第230話 ニャーバンクルは魔導猫のあとで
新しく見つかった洞窟のダンジョンだが、結構いい。
採取ポイント、釣りポイント、採掘ポイント、虫取りポイントが全部揃っている。
特にダンジョン内での虫取りポイントは珍しい。
採掘ポイントを掘って出てきたのはトーラ王国地下のダンジョンと同じくらいの質の鉱石だった。
つまり、ここは難易度の高いダンジョンということだ。
そんなダンジョンで、俺たちは全力で猫を追いかけていた。
「絶対に逃がすな!」
「はい!」
「……ん!」
ダンジョンの中にいたのは、魔導猫と呼ばれるダンジョンの中では珍しい魔物。
頭の魔石に溜め込んだ魔力を使って魔法攻撃をしたあと、魔力が無くなると逃げ出すというヒット&アウェイの魔物。だが、こいつが重要なのは、倒し続けるとアドモンとしてニャーバンクルが出てくることだ。
額の魔石が宝石に変わり、強力な魔力を持つ精霊だ。
精霊――すなわち、リーナの契約対象である。
しかし、この魔導猫倒しがうまいこといかない。
攻撃したあと直ぐに逃げるうえ、逃げる方向に別の魔物が高確率でいる。
アドモンを出すには同じ魔物を倒し続けないといけない以上、盾にされた魔物を倒すわけにはいかない。
つまり、逃がさないのが一番いいのだ。
「……土よ顕現せよ!」
土の壁がコの字型にせり上がり、逃げる魔導猫の行く手を阻む。
「そこだっ!」
俺は短剣を魔導猫に対して振るうも、魔導猫は壁を三角蹴りの要領で登り、上方から逃げようとする。
が、それも想定のうち。
俺の位置からは壁のせいで見えないが、壁の向こう側から炎が吹き上がった。
壁を生み出したのはあくまで目くらまし。
その本命は、リーナが召喚した壁の向こう側のサラマンダーに気付かせないこと。
壁を無事に越えた油断した魔導猫はその炎にくるまれて倒れた。
正直言えば、俺がもう少し速く走れば壁を登る前に倒せたんだけど、そこは倒し方を模索しているところなのでな。
「今回は倒せましたが、壁の向こう側に精霊様を召喚するのは神経を使いますね。別の方法で倒したいです」
「……ん。コの字型の壁を作るのも面倒」
とまぁ、今回の作戦は不評だな。
「ニャーキャットはまだ出ないかな」
「無事に契約できればいいのですが……」
と思っていたら、目があった。
緑色の空を飛ぶ額に宝石のある猫――ニャーバンクルだ。
ニャーバンクルはこっちを見るなり何もせずに逃げ出した!
俺が一歩出る前に、アムが駆けていた。
三角蹴りで逃げ出した魔導猫の俊敏性も大したものだったが、アムに比べると大人と子どもくらいの差があるな。
彼女はニャーバンクルに追いつくと、大きく跳躍、くるりと回って天井を蹴るとニャーバンクルの行く手を遮り――
「止まりなさい」
剣を向けた。
ニャーバンクルは急ブレーキをし、方向転換を試みる。
既に俺も追いついている。
それでもニャーバンクルは俺の頭上を越えて逃げようとするが――
「……風よ顕現せよ」
ミスラの生み出した下降気流がニャーバンクルの上昇を阻止し、結果俺の方に飛んでくることになった。
少し痛いが我慢しろよ!
俺は手加減を使いながらも、黒鉄の短剣で切り飛ばす。
手加減をしているので、完全に切り裂けず、吹っ飛ばす形になってしまった。
その飛ばされた場所にいたのが、リーナが召喚したメディスンスライムだ。
その柔らかい身体でニャーバンクルを受け止めると、横にいたリーナが王家の指輪を前に出す。
「我が名は精霊使いアイリーナ――精霊の御霊よ、我が願いに応えその力を授けたまえ」
ニャーバンクルの身体が指輪の中に入っていく。
そして、そこに赤い宝箱が残った。
契約完了かな?
「皆さん、無事に契約できました。ありがとうございま……あの、皆さん?」
ああ、リーナが何か言ってるけれど、悪い。
俺たち三人とも赤い宝箱の前に鎮座していた。
「ご主人様、ニャーバンクルの宝箱に特徴はありますか?」
「そうだな。ニャーバンクルはネタ装備が多い。猫の杖とか猫足グローブとか」
「……魔導書は?」
「レインボーキャノンだな。火、水、風、土、光、闇、無の七属性の魔力の合わせ技。ただし、魔力の充填に時間がかかる。カーバンクルやニャーバンクルの使う技でもある。ただし、ニャーバンクルからの出現率は激低だから期待するな」
「……ん。それは無理な相談」
まぁ、期待するなって言う方が無理だよな。
「じゃあ、契約を祝ってリーナ、開けてみるか」
「よろしいのですか? その……魔導書が出なければミスラさんに怒られそうな雰囲気ですが」
「はははは」
俺は笑ってごまかした。
だったらミスラに開けさせればいいって思うかもしれないが、ここでミスラに譲ったら今後一生ミスラに開けてもらわないといけないからな。
ということで、リーナ! どんと開けてくれ!
リーナは緊張する様子で赤色宝箱を開けた。
「……これは……猫?」
そこに入っていたのは、大きな黒猫の全身服だった。
「黒猫の着ぐるみだな! 当たりだぞ」
「当たりなのですか?」
「ああ、着ていると俊敏+5、さらに氷ダメージ半減! アバター衣装の中でも結構便利だ。俊敏が上がるなら、アム、着てみるか?」
アムの猫服姿を想像するだけで悶え苦しんでしまうな。
楽しみだ――と思ったのだが、
「申し訳ありませんが、嫌です」
まさかの即拒否を食らった。
いつもなら俺の頼みならすんなり受け入れてくれる彼女の初めての言葉に驚く。
「私は妖狐族であることに誇りを持っています。猫獣人の真似はしたくありません」
そういうことか。
俺の世界だと可愛い衣装で済むのだが、獣人が実際にいるこの世界では、別の種族の真似ってなるのか。
アムの価値観的にそれは許せないらしい。
「じゃあ、リーナ。着ておくか」
「あの、トーカ様が着るというのは?」
「ははは、男の猫コスなんて誰得だよ」
そんなの俺が認めないよ。
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