第59話 ロケットはミサイルのあとで
「ミスラ、無茶をしないでくれ。痛かっただろ?」
ヒールを使ったのだろう。彼女のどこに酸が掛かったのかわからなくなっている。
そうでなかったら赤くただれて火傷のようになっていたはずだ。
ヒールは怪我を治す。
だが、痛みが直ぐに消えるわけではない。
「……蜂の群れに突っ込むようなトーカ様が言う?」
「うっ……まぁ、あれは絶対に死なないってわかってたからだし、一応、厚手の布で身体を覆ってたぞ? アムなんて全然刺されてないし」
「……だったら私も」
「ダメだ。わざと攻撃食らうの禁止。身体魔法の技能レベルの上げ方はちゃんと用意できると思うから、俺と一緒にレベルを上げよう」
「……わかった。トーカ様を信じる」
これでいいか。
さて、ドロップアイテムに、人食いオレンジの種、焼きオレンジが入っている。
人食いオレンジは激レアドロップでサニーオレンジの苗を落とすのだが、ドロップ率0.3%と激低なので期待は……してたけどしていない。
3%で手に入るレアアイテムのオレンジの苗は欲しいな。
ダンジョンの奥に進む。
人参が地面の中から出てきたのはビックリしたな。
ミサイル人参という名前の魔物で、地面の下からミサイルのように噴射してくる。
こいつも蒼剣に登場し、突然地面の中から出てきたと思ったら、フィールド上で地面に潜ろうとするアクションを取り、だいたい五秒ほどで地面に潜る。そしてまた噴射してくる。
こちらでも同じだった。
つまり、地面に潜ろうとするときが無防備なのだ。
噴射する場所とタイミングも、地面が隆起してから0.5秒後なので、それを理解していれば躱すことはたわいもない。
最初は攻撃を躱すことに集中し、地面に落ちたところで倒す。
初見では恐ろしい魔物でも、それさえ知っていれば雑魚モンスターだ。
「凄いです。初めて見る魔物ですが、ご主人様の仰った通りにすれば楽に倒せました。ご主人様はここの魔物については詳しいのですね」
「まぁな」
蒼剣に青果店ダンジョンと呼ばれる序盤に行けるダンジョンがあるのだが、ここに出てくる魔物が同じだった。
何故、ゲームと現実異世界の魔物が同じなのかはわからないが、俺のゲームの知識が役に立つ。
ん? ってことはここにあれも出るのか?
試してみたい。
「アム、ミスラ! ダンジョンの奥を目指すつもりだったが、予定変更だ。このままミサイルニンジンを探して集中的に倒す。他の魔物が出てきても無視しろ――というか絶対に倒すな」
「わかりました」
「……ん、わかった」
地図でも、薄い赤を徹底的に捜して倒す。
倒す、倒す。
他の魔物が出てきても全力で逃げる。
ドロップアイテムが人参だらけだ。
俺がウサギか馬だったら歓喜していただろう。
レアアイテムの人参の苗が手に入ったが、ここまで人参があるとわざわざ畑で育てる必要があるか? と疑問に思うほどに集まった。
だが、目的の現象が起こらない。
やっぱりゲームと現実異世界は違うのだろうか? それとも物欲センサー、また貴様か?
と思ったその時だ。
地図に濃い赤が突然表示される。
強い魔物――十中八九目的の魔物だ。
「いまから倒す魔物も攻略法はこれまでと同じだが、全てが速い。地面の隆起から出てくるまで0.3秒、地面に潜るまで3秒。そして、一撃がとにかく重い。間違って攻撃を受けたら俺とアムでも大打撃、ミスラなら一撃で体力を持っていかれる。だからミスラは離れたところで待機。絶対に近付くな」
「わかりました」
「……わかった」
よし、行くぞ。
俺は地面を集中してみる。
隆起した。
ゲームでも何度も行ったこの瞬間、身体に染みついているかのように後ろに退いて躱す。
その直後、俺の目の前をそいつが通過した。
金色の人参――ロケット人参だ。
魔物の中には、その種類だけ倒し続けると上位種を呼ぶ魔物がいる。
その上位種の魔物が、アドバンスモンスター、略してアドモンだ。
他の種類の魔物を倒すとカウントがリセットされるので、狙って出さなければ現れない。
だが、アドモンは狙うだけの価値のある魔物だ。
アドモンは討伐推奨レベルが非常に高くなるため、本来ならレベルにかなり余裕がなければ手を出してはいけないのだが、ロケット人参だけはミサイル人参と同じように完全攻略が可能な魔物なので倒せる。
ロケット人参が地面に突き刺さった。
「いまだ!」
俺は斧で、アムが剣で攻撃をする。
だが、硬い。
まるで岩を叩いているかのようだ。
地面の中に逃げられる。
「また来るぞ! 注意しろ!」
ミスラは離れている。
あそこまではいかない。
狙うのは俺か? それともアムか?
現れたのはアムの方だった。
声を出すのが間に合わない。
だが、アムは自分で気付き、ミサイル人参の時と同様に攻撃を躱す。
落ちてきた人参に対し、俺とアムが同時に仕掛けた。
スコーンっ!
気持ちのいい爽快感、クリティカルが出た。
ロケット人参は倒れ、そして現れた。
「赤色宝箱だ!」
「ボスでなくても宝箱を落とすのですね。赤色? 銀色より価値は低いのですか?」
「アドモン――ロケット人参は赤色宝箱しか落とさないんだ。確率は五割、つまり半々だ」
宝箱出現率50%という確率、高いようで低い。
運がよければポンポンポンって連続で出るのだが、運が悪いときには本当に出ない。
八連続ハズレというワースト記録も持っている。
俺はこれを個人的にニゴロの悪夢と呼んでいる(八連続ハズレを引く確率が1/256なので)。
「そして、俺個人的には銀色宝箱より赤宝箱の方が好きだ。ロケット人参専用の道具が入っているからな。たとえばロケット人参だと、ロケットフレアという魔法が使える魔導書が入っていたりする。かなり確率は低いが」
「……魔導書っ!?」
ミスラが食いついた。
でも、さっき言ったように確率激低だからそんなに食いつかれても物欲センサーに邪魔されて手に入らないぞ?
「開けてもいいですか?」
「……開けたい」
「待て、アム、ミスラ。俺が開ける」
「仕方がありません、今回はお譲りします」
「……無念」
アムとミスラが渋々という感じで俺に譲ってくれた。
二人とも、そこまで開けたかったのか。
でも、今回は譲らない。
最初の宝箱は俺のものだ。
「こ……これはっ!?」
中に入っていたのは大きな白い容器だった。
「……魔導書じゃない」
ミスラが露骨にガッカリするが、俺からしたら天にも昇る気持ちになった。
「これはドリンクバーだ!」
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