第146話 海に行くのは山賊退治のあとで-1
隊長さんが説明した。
街道が突然消えたことに気付いたのは、そのハンバルの漁村の村人だったそうだ。
週に一度、西の検問所から国境警備に当たっているはずの兵士が訪れなかったことに気付き、不安に思った村人が検問所に向かったところ確かにあったはずの街道が土砂で塞がっていた。
きっと衛兵は土砂を撤去するのに時間がかかっているのだろうと思った。
だが、さらに一週間経っても兵士は訪れず、このままでは食糧が無くなって困るだろう。
そう思った優しい人が、土砂を越えて食糧を届けようとした。
土砂を乗り越えて彼らが見たのは――いや、見なかったのは消えてしまった街道だった。
本来、しっかりと固められた土だったのに、全てが草地になっていたのだ。
ただ、完全に無くなっていたわけではなく、街道だった痕跡は残っていて、それを辿って移動したら途中で見たことのない街道――つまり、俺たちがいまいるこの街道に行きついた。
そして国境沿いの検問所に行くと、そこにいたのは二人の兵士だった。
本来、二十人はいたはずの兵士が二人になっていたのだ。
二週間前、五人の国境警備の兵士がいつも通り食糧の調達のためにハンバルの漁村を目指したが、帰ってこなかった。
もしかしたら盗賊に襲われたのかもしれない。
その可能性を考えた兵士は十人の小隊を組み、警戒して街道を進んだ。
そしてやはり帰ってこなかった。
これは明らかに危険な状態にあると思ったので、二人が連絡用の最も速い馬に乗って仲間に連絡を取りにいった。その馬なら魔物に襲われても盗賊に襲われても逃げ切れる。
そう確信して。
だが、やはり彼らは帰ってこなかった。
仲間の一人は死の大地経由で迂回し、救援を求めに行った。
その直ぐ後に漁村の人が辿り着いた。
そこでようやく彼らは理解した。
食糧を買いに行った人も、救援を求めるために馬に乗っていった人も偽物の街道を使って移動したのだと。
だが、そこで疑問は残る。
この街道の先に何があるのか?
二回目は完全武装の衛兵十人だ。普通の魔物や盗賊の罠にしては誰も生きて帰らないのは妙だ。
衛兵のうち一人は漁村の人とともに村に戻り、その足で王都に連絡を取りに向かった。
その結果、派遣されてきたのがこの騎士団だった。
ちなみに、死の大地経由で救援の要請に向かった兵士も無事だったらしい。
国境警備のために一人残った兵士も肉体的には無事だったが、そちらは精神的に病んでいた。
仲間が誰一人帰ってこない中、一人で国境警備をさせられたのだ、当然だろう。
「でも、わからなかったんですか? 週に一度とはいえ行き慣れた街道の形が変わっていることに」
「本来、街道を真っすぐ進めば山が見えてくる。本来であればその山が見えなければ異変に気付くだろう。だが、この街道を進んだ先に何故か霧が立ち込めていてな。その霧の中に入れば、自分が進んでいる街道が偽物だなんて思わない。むしろ街道を頼りにしか進めないのに、その街道を疑うことができるはずがないということだ。もともと、この辺りの街道は緩やかなカーブが多いから猶更な」
「霧ですか……まさか」
ポットクールさんが何か心当たりがあるかのように呟く。
「心当たりがあるのか?」
「いえ、今回の件と関係があるのかはわかりませんが、海の山賊の話を――」
海の山賊?
そうだ、それだ!
前から気になってたんだ。
今回の護衛依頼、ポーツ村での転移門の設置もあるが山賊からの護衛依頼を頼まれていたんだった。
「ああ、例の事件か。あれは海洋部の仕事なので我々の管轄ではないのだが、しかしこの先が例の岬と言うことも考えると、あながち無関係とは言えないか」
わかるように説明してもらえませんか?
そう思ったが、聞けばややこしくなりそうなので黙っていようかな?
「聖者様にはまだ話していませんでしたね。この北の岬はハンバルの漁村からポーツ村のあるウェルドン諸島に行くときに通る場所なのですが、その海に突然、山が現れてそこから盗賊が現れるそうなのです。そして、その山が現れるとき、必ず霧が立ち込めていたそうです」
「霧に立ち込める謎の山。突然現れる山、そこにいる盗賊。山にいるから山賊か」
いろいろと合点が行く話だ。
そして、その話――それって――
「山が実は怪獣かなにかで、その怪獣を利用して山賊が金稼ぎをしている――という可能性が一番高……い?」
何故か全員の視線がこちらに集まっていた。
あれ? これってゲームではお約束なんだけど、その可能性みんな考えてなかった?
みんなに知能デバフかかってない?
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