第231話 グリーンドラゴン退治は着替えたあとで

 リーナが猫の着ぐるみに着替えた。

 その場で着替えたんだけど、アバター衣装システムを使ってるので生着替えシーンは一切ない。


「あの……トーカ様。これ、脚が出すぎじゃないですか?」


 リーナが恥ずかしそうに言う。

 膝上十センチから足首までが生足だ。

 脚フェチにはたまらない光景だろう。

 脚フェチじゃないと思っている俺ですら、今の姿をスクショで保存したいと思ってしまう。


「あの、貴族や王族は脚を見せるのははしたないと言われて育ったので――」


 リーナがズボンの裾を下に引っ張ってなんとか太ももを隠そうとしている。

 このままずっと見ていたいが、嫌がる服装をこれ以上強制するのも違うと思うので、元の服装に戻ってもらった。

 ちょっと勿体ないな。

 ちゃんと結婚して二人きりになったとき、着てもらうとしよう。


「……トーカ様、望みならミスラが着る」

「ミスラが着たら似合い過ぎて取返しのつかないことになりそうだからな」


 俺はミスラをどうにか同い年の女の子として見ようとしているのに、彼女が猫の着ぐるみを見たら、幼さが際立つ。

 結果、小さな子どもを相手にしているような背徳感を抱いてしまいかねない。

 ということで、猫の着ぐるみは封印することになった。


 その後もダンジョンの奥に向かう。

 三階層の奥でボス部屋を見つけた。

 地図を見ると、ボス部屋ではあるが、ゴールではないらしい。

 さらに奥にダンジョンが続いていくようだ。

 中に入ると、体長三メートルはある緑色の鱗のドラゴンがいた。


「ボスはグリーンドラゴンか……ドラゴンの中でも弱い方だけど、これまでのボスよりは強い。リーナはニャーバンクルを召喚! 魔力充填を始めてくれ! ミスラは牽制、俺とアムはいつも通りだ」

「「はい」」「……ん」


 俺とアムは同時にスポットライトを使った。

 リーナはニャーバンクルを呼び出し、その額の宝石に魔力を流して充填を始める。

 生半可な攻撃ではドラゴンの鱗を貫けない。

 本来、グリーンドラゴンは空を飛ぶので接近戦で戦うことはできないが、天井の低いこの階層では自由に空を飛ぶことはできないからな。

 俺もアムも大剣で勝負――


「ってアム? なんでマグロ?」


 三天断罪刀はどうしたんだ?

 と思ったら、そっちも持っている。

 まさか、大剣で二刀流をするのか!?

 アムの戦闘スタイルは元々二刀流だったが、大剣でそれをしたことはない。


「スクルドとの戦いで思いました。私はいまのままではご主人様の右腕にはなれません。強くならないといけないのです」


 彼女はそう言って、マグロと三天断罪刀を同時に操る。

 いや、まだ完全に操り切れていないな。

 振り遅れている。

 それでも戦えている。

 俺も負けてられない。

 聖剣に二刀流はないけれど――


「兜割り!」


 大きく振り下ろした黒鉄の大剣がドラゴンの眉間にぶち当たる。

 鱗がはじけ飛んだ。

 ドラゴンの鱗って高値で売れるから壊し過ぎたらウサピーに怒られそうな気がするな。


「……サンダーボルト」


 砕けた鱗の部分にミスラが雷魔法を撃ちこむ。

 おぉ、効いてる効いてる。

 ドラゴンの鱗は魔防の力があるが、あの威力なら鱗が砕けていなくても攻撃が通っていただろう。


「アクセルターン!」

「ダブルスラッシュ」


 俺の回転攻撃がグリーンドラゴンの足に当たり、そしてアムの二連攻撃――二刀流なので四連攻撃がグリーンドラゴンに当たる。

 もう一息だ。


「どいてください!」


 リーナが叫ぶと、俺とアムは左右にどいた。

 そして、


「ニャーバンクル様、お願いします!」


 ニャーバンクルが鳴いて、頭から光線のような魔力を放った。

 それはグリーンドラゴンの胸を貫き、それがトドメとなった。

 グリーンドラゴンが倒れ、金色宝箱2つと銀色宝箱が3つが現れた。


「おぉ、初めての全昇格!」


 ゲームだと結構見たことがあったけど、こっちに来てから初めてだよな。


「おめでとうございます、ご主人様」

「……ん、おめでとう、トーカ様」

「ありがとう。でも、そういうのは俺の目を見て言ってほしいな」


 アムとミスラは金色宝箱の前に釘付けだった。

 リーナは遠慮して銀色宝箱の前に座る。

 あぁ、うん。

 じゃあ、俺は残りの銀色宝箱の前に座るか。

 

「よし、今日は趣向を変えて、全員一斉オープンするか!」

「それは豪勢ですね」

「……ん、贅沢」


 ということで全員で宝箱を開ける。

 中身は……ドラゴンのぬいぐるみだ。

 特別な効果はないけれど、自宅に設置するとなんかかわいい。

 

「トーカ様、私は調理レシピでした」

「ああ、多分ドラゴンの肉を使った料理だな。ドラゴンステーキとか作れそうだ」


 さて、アムとミスラはなんだろう?

 ミスラが喜んでいないから彼女の宝箱が魔導書じゃないのは確かだ。

 でも、あれは落ち込んでもいない。

 完全なハズレではなさそうだ。


「……ん」


 彼女は宝箱の中からお地蔵様を取り出す。福寄せ地蔵だ。

 二体目だな。

 戦闘に応じて福引補助券や福引券が手に入る設置型アイテム。

 俺としては魔導書よりありがたい。


「トーカ様、謎の卵が出ました」

「ねぇ、謎の卵か」


 牧場レベル2で魔物を孵化させることができる卵――って⁉


「アム、それ、謎の卵じゃないぞ!」

「え? 違うのですか?」

「ああ、模様が違う。それはドラゴンの卵だ!」


 ドラゴンのボスを倒したとき、金色宝箱から1%、虹色宝箱から5%の確率で出現する激レアドロップだ。

 

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