第97話 決戦前夜の就寝は熱病にかかったあとで-1

 クレーンゲームでアイテムを手に入れてみる。

 クレーンゲーム、一回100イリス。

 銀貨1枚か。。


「なぁ、ミケ。100イリスってゲームの代金にしては高いんじゃないか?」

「そうだにゃ。この辺だと数日は食べていける金だにゃ」


 ゲームだと特に何も感じなかったが、現実だとそういう問題も出てくる。

 誰が数日分の生活費を使ってまでぬいぐるみを取るというのか?

 まぁ、村の財政状況が改善されるまで、クレーンゲームは俺たち専用になりそうだ。


 さて、一回やってみるか。


「ふふふふふーんふん、ふふふふふーんふん」


 鼻歌混じりでリズムを合わせ、トレジャーボックスを掴む……持ち上がった。

 が、途中でバランスを崩して落ちてしまう。

 落ちた形が悪い。

 クレーンの位置に対して、箱が対角線になっている。

 これだと掴んでもバランスを取りにくい。

 予想通りに、二回目は箱を掴むことすらできず、位置をずらすしかできなかった。

 現実のクレーンゲームよりパワーはあるが、それでも難しいな。

 結局、六回やってようやくトレジャーボックスを手に入れた。

 さて、中身は――


「解毒ポーションか……ハズレだな」

「ポットクール様に売れば600イリスより高く買い取ってくれそうですが」

「そういえばそうだな」


 ゲームだと売値たったの80ドラゴの解毒ポーションだが、こっちの世界ではポーションと同じで高く売れるかもしれない。

 毒耐性のアクセサリーとか高く売れてたしな。


「私たちもやっていいですか?」

「ああ、いいぞ。こういうときに使ってこその金だ」


 二人はそれぞれ、自分のお金がある。

 ダンジョンなどで手に入れたお金はそれぞれ三等分しているからだ。

 ハズレの茶色宝箱からイリスが結構出るから、そこそこ貯まっている。

 アムはクレーンゲームは意外にもあまり得意ではないようで、いろいろなものを狙ってはハズレ、結局十二回かけてウサギのぬいぐるみを手に入れていた。

 そしてミスラは――


「……ゲット」


 100イリスでトレジャーボックス二個手に入れていた。

 え? どうなった?

 アムがずらして二個は近い位置にあったが、一度に取れる形じゃないと思っていた。

 むしろお互いが邪魔しあって両方取れないと思ったほどだ。だからアムも諦めたわけだし。

 

 え? 箱の隙間にひっかけた? そりゃ、このクレーンゲームは高さも調整できるが、だからこそそんな名人芸みたいなこと……できるの?

 ミスラはそのあとも300イリスでトレジャーボックス1個とぬいぐるみ2個を取っていた。


 天才って本当にいるんだな――と俺は感心するのだった。

 ミスラの取ったトレジャーボックスの中の一つにシールが入っていた。


「……なにこれ?」

「ポイントシールだな。ほら、1点」


 俺はトレジャーボックスからシールを取ってミスラの額に張り付けた。

 シールは彼女にくっつくと消えてなくなる。

 これはシールを手に入れた人間にしか使えないからミスラにしか使えないんだよな。


「……なに?」

「ステータスを見てみろ」

「…………なに?」


 自分のステータスを見て、ミスラはシールを貼られたときと同じ反応をする。

 いや、さっきより戸惑っている。

 俺もミスラのステータスを確認すると、一番最後に、【ポイント:1】という項目が追加されている。


「ミニゲームのポイントだよ。ポイントが増えるとトールブリッジ名人からアイテムが貰えるんだ」

「……誰?」

「カジノのオーナーだ。カジノができたら紹介するよ。貰えるアイテムの中には魔導書もあるからな、期待してろよ」

「…………」

「あまり嬉しそうじゃないな?」

「……カジノができる前に、悪魔と戦うことになるから」


 そうか、そうだよな。

 ミスラとアムには、今後建てる施設について説明している。

 カジノができるのは商店、鍛冶場の後になる。

 最短でも悪魔との戦いが先に来る。


「ミスラ、今日は森のダンジョンで魔核を集めて魔力ブースト薬を作ろう。そして、今夜はゴールドボールでレベル上げだ。最後の太陽のクッキーも使うぞ。強くなるんだ」

「……うん、強くなる」


 ミスラは頷いた。

 

 その後、俺たちは戦い続けた。

 ポチに頼んでいたガンテツの村のサブ拠点ができてからは山のダンジョンでも周回を重ねる。


 そして、悪魔と戦う前日の昼。


「行くぞ、アム! ミニアイアンゴーレムを出させるな!」

「はい、行きます」

「「メガトンスタンプ!」」


 新しく取得した俺の黒鉄の槌とアムのアイアンハンマーが倒れたジャイアントゴーレムの頭に俺とアムの槌技「メガトンスタンプ」が振り下ろされる。

 そして、


「サンダーボルト!」


 強大な雷がトドメとばかりにジャイアントゴーレムを呑み込んだ。

 これでジャイアントゴーレムが起き上がればミニアイアンゴーレムが出てくるが、ジャイアントゴーレムは沈黙したまま起き上がらない。

 代わりに銀色宝箱と金色宝箱、そして茶色宝箱が二つ現れた。

 よし――


「山のダンジョン完全クリア達成だ!」


 俺たち三人はハイタッチして喜ぶ。

 いやぁ、なんとかなるものだな。


「俺たち、強くなったな」

「はい。私のレベルももう38になりました」

「……ミスラは35……差が広がってる」

「いや、ミスラも強くなったぞ。いまならジャイアントゴーレムの攻撃も一撃くらいは耐えられそうだな」


 そして、俺のレベルは59。

 試練のダンジョン入場回数券と太陽のクッキーを追加購入し、ここまで底上げできた。

 女神様からのクエストにあった推奨レベル40を19も上回っている。

 だが、一つ心配な点がある。

 俺の成長率が低いせいで、蒼剣の主人公のレベル59に比べてステータスが低すぎるのだ。

 ボール退治での急成長のせいで、職業レベルもまだまだ低い。

 それに、弱点である光魔法が初級光魔法のライトアローのみだ。

 なんとかエリアヒールという範囲回復魔法を覚えたが、俺が回復に回ったら攻撃の手がミスラの魔法メインになる。

 そのミスラのレベルはまだ35、推奨レベルに5も足りない。

 これで勝てるのだろうか?

 不安はある。


「ご主人様、宝箱を開けましょう」

「……楽しみ」

「そうだな」


 この数日で金色宝箱も何度か出てきたが、悪魔退治前の最後の金色宝箱だ。

 明日の勝敗を占う意味でもここは重要だぞ。

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