第61話 ダンジョンからの帰還は三周廻ったあとで

「……魔導書!」


 ミスラが金色宝箱に猛ダッシュするが、俺はすかさず割って入ったインターセプト

 町のダンジョンの金色宝箱から魔導書が出た記憶がフラッシュバックしたのだろう。


「待て、ミスラ。気持ちはわかるが、物事には順序がある。まずはドロップアイテムの確認からだ」


 俺は道具欄を確認する。

 俺のドロップアイテムは――よし、あった!

 黒い木。

 取り出す。

 木というよりは枝に近い。

 真っ黒な枝を使うと、枝は消滅し、聖剣、黒木の杖が解放された。


「ご主人様、申し訳ありません。ピンクピーチの苗ではなく、桃の苗でした」

「いやいや、桃の苗でも十分いいぞ。さっきも言ったが、ピンクピーチの苗は激レアだからな。そう簡単に手に入らないんだ。さて……」

「……宝箱」


 ミスラは桃の苗より宝箱――いや、魔導書だな。

 意地悪して茶色宝箱から順番に開けるか?

 とも思ったが、まぁミスラがレギュラーメンバーになって初めての宝箱だ。

 ここは開ける権利をやろうではないか。


「いいぞ、開けても」

「……ありがとう、トーカ様」


 ミスラが俺に礼を言って宝箱を開ける。


「……本! 魔導書!」

「何っ!?」


 彼女は本を取るなり、それを魔導書だと理解した。

 鑑定能力、覚えてないよな?

 あ、本に書いてあるタイトルでわかったのか。

 そうか、魔導書に対する情念は物欲ではなく知識欲だから、物欲センサーの対象外だとでもいうのか?

 鑑定の結果、魔導書は「ウォーターガン」の魔法を覚えるための魔導書だと判明。

 水系の初級魔法だな。


「でも、ウォーターガンの魔法なら、さっきミスラが使ってた水の魔法の方が威力が高そうだぞ」

「……たぶんそう。でも、この魔導書の知識を取り入れることでミスラの魔法の威力は高まる」


 なんとっ!?

 そういえば、ミスラの使っていた火の魔法って、結構威力が高かった。

 魔力は俺より低いはずなのに、俺より高威力だったよな?

 蒼剣の魔法の知識をこの世界の魔法に活かせば、威力が高くなるというのか。

 ぐっ、だが俺は負けんぞ。


「ご主人様、こちらも開けていいですか?」


 アムが尻尾を振って銀色宝箱の前で鎮座している。

 お預けを食らっている犬みたいで可愛い。

 犬じゃなくて狐だけど。


「一緒に開けよう」

「はい!」


 この銀色宝箱は初回クリア報酬の確定銀宝箱だな。

 俺とアムは一緒に宝箱を開けた。

 中に入っていたのはドッグフードか。

 さすがに欲しいものは続かない。

 でも、ポチにお土産ができたからヨシとしよう。

 茶色宝箱からは2000イリスとポーション五本が手に入った。

 そして、ダンジョンから脱出を選択。


「……転移の罠?」

「そういやミスラは初めてだったな。俺はダンジョンをクリアしたら外に一瞬で出ることができるんだ。町のダンジョンだと外にいる人に見られたら困るから脱出をしなかったが、ここなら問題ないだろ?」

「……相変わらずトーカ様は秘密が多い」

「まぁな。まだまだこんなの序の口だぞ」


 俺はそう言うと、黒木の杖を取り出し、さっき見つけた蜂の巣に向かった。

 さっきと同じように蜂の巣に石をぶつけ、出てきた蜂に対してウォーターガンを発射。

 今回は虫取りをするつもりはないので、水をぶつけたら早々に離脱。

 それを繰り返し、俺の杖術と自然魔法の技能レベルは10に到達した。

 魔力が大幅に上昇する。

 それでも、蒼剣をやっていたときに比べれば同じレベルでもステータスが低いんだよな。


 改めてダンジョン周回に入る。

 主にひとくいオレンジの種集めと、ロケット人参の魔核集めだな。

 ロケット人参、二回目は宝箱が出なかった。

 そして、二周目のビックリピーチも茶色宝箱三個、ドロップアイテムは黒い枝のみというしょっぱい結果に終わった。

 ロケット人参を出すのに時間がかかっているので、休憩時間を挟んで次に行う三周目がラストとなる。


「……赤宝箱! 魔導書!」


 三周目のアドモンからは赤宝箱が出た。

 勝率約67%。うんうん、いいぞいいぞ。

 知識欲が物欲センサーを回避するという法則を信じ、ミスラに宝箱を開ける権利を譲ってみた。

 だが、中に入っていたのはウサギの髪飾りだった。

 【防御+1俊敏+4】という速度が上がる髪飾りで、付属効果として【取得経験値+10%】とある。

 強くなりたいと願うミスラに渡すか、それとも速度重視で戦うアムに渡すか悩むところだが、俊敏値が上がってボス退治の速度が上がれば結果的にレベル上げ効率も上がるということで、アムに装備してもらうことになった。

 それが結果的によかったのだろう。

 三周目、最後のボス戦。

 今回はミスラにも攻撃に参加してもらうことにした。

 ただし、水の魔法で。

 植物系の魔物は基本水に耐性を持つため、水魔法で攻撃をするのは悪手であるのだが、その反面、ヘイトが溜まりにくく、水魔法で攻撃をしてもタゲが取られにくいという特徴があるからだ。

 三周目。

 俺は武器を紅石の剣に持ち替える。

 完全クリアを目指す。

 アムにも攻撃力の落ちる盗賊切りではなく、通常攻撃で戦ってもらう。

 ピンクピーチはお預けだ。


「パワーレイズ!」


 ボス部屋に入る前に、二周目のボスを倒したとき、修道士の職業レベル3になって覚えた攻撃力強化のバフ魔法を俺とアムに掛ける。


「サンダーボルト」

「水よ顕現せよ」


 開戦と同時に俺の雷の魔法とミスラの水魔法が同時に放たれる。

 ミスラの水魔法、蜂に使ってたときよりかなり威力が上がってるな。休憩時間中に読んでいた魔導書の効果が出ている……いや、単純にレベルが上がって魔力の値が増えただけか。

 ミスラのレベルは4から10まで一気に成長していた。

 種を躱して攻撃をするのも三周目となると慣れたものだ。

 種バズーカを躱したらすかさず攻撃をする。

 ビックリピーチが一回転した。

 種マシンガンが来る準備をしている。

 しかし、俺たちは攻撃の手を止めない。

 今の攻撃力なら、種マシンガンが来る前にトドメを刺せるはずだ。

 そして――それはなった。


「金色宝箱! 完全クリア来た! しかも銀色二個だ!」

「ご主人様、早く開けましょう」

「……魔導書」


 うんうん、二人も宝箱本当に好きだよね。

 魔導書はさっき出たからもういいだろ、ミスラ。


「でも、ドロップアイテムの確認からな」

「そうでした……ご主人様! ピンクピーチの苗があります!」

「マジか!?」


 確かに職業が盗賊だと、スティール系の能力を使わなくてもスティール品を手に入れることができるが、盗賊切りを使ったときより確率が落ちるんだぞ?

 それなのにピンクピーチの苗が出るって……あれか? ピンクピーチを諦めたことで、物欲センサーから回避できたのか?


 続いて、宝箱だ。

 金色宝箱を誰が開けるか?


「じゃあ、アム。金色を頼む。俺とミスラは銀色担当な」

「ありがとうございます」

「…………魔導書」


 ミスラは残念そうにしていたが、物欲センサー回避があるかもしれないから我慢しろ。

 それに、銀色宝箱から魔導書が出ることもあるんだぞ。


「では、開けます……これは卵ですね」

「ああ、なぞたまか」

「なぞたま?」

「謎の卵。略してなぞたま。卵ガチャとも言われてる。正式名称は魔物の卵。牧場レベル2になると孵化器が設置され、そこに置くと魔物が孵化するんだ。孵化した魔物はテイムスキルがなくても仲間になる。ただし、何が孵るかは孵化してみるまでわからないから〝なぞたま″だ。当たりだぞ。偉いな、アム」

「ありがとうございます」


 次に銀色宝箱を開ける。

 俺のは大きな宝石(ダイヤモンド)か。

 本来なら素材として使うものだが、この世界なら売る方がいいな。

 お金に困ったらポットクール商会に持って行こう。


「……魔導書! じゃない」

「技術書じゃないか……お、しかもスポットライト! これは当たりだぞ」

「どのような能力でしょうか?」

「使ってみるよ」


 俺はさっそくスポットライトを覚えた。

 そして、使ってみる。


 すると、俺の頭上から光が落ちてきた。

 光が出るのに魔法じゃなくて能力なのは、これが踊り子の職業でも覚えらえる能力だからだ。


「……それだけ?」

「見た目はな。でも、戦闘中に使うと、魔物のタゲを得やすい効果があるんだ。タンク(仲間を庇う役割の人)御用達の能力だぞ」


 冷めた目で見るミスラに俺がこの能力の有用性を説いた。

 さっきの戦いだって、もしも俺がスポットライトを使えたら俺にタゲを集中させることができ、ミスラには普通に威力の高い火の魔法を使わせることだってできた。


「ということで、これは便利な能力だ。よくやった」


 俺はミスラのとんがり帽子越しに頭を撫でた。

 すると、彼女は恥ずかしそうにしながらも帽子を取り、


「……直接」


 と言ったので、髪を撫でた。

 ミスラの髪はさらさらしていて触り心地がいいな。


「ご主人様、私もお願いします」

「そうだな。アムも当たりだもんな。偉いぞ」


 と彼女の頭を撫でる。

 こっちの髪はふわふわだ。

 ああ、癖になりそうだ。


「……トーカ様、そろそろ」

「ああ、悪い」


 調子に乗り過ぎた。

 ミスラが帽子を恥ずかしそうに帽子を被る。

 最後に茶色宝箱の中身を回収し、ダンジョンから脱出。

 外はすっかり夜になっていた。


「よし、じゃあ帰るか」

「夜道を歩くのは危険ではないでしょうか? ダンジョンの安全地帯で野宿をした方がいいかと」

「……賛成。ついでにアドモンとボスを倒す」


 二人がそう言うが、しかし俺は今晩は家で寝たい気分だ。


「いや、いまから帰る。この帰還チケットを使ってな」


 転移門はもう完成しているはずだ。

 だったら帰還チケットを使えば一瞬で家に帰ることができる。

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