連中はこれまでボランティアで村を守っていたが、町に成長したので正式に兵士として召し抱えることにした。もちろん、強制ではなく希望者のみと言ったのだが、辞退する者は誰もいなかった。

 まぁ、俺たちのここが正式に国として認められたら、彼らを騎士として取り立てる予定だって言われたらそりゃな。

 さらに、南西部の村もいくつか加入し、転移門が設置され、新国家を築くための準備は着実に進んでいる。

 ブエナ公国から駐在大使としてマクールが派遣されて来たのは少し驚いた。

 まぁ、全く知らない人よりは相手しやすいので構わないが。

 

 牧場ができたので、ようやくこれまでダンジョンで手に入れてきた家畜たちが放されている。

 お陰で、牛乳や卵が安定供給され、ポチの料理の幅が大幅に増え、毎日のように新作料理が振舞われている。

 その家畜の世話をしているのは、魔物使いのフィリップだ。

 フィリップは、少し前に南のカンテツの村の近くを捩じろにしていた盗賊団に捕まっていた少年で、そのまま村に世話になっていたんだけど、牧場ができたことで彼をスカウトすることにした。

 魔物使いの能力は牧場の家畜たちにも有効である。

 相変わらずスライムとは一緒にいるそうで、そのスライムも牧場の家畜たちやパトラッシュとも随分と仲良くなっている。


 村の娯楽も充実してきた。

 酒場に設置されたゲームボックスのモグラたたき。こちらは値段を自由に設定できるらしく、一回一イリスに設定。

 UFOキャッチャーの百分の一の価格は村人にもちょうどよく、たちまち人気機種に。

 ちなみに、記録が張り出され、アムが満点の堂々一位の位置に名を刻み、モグラクラッシャー(クリティカル確率1%増)の称号を手に入れていた。

 俺も何度か挑戦したが、満点には届かない。

 俊敏の値だけでは足りない反射神経を求められているんだよな。


 とまぁ、いまのところこの世界の神の影もなく、平和に過ごしている俺たちだったが――


「トーカ様、書類を持って参り……トーカ様っ! アムさん⁉ ミスラさんっ!?」

「あぁ……リーナ。そこに置いててくれ」

「どうなさったんですか!? 皆さん、死んだような目になってますよ」


 リーナが慌てて俺たちに駆け寄る。

 俺だけでなく、アムとミスラももう限界だった。

 そう、俺たちは最近、ダンジョンに行けていないのだ。

 町の人口が大幅に増えて、それに対して仕事も増えた。

 ただでさえ、アムは苦手な書類仕事を手伝ってくれて、ミスラは村人たちに魔術について教える仕事もあるので、猶更時間が取れない。

 蒼剣システム廃人の俺にとっても、宝箱廃人のアムやミスラにとってもこれは由々しき事態だ。


「なるほど。それでしたらちょうどいいですね」

「ちょうどいい? 何がだ?」

「実は南西の村の近くに恐ろしい魔物が棲むダンジョンがあることが判明したんです」


 ダンジョンという言葉に、アムの狐耳とミスラのエルフ耳がピクピクっと反応した。


「そこの調査に誰かを派遣しないといけないと思っていたのですが、皆さんで一緒に行きませんか?」

「俺たちが行ってもいいのか? ウサピーが許してくれなかったんだが」


 本来であればウサピーの命令に俺が従う必要はないのだが、俺の何十倍の書類を処理している彼女を見ると休んでいられれなかった。

 それなのに、本当に休んでいいの?


「はい。書類仕事もとりあえずこれで一区切りつきましたので」


 マジか!

 リーナの声に俺たちは立ち上がる。

 そして、俺は最後の仕事に取り掛かる。


「明日からダンジョン探索再開だ! これまで行けなかった分を取り戻すぞ!」

「「はい!」」

「休みは明日だけですよ。明後日はブルグ聖国から使者が来ますので」


 えー、聞いてないぞ。

 だったら、明日を目いっぱい楽しむしかないか。

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