第147話 魚料理を食べるのは買い出しのあとで

 突然現れる島とか、そんなの魔物の背中に乗ってるのが定番なのに、みんなその可能性について考えていないのか?

 まぁ、これもゲームなどではよくあるパターンだからこそわかるわけで、ゲームをしたことのない人に理解できるはずが――


「聖者様、その可能性は低いかと」

「ああ、山のような巨大な魔物、いるとしたら伝説級の魔物だ。そのような魔物を山賊ごときが使役できるはずがない」


 ポットクールさんと騎士隊長さんが言う。

 その可能性を考えていなかったのではなく、その可能性がないと思っていたわけか。

 でも、ゲームではよくある展開だよな?


「たとえば、その山賊が魔物を小さい頃から育てていたという可能性は?」

「成長が早いと言われる海竜ですら、山のように大きくなるまで数百年はかかります。そもそも、山のように巨大に成長する前に、普通に船を襲ったりするだろう」

「そもそも、山賊がそのような魔物の幼体を手に入れたら育てる前に売り払うだろうな。珍しい魔物であれば買い手も多い」


 そう言われたら確かにその通りだな。

 俺の早合点だったか。


「百獣の牙」


 そう呟いたのは、アムだった。

 アムの母親を殺した盗賊団だ。

 その盗賊の頭は多くの魔物を従えていた。

 俺が倒した魔物だと、ゴブリンキングと中級悪魔だ。

 他にも強い魔物を多く従えていたという。

 そうだ、中級悪魔でさえも従魔にするその百獣の牙のリーダーならば、山のような海獣を従えている可能性だって考えられる。


「百獣の牙――トランクル王国と死の大地の周辺で活動していた魔物使いの盗賊団か。その噂は聞いている。壊滅状態になったが、その頭領だけは行方知れずでいまや賞金首。ドラゴンさえも従えるその魔物使いであれば――だが、その可能性も低いと思われる」

「どういうことですか?」

「百獣の牙の首領は生きていれば歳は五十を超えているのだろう? だが、山賊に襲われて生き残った者の証言では、山賊の頭はまだ若い男だったそうだ。人相も手配書のものと異なる」


 隊長さんはそう言った。

 俺たちが考えていることは既にお見通しってわけか。


「話は以上だ。とにかく、そういうわけだから、ハンバルの漁村に行くのであれば、この道を真っすぐ進め。土砂は撤去しているし、簡易だが看板を何カ所か立てているから、それを目印に進めば辿り着くはずだ」

「わかりました。ありがとうございます」


 街道の行き先は気になるし、海に現れる山も気になるが、いまは漁村だよな。

 俺たちは騎士の隊長さんに礼を言って、道なき道を進む。

 さっきまでの快適な街道から、いっきにデコボコ道だ。

 尻が痛い。

 隊長さんの言っていた通り、看板数か所に建てられていて、その日の夕方にはなんとかその漁村に辿り着いた。

 漁村といっても、俺たちの村よりは大きく、旅人用の宿もあるらしい。

 もうすぐ太陽が沈むということで、今日はここで休むらしい。


 ウェルドン諸島への渡し船があるため、この村を利用する行商人が多いそうだ。

 もっとも、その行商人も、謎の山賊騒ぎのせいでご無沙汰らしく、俺たちは久しぶりの客だと歓迎された。

 ただ――


「従魔といっても魔物を泊めるわけにはいかないよ。他の客が来るかもしれないからね。納屋でよかったら貸してやるから、そこで寝てくれないかい?」


 ポチの宿泊を拒否された。

 そういえば、ポチは魔物なんだったと今更ながらに思い出す。

 ほとんど可愛いペット感覚だった。

 いや、ペット禁止のホテルでも同じ扱いを受けるか。


「ポチは納屋でも構わないのです。あるじたちはゆっくり休むのです」

「悪い……せめて食事くらいは一緒に食べような」


 宿で七輪を貸してくれるそうだ。

 せっかくの漁村だ。

 魚介類を堪能しようじゃないか。


 ということで、俺とアムとミスラの三人で買い出しをすることにした。

 魚や貝は朝に売り出すのがほとんどだが、沿岸ではなく少し遠出した船が帰ってくる時間がそろそろで、それに合わせて魚を買うこともできるらしい。

 それ目当てで俺たちは港に向かった。


「おぉ、そこに兄ちゃんたち! 旅人だい? どうだい、さっき港から揚がったばかりの新鮮な魚があるよ」


 そう言って、恰幅のいいおばちゃんが俺に声をかけてきた。

 売っているのは見たこともない魚がほとんどだった。

 中には、明らかに魔物だろって思うような魚までいる。

 鑑定によると食べられるらしい。

 その中でも鑑定で【美味】と評されている魚だけを選んで購入。

 宿で魚を買うなら持っていくようにと言って貸してくれた桶の中に入れる。

 そうだ、あとは――


「タコとかイカってないですか?」


 ファンタジーゲームではあまりないが、ファンタジーものの小説の中だと、タコやイカは食べずに捨ててしまう。

 見た目が怖いことから、食べられないのだそうだ。

 だから、安く買えるチャンスの上に、食事文化に革命を起こすときがきた!


「あぁ、タコもイカももう売れてしまったよ。この時間だと酒の肴にちょうどいいからね」

「え? 食べるんですか?」

「そりゃ食べるさ。大昔の勇者様の大好物だからね」


 あ、そういえば過去にも召喚された日本人がいたんだった。

 革命はもう起きたあとだったようだ。

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