第60話 桃の奥の手は体力が少なくなったあとで

 まさか、いきなりドリンクバーを手に入れるとは。

 植物型のアドモンからのドロップ率1%(一回限り)のアイテム。狙っても出ない人はとことん出ないからな。

 一応、カジノでも商品として並ぶのだがかなり高額な上、結局こちらでも運とお金と時間が必要となる。

 なので、宝箱から手に入れられたのは大きい。


「……ドリンクバーってなに?」


 ミスラが尋ねる。


「ふふふ、ドリンクバーってのは通称でな。正確には薬精製タンクって名称の拠点設置型アイテムだな。酒場レベル1から設置できる」

「薬精製ということは、ポーションなどを精製できるということでしょうか?」

「鋭いな、アム。だが間違いだ。ドリンクバーで精製できるのはステータスが恒久的に上げる薬だ!」

「「――っ!?」」


 その凄さにアムもミスラも驚いたようだな。


「……必要な素材はなに?」

「それはこれだ!」 


 俺は道具欄に入っていた石を取り出した。


「魔核――アドモンを倒すと落とす魔物の心臓みたいなものだ。魔物の種類に応じて違う。ロケット人参の魔核は魔力の値が5上がる魔力薬の素材だな。同じアドモンから作った薬でステータスが上がるのは一回目だけ。二回目以降飲むと経験値になる」


 この経験値というのが該当するアドモン一回討伐分の経験値に等しい。

 なので、倒し過ぎたアドモンの魔核から作った薬を保存しておき、低レベルの仲間が加わったときに飲ませることで一気にレベルを上げることができる。

 何度もおかわりして飲むキャラの様子がドリンクバーと呼ばれる所以だ。

 ゲーム中、ドンドン魔核が集まっていくのに全くドリンクバーが手に入らず、棚の中が魔核だらけになるなんてよくあることで、そういう人は魔核コレクターとか揶揄されていた。

 実際、魔核は売っても50ドラゴと安く、ドリンクバーを持っていない人は、棚の中にコレクションのように飾るしか使い道がなかったのだ。

 なので一発目からドリンクバーが手に入ったのは嬉しい。


「魔力が上がるのなら、もう一回倒す?」

「待て待て。残念だが、アドモンをもう一度出すには、ダンジョンを一度出ないといけない。だから、次はボスを倒す」

「……残念。でも、次こそは魔導書」


 そんなこと言ってたら、物欲センサーに引っかかるぞ。

 ドリンクバー出ただけで満足しておけよ。

 

 俺たちはボスの部屋に向かった。

 とりあえず、地図百パーセントを目指すのは今度でいいだろう。

 ダンジョンのボスは蒼剣通りだとビックリピーチだろう。

 アムが病気の時にお母さんが持ってきたというあの桃だ。

 ボス部屋の前の安全地帯で最後の確認を行う。


「ここからはボスがビックリピーチだと仮定して話すぞ。ビックリピーチは巨大な種を飛ばしてくる種鉄砲が厄介だ。煉瓦くらいなら普通に叩き割る威力がある。くぼんでいる部分を向けてきたらすぐに避難しろ。それと、ミスラは部屋の端にいろ。今回は魔法を使わなくていい。下手に魔法を使ってヘイトを与えてタゲを向けられたら困る。回復魔法も使わなくていい」

「……ヘイト? タゲ?」

「ビックリピーチを怒らせてミスラ目掛けて種を飛ばしてくると困るって意味だ」


 その後、俺はビックリピーチの体力が三割を切ったときの対処法についても説明をする。


「……わかった。まだレベルが低いから仕方がない。トーカ様とアムに任せる」

「うん、それとアムは可能な限り盗賊切りで攻撃してくれ。ビックリピーチが持ってる激レアドロップのピンクピーチの苗は盗賊のスティール系の能力でも手に入る。確率は低いが手に入れたい」

「かしこまりました」

「じゃあ行くぞ!」


 俺たちはボス部屋に入った。

 やはりビックリピーチが待ち構えていた。

 

 ミスラはボスの方を見たまあ部屋の端、右方向に移動。ただし、完全に隅に移動すると逃げ場がなくなるので、あくまで端だ。

 そして、俺とアムはミスラが逃げたのとは反対方向から回り込むように移動。

 ビックリピーチのくぼみがこちらを向くと同時に種が飛んで来た。

 ミサイル人参と同じだが、速度が全然違う。

 ゲームだと桃の形と種の大きさのせいで、ネットでは下ネタ扱いされていた攻撃だが、しかし実際に戦ってみると厄介だ。


 躱せない――と思った次の瞬間、俺は斧を取り出し、その側面で種を受け止める。

 が、完全に防ぎきれず、軌道がそれた種が俺の脚に当たった。


「ご主人様」

「大丈夫だ! 種を充填するまで十秒ある。今のうちの攻撃だ。サンダーボルト!」


 雷の魔法を放つと同時に、道具欄にあるポーションを使用して脚を回復し、俺も走った。

 サンダーボルトの後、アムの二本の剣と俺の斧の攻撃を受けても、尚ビックリピーチは倒れない。

 やはりボス、一味違うな。 

 飛んできて顔にかかった桃果汁を舌で舐めて次の攻撃に備えた。 

 今度はアムの方に種を飛ばすが、彼女の俊敏なら難なく躱せる。

 俺が今度はソニックブームで剣戟を飛ばした次の瞬間、ビックリピーチがくるりと回転した。


「連射来るぞ! 走れ!」


 ビックリピーチの体力が少なくなったときの必殺技。

 種マシンガンだ。

 次々に飛んでくる種を、ビックリピーチから見て横方向に走って躱す。

 ミスラに当たらないように方向にも注意をして。

 飛ばしてくる種の数は三十発。

 それがようやく尽きた。


「桃の癖に何発も種を飛ばすなよ――普通は一発だろうが」


 クールタイム明けの俺のサンダーボルトの直後、アムの盗賊切りが命中。

 ビックリピーチは力なく地面に落ち、そして宝箱が四つ現れた。

 四つ、完全クリアはならず。

 なのに――


「通常宝箱の金箱昇格来たっ!」


 金色宝箱と銀色宝箱が仲良く鎮座していたのだ。

 

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