第98話 決戦前夜の就寝は熱病にかかったあとで-2
ジャイアントゴーレム完全クリア報酬の金色宝箱の前に立つ。
俺たちは三人で宝箱を開けた。
中から出てきたのは――
「ご主人様、これはなんですか? 筒……鑑定の説明を見てもわかりません」
「これは……ハズレアイテムだな」
「……ハズレ、最後に」
ミスラが残念そうに言うが、俺は彼女のとんがり帽子の上に手を置いて言った。
「ハズレはハズレでも、最高のハズレアイテムだ。アイリス様からのメッセージでもある」
「……最高のハズレ?」
「これはお祝い用連続打ち上げ花火――いうなれば勝利を祝うための道具だ。きっとアイリス様が明日の勝負に勝ったら、これでお祝いしろって言ってるんだよ」
画面いっぱいに数々の花火が上がり、そこにいるプレイヤー、NPC含め全員が喜びその花火を見る。
効果はそれだけ。
花火が上がったからってステータスが上がるわけでも、村人の信頼度が上がるわけでもない。
絵になるからスクショ用に使われることはあるが、やっぱりハズレだ。
だが、きっとこれはアイリス様が俺たちに言っているのだろう。
明日の戦いで勝てば、これで祝うようにと。
まぁ、本当に偶然かもしれないが、そう思った方が楽しい。
銀色宝箱からは万能薬が出た。
宝箱を確認してダンジョンから脱出。
帰還チケットで家に帰る。
「さて、明日は悪魔退治だ。戦いは日没時でいいんだな?」
「……うん。悪魔と契約を交わしたのもその時間だし、首の後ろの数字もその時間に変わってるみたい」
首の後ろの数字はまだ2。
太陽が沈む頃には1になるだろう。
悪魔と戦う場所は既に決めている。
さすがに村の中で戦うわけにはいかないからな。
今日は早めに寝ることにした。
アムが部屋に来るのを待つ。
扉がノックされた。
アムはいまだに俺が部屋にいると、ノックしてから部屋に入る。
そういうところもかわいいんだよな。
「入っていいよ」
「……失礼します」
そこにいたのはアムではなく、ミスラだった。
いつも寝るときに着ているパジャマではなく、下着姿だ。
「ミスラ、お前な。明日は勝負なんだからそんな姿をして風邪を引いたら――」
「……トーカ様、今日のミスラは冗談じゃない。本気」
「本気って。ほら、アムがもうすぐ来るから部屋に――」
「……アムにも許可を取っている」
アムに許可って。
「……トーカ様はわかっている。悪魔の狙いはミスラ。ご主人様が強くても、ううん、強くなったからこそ悪魔はミスラの命を優先的に狙って来る。ミスラの防御力はレベルが上がってもほとんど伸びていない。悪魔の攻撃を何度も受けたら死ぬ。だから、最近は防御技能のレベル上げを集中して試練のダンジョンに行かなかった」
そうだ。
ステータスの伸びには個人差がある。
俺は全体的に成長率が低い。
アムが魔力が全く伸びない代わりに俊敏がよく伸びる。
そしてミスラは、レベル25を超えたあたりから防御の伸びが悪くなった。
このままレベルを上げても伸びないと思った俺は、試練のダンジョンではなく、スライムアタックループ――スライムからの攻撃を防御して受け続けて防御を上げる方法――でミスラの防御技能上げに取り組んだ。
それでも防御は足りていない。
「……死ぬかもしれないなら、その前にトーカ様と寝たい」
またストレートだな。
「なんで俺なんだ? 顔が好みなのか?」
「……ん、タイプ。八十点。合格点」
「そりゃどうも。顔についてはお前以外にはあんまり褒められたことないから嬉しいよ」
「……わかる」
「わかるってお前な――」
それはあまりにも失礼だぞ。
そう言おうとしたら、
「……トーカ様は顔より別にいいところがいっぱいある」
彼女はそう言って親指を立て、
「……性格は九十点。自分も子供っぽいのにミスラのことを子ども扱いするところ以外はベスト」
「そんな風に思ってたのか」
「……だから抱いて――」
とド直球にミスラが言う。
一瞬、甘い雰囲気が流れたがすぐに霧散した。
「お前な、そういう時はもっとこう、雰囲気のある言葉を言うべきだろう」
「……んー」
ミスラは考える。
雰囲気のある言葉がすんなり出てこないのか。
「お前の読んでる本には書いてなかったのか? 魔導書以外にもいろいろと読んできたんだろ?」
「……恋愛に関する本はあまり。知ってる言葉は『恋は熱病。意思とは関係なく生まれて滅びる』って」
スタンダールかよ!?
18世紀のフランスの小説家の名言のまんまじゃないか。
「……でも、ミスラは違うと思う。ミスラは自分の意思でトーカ様を好きになった。だからその思いは絶対。ミスラが死んでもこの思いは不滅」
「お前、それ、計算か?」
俺の問いにミスラは首を傾げた。
天然で言ってるのか。
なんてやつだ。
俺はその時、ミスラのことを好きだと思ってしまったのだ。
あぁ、くそっ、俺の意思はどこにいった?
俺はミスラが否定した言葉を前半部分だけ肯定する立場になってしまった。
どうやら、ミスラの恋という熱病が感染したようだ。
俺はミスラをそっと近くに抱き寄せた。
「……ん、トーカ様」
「目を閉じて」
俺はそう言って膝を曲げると、彼女と唇を重ねた。
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