第145話 ポーツ村に行くのはトーラ国に入ったあとで

 死の大地からトーラ国に入るための検問所が見えた。

 死の大地の海岸は切り立った崖が多く、潮の流れも急なためそこで生活をするには不便なのか、村はないのだそうだ。

 なので、ここからトーラ国に入り、漁村で船を借りてポーツ村を目指す。


 トーラ国は魔法使いの多い国であり、様々な魔法の研究機関も存在する。

 冒険者ギルドのランクと同様、魔法使いにもランクが存在し、国内外問わず魔法を使える人間なら誰でも試験を受けることができ、そのランクに応じて様々な特権が与えられる魔法使いファーストの国。

 海岸に面した国であり、かつ国土の三割は島であることから、造船業も盛んな土地であり、遠い大陸との貿易も行っているため、国の北東部の港町に行けば珍品に出会うことも可能なのだとか。


 ただ、自由都市から出発する前にトンプソンが妙なことを言っていた。

 ここ一カ月、トーラ国から入って来る人の数が全くいないとのこと。

 これまでは多くはないが、週に何組かは国を捨てた人間や行商人が訪れていたので、こんなに誰も来ないことはなかったという。

 もしかしたら国境封鎖されているかもしれないから気を付けろ――と言われていた。

 当然、俺たちは警戒していたが――


「……検問所に人がいない?」


 国境封鎖どころか、無人で素通りできる状態だった。


「通行税を払わなくてもいいのは助かりますが、少々不気味ですね。建物の中を調べてみましょうか?」

「誰もいないのは間違いなさそうです」


 地図を確認しても周囲に人を示すマークはない。

 建物を見るも争った形跡などは見つからない。


 国境を越えたからといって何も変わらないんじゃないかと思ったが、道が綺麗になったのか、馬車の揺れが急に少なくなった。


「国が管理していると街道も整備されているんですね」

「いえ、前に来たときはここまで整備されていなかったのですが――」


 ポットクールさんが言った。

 最近、整備されたのだろうか?

 と考えていたら、地図に反応があった。


「この先に大勢の気配がしますね。十五程度――一応慎重に進んでもらえますか?」

「わかりました」


 色は白なので魔物や盗賊ではないと思う。

 それに、しっかり隊列が整っている。

 ただ、街道を塞ぐように広がっているのが気になるな。


「会頭、見えてきました。どうやらこの国の騎士団のようです」

「騎士団ですか……厄介なことにならなければいいのですが……」


 ポットクールさんがため息とともに言う。

 このパターンで厄介事にならない可能性は少ないと思うが。




 騎士は地図で確認できた十五人。

 一人は馬に乗っていい装備をしている隊長さんと、完全武装の十二人、魔法使いっぽいローブを着た人が二人いた。

 盗賊の変装にしては立派すぎる装備だし、偽騎士団ということはないと思う。

 国境の検問所には誰もいないのに、こんな街道に騎士が十五人いるってのは変な感じだ。


「そこの馬車、停まれ!」


 当然のように、俺たちの乗っている馬車は騎士団に停められた。

 そして馬車に乗っている全員、馬車から降りるように言われる。

 ポットクールさんだけでなく、俺たちの身分証明書も提出させられ、馬車の中の荷物も全て検めさせられた。

 その間に俺たちは全員身分証を提出させられ、隊長らしき人がポットクールさんにここを通る理由を説明させられた。

 

「隊長、隠れている者も怪しい物はありません。荷はほとんどが食糧のようです」

「そうか。話の通りだな。いいだろう、全員戻れ」


 荷物を検めた騎士たちは再び街道を塞ぐように隊列を組む。

 そして、隊長さんらしき人が俺に尋ねた。


「この先の検問所から来たのだったな。検問所の様子はどうだった?」

「誰もいませんでした。そのため、通行税を支払うこともできませんでした。もしもお許しをいただけるのであれば、この場で支払いさせていただきます」

「それはできない。我々は税を徴収する立場にはないからだ。だからといってあなたたちを罪に問うことはないので安心してもらいたい」


 荷物を検められたときは財産没収する横暴な騎士団の可能性も考えられたが、話のわかる騎士隊長のようだ。

 ポチのこともアムが従魔だと説明したら、それ以上尋ねられることはなかった。

 最初は高圧的な態度だったが、騎士団が下手に出るのは国の威信を傷つけることに繋がるので、ある程度は仕方がないのだろう。


「それで、ポーツ村に行くためにハンバルの漁村に行きたいのだったな」

「ええ、その通りです。通ってもよろしいでしょうか?」

「ここを通ることは許可できない」


 話が分かる騎士団だと思ったばかりでこれか。

 通ることができないって、町も村も何もないこんな場所で立ち往生しろっていうのか?

 ここまで来て引き返せって言われるのは辛い。

 だが、その後隊長さんが言った言葉は予想外のものだった。


「ハンバルの漁村はこの先にはないからだ」

「…………? 漁村がないとはどういうことでしょうか? ハンバルの漁村は街道沿いの村のはずですけれど」

「そもそも、この道は街道ではないのだ」


 ……はい?

 街道じゃないって、じゃあなんなんだ?

 俺が気になったことをポットクールさんも当然尋ねる。

 すると、隊長さんは困ったように言う。


「わからない。突然、本来の街道が途中から途絶え、代わりにこの道が現れたのだ」


 道が突然消えて、別の道が現れた?

 そんな、都市経営シミュレーションゲームじゃあるまいし、道が簡単に消えて新しい道ができるものなのか?

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