第144話 ウサピーに文句を言うのはお風呂に入ったあとで
トンプソンたちマフィアがユサキ商会の傘下に入った。
具体的には幹部会の承認を得てからの話になるが、既にウサピーが過半数の幹部に根回しを済ませていて、さらに首領のトンプソンがそれを受け入れたとなったら反対する人間はいないだろうとのこと。
考えてみれば、チビがポチの下についている時点で、ポチがマフィアの本拠地に入っているのが確定だから、トンプソンとポチの繋がりにも気付くべきだったのかもしれない……ってさすがにそれは無理だ。
「アムもミスラも何も言わなかったけれど、いいのかよ。マフィアが傘下に入るんだぞ?」
「はい、いいと思います」
「……ん、問題ない」
焦ってるのは俺だけなのか?
「問題が起きても、小規模な組織相手なら、私たちの方が強いですから」
「……トーカ様も言ってた。戦争しても勝てる」
そりゃ俺も戦争すれば勝てるって言ったが、傘下となるとなぁ。
「ポチさんとウサピーさんに任せておけば、間違いはないでしょう」
「そう……だな。結局、二人に任せることになるわけか」
さっき、この場所をサブ拠点に設定するかってシステムメッセージが届いた。
幹部会の承認が下りたのだろう。
結局、サブ拠点の設定を完了させた。
俺が任せることになったポチは、現在転移門の設置に向かっている。
誰でも使える場所ではなく、マフィアの幹部クラス専用の居住区にあるトンプソンの住む屋敷の庭に設置するそうだ。
さらに、この町だけでなく、トンプソンの組織が統治しているという村も同時にサブ拠点になったため、そこにもいずれ転移門を設置するらしい。いまからだと明日の出発時間には間に合わないので、以前、宝箱から出たドッグフードを使って急いで設置を済ませるらしい。
このペースで転移門を繋げていったら、本当に死の大地全体が転移門で繋がりそうだな。
「それで、この町にも転移門ができるわけですか……やはり聖者様は死の大地に国を興すつもりですか?」
夕食時、ポットクールさんに今日あったことを説明したら、呆れられたようにそう言われた。
やはりってなんですか、やはりって。
ため息をついたところに、料理が運ばれてくる。
って、あれ?
この野菜――
「これ、うちの村で作ってる野菜じゃん」
「ウサピーさんが早速利用しているのでしょう。聖者様の村は野菜や穀物が供給過多の状態で在庫がダボついている状態ですからね。私が仕入れていただいたものの中にも、聖者様の村の食材や物資が多量に含まれておりましたよ。商売はタイミングと申しますが、なんともズル……羨ましいことで」
ポチの建築もウサピーの商売も速すぎるだろ。
まぁ、美味しい野菜を使った料理を食べられるので文句は言わない。
「ご主人様、転移門ができたってことは――」
「……ミスラたちも使えるってことだよね?」
アムとミスラが何か期待に満ちた目で俺に尋ねる。
そりゃ俺たちが使うことも可能……って、そうか!
「……あぁ、ポットクールさん、出発は夜明けと同時ですよね? そして、この宿では護衛は必要ないと」
「ええ、そうですが、どうかしましたか?」
「いえ、転移門がの設置ができたのなら、宿じゃなくて村に戻って自分の家で休んできます」
家に帰ればお風呂もあるし、トイレにはウォシュレットもあるし、宿のベッドより自分の家のベッドの方が寝やすいし、なにより防音が優れている。
「あぁ……そういうことですか。ええ、問題ありません。明日の朝、お待ちしております」
「ありがとうございます、失礼します」
こうして、俺とアムとミスラは転移門を使って自宅に帰ったのだった。
自宅に帰ると、ポチが家の掃除をしていた。
見かけないと思ったらポチも帰ってたのか。
でも、なんで掃除?
「誰もいなくても汚れは溜まっていくのです。毎日掃除をしないと落ち着かないのです」
ポチ、もしかして掃除をしたいがために転移門を設置したんじゃないだろうな?
ウサピーに報告ついでに文句を言いに商店に行きたいが、その前に二日ぶりの風呂に入ってさっぱりしたい気持ちが勝った。
消臭剤を使ったとはいえ、ラフレンキノコの臭いもちゃんと落としたかったからだ。
そして、お風呂に入ったら家から出ていく気力がなくなるのはいつものことで、俺たちはそのままベッドに行くのだった。
翌朝、夜明け前には転移門を使って自由都市に戻った。
夜明けと同時に自由都市を発つ準備をしているとトンプソンが見送りに来てくれた。
「聖者様、世話になったね」
「ええ。それで、お父さんとは仲直りできたのですか?」
「そう簡単にはいかないものだよ、父娘ってのは。そもそも、うちが木化病にかかったのもあいつが原因だしね」
「仲直りはお父さんが生きているうちにしかできませんから気を付けてくださいね」
「そうだね。じゃあ、あいつの酒を止めさせるところから始めてみるよ」
とトンプソンはマフィアの首領が見せるニヒルな笑みではなく、可愛らしい女の子の微笑みとともにそう言った。
そして、馬車は改めて北へと進む。
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