第229話 南西のダンジョンはゴブリンの巣のあとで

 新しく併合した村で歓待を受けそうになったが、なんとか逃げ出すことに成功。

 今日一日しか期限がないから、ダンジョン探索を楽しまないと損だ。

 宝箱廃人仲間のマクールも一緒に行きたいと言ったが、大使としての仕事があると部下に首根っこ掴まれて去っていった。

 あいつもあいつで大変らしい。

 大使の仕事だけじゃなく、ゴーレムの修復も並行して行っているらしい。

 ゴーレムを作るところを見せてもらいたいと言ったのだが、国家機密だからと断られた。そんな国家機密を持ち出していいのだろうか?

 それより、今はダンジョンだ。


「今回のダンジョンは結構ヤバイらしいぞ」

「楽しみですね」

「……ん、楽しみ」


 気を引き締めるために言ったのだが、むしろ気が緩んでしまった。

 高難度のダンジョンの方が宝箱の中身もいいものが多いとわかっているらしい。


「皆さん、油断してはいけませんよ。常勝無敗と言われても一度の敗北で命を失うのが戦いに身を置くものなんですから」


 リーナが注意喚起をすることで、アムとミスラが気を引き締めた。

 まるで学級委員長とか生徒会長みたいだな。

 ということで、ダンジョンだ。


「ご主人様、ここなのですか? ただのゴブリンの巣穴に見えますが」

「……ゴブリンは留守みたい」


 ミスラが魔法で光の玉を作って飛ばす。

 中は薄暗いが、ゴブリンの気配はない。

 こんなところ、用事が無かったら入りたいとは思わないだろう。

 だが、ダンジョンの入り口はこの奥にあるらしい。

 近くの村の狩人が、この洞窟を貯蔵庫として使えないかと思って調べたそうだ。ゴブリンの痕跡があったので早々に諦めたそうだが、その時に偶然、ダンジョンの入り口を発見したらしい。

 しかも、少し奥に進むと恐ろしいドラゴンに遭遇したとか。

 その村人は直ぐに逃げ出した。

 話半分に聞いても恐ろしいダンジョンであるのは間違いない。

 洞窟の中に入る。

 ゴブリンが捕まえてきたらしい獣の骨が散らかっていた。

 掃除とかはしないのか?

 

「この部屋は? 凄い臭いがするんだが」

「死体を放置する部屋のようですね。ゴブリンには埋葬の文化はございませんが、同族食いをする種族でもないので、死体は専用の部屋に放置されると学びました」


 俺は部屋の中は見ないで消臭剤をぶん投げた。 

 以前、ゴブリンキングが現れたとき、洞窟の奥まで行かなくてよかった。

 あの規模の群れだったら、死体部屋はどうなっていたことやら。

 とまぁ、ゴブリンの巣穴を通り過ぎるとさらに地下に続く階段があって、そこから先がダンジョンになっているらしい。


「これは見つかりませんね」

「……深すぎ」


 ゴブリンを全滅させようとする意図がなければ、わざわざこんな洞窟の奥深くに来ない。

 全滅させても、どうせ他の場所からゴブリンがやってきて居座るから、絶滅させようとは思わない。

 ということで、ようやくダンジョンの中に入っていく。

 もう十分探索した気がするが、正真正銘のダンジョン探索が始まる。

 とりあえず、このダンジョンの名前は洞窟のダンジョンと呼ぶことにしよう。


 それで――


「こいつがドラゴンか」


 話に聞いていた通り、ドラゴンはいた。

 空を飛ぶドラゴンだ。

 ただしかなり小さい。

 パトラッシュより少し大きいくらいか?

 チビドラゴンって感じだな。

 これなら怯える必要が――


「……水よ顕現せよ」


 油断していたら小さなドラゴンが炎を吐き出したが、ミスラが水の膜を生み出して炎を防いだ。

 チビでもドラゴンはドラゴンということらしいが、ミスラの魔法に完全に防がれる炎しか吐けないからまだまだだな

 そして、ミスラが魔法で作った水の膜は役目を終えると無数の刃の形に分離し、ドラゴンに降り注いだ。

 あれに見覚えがある。


「ミスラ、それってスクルドが使っていた魔法か?」

「……ん。研究して使えるようになった。ただ、あれほどの威力はまだない」


 研究して使えるようになったって、そう簡単に使えるようなものじゃないだろう。

 と思っていたら、さっきのチビドラゴンが三匹追加で現れた。

 そして、三匹が同時に炎を吐き出そうとしている。

 今度は俺の番――


「おいでませ、サラマンダー様!」


 リーナがそう言うと、サラマンダーが現れ炎を吐いてチビドラゴンたちの炎を相殺、いや、圧倒して逆に炎に包みこんだ。

 二匹には逃げられたが、真ん中の一匹は逃げ遅れて火だるまになってる。

 火を扱わせたらサラマンダーの方がドラゴンより上……って待て待て!


「リーナ、精霊はダンジョンの中だと使えないって言っていなかったか?」

「はい。ですが、このサラマンダー様はダンジョンの中で生まれた存在のようで、ダンジョンの中で活動しても平気のようです。メディスンスライムさんも同様に活動可能です」


 そんな隠し機能があったのか。

 なんか、みんな成長しているな。

 と言いつつ、俺とアムは、炎を浴びてもなお飛んで襲い掛かって来るチビドラゴンたちを一太刀で切り伏せた。

 なんとか活躍の場を作ることができたな。

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