第250話 ダンジョン探索再開はカイザーから逃げたあとで

「貴様、何故知っている! カイザー様が神をその身に卸す計画を立てていることは、帝国内でもごく一部の者しか知らない。国家の機密だぞ!」

「なに、話を持ってきたクナイド教も一枚岩ではない。それに教会の草も紛れ込んでいるだろう。あいつらが俺に話を持ってきた時点で、話はどこからでも漏れる可能性がある」

「はぁ……知ってるのはそれくらいだ。質問してもいいのなら教えて欲しいんだが、神を降ろすためになんでこんなところに?」

「なに、神を降ろすには身体を鍛えねばならない。そのためにはダンジョンに潜って魔物と戦うのが一番だ。しかし、国内のダンジョンだと準備やら護衛やらで移動するのも面倒だからな。国外のこの地のダンジョンに来たというわけだ。このダンジョンについては国内の書庫に記載があった」

「思ったより普通の理由だな。てっきりこのダンジョンに神を降ろすための重要アイテムがあるのかと思った」

「あったらどうしてた?」

「どうしてただろうな。正直、関わりたくないってのが本音だ。ていうか、そんな重要アイテムを探して壊してまで神の降臨を阻むくらいなら、あんたを殺した方が早いんじゃないか?」


 と俺は棒を前に出す。

 アニータとライオックがカイザーの前に立つ。


「仮定の話だろ?」

「ああ、仮定の話だ。とりあえず、アイリス様から神の降臨を阻止せよとも、カイザーを殺せとも依頼は受けていないからな」

「依頼を受けたら殺すのか?」

「そんな依頼をしてこないからアイリス様が好きなんだよ」


 あとは蒼剣好きの同志だからな。

 アイリス様から受けた依頼は悪魔を倒してミスラを守れとか、王様を救出しろとかそういう依頼だった。

 悪魔を殺せとも、スクルドを殺せとも依頼を受けていない。


「ふん、どうやら今回の勇者はかなり甘いと見える。どうだ? 止めるつもりがないならやはり俺の部下にならないか? 不測の事態があればすぐに対処できるぞ?」

「だからイヤだって。じゃあ、俺たちは先に行くぞ」

「ああ、また会うこともあるだろう。勧誘はその時にゆっくりさせてもらおう」


 フラグを立てるな。

 全力でへし折ってやる。

 俺たちは九階層のボス部屋に入り、さくっとボスを倒した。

 宝箱は全部茶色だった。

 揺り戻しのねじ巻きはカイザーたちがいるので控えて、さっさと次に進もう。

 って、振り返るとついてきてるし。

 カイザーが手を振っている。

 お前ら、夜営してるんじゃなかったのかよ。

 仕方ない。

 俺は仲間たちにこっそり作戦を伝える。

 そして――

 俺はリーナを、アムはミスラを背負って全力で走った。

 途中出てくる魔物もトドメを刺さずに蹴り飛ばして来た。

 カイザーが追いかけて来るが、ライオックとデクは走るのが得意ではないようで、距離が広がっていく。


「よし、ここまで来たらもう追いかけてこないだろう」


 俺は一息ついてリーナを降ろす。


「まったく、ストーカーには困りものですね、勇者様」


 ハスティアが言う。

 それは自虐ネタか?

 それとも、今日は留守番のメンフィスのことを言ってるのか?

 どっちも節度を弁えていると思うが、白黒の話になれば、黒よりのグレーだぞ。

 

「ご主人様、あの皇帝は放置してよかったのですか?」

「カイザーにも言ったけど、アイリス様から皇帝を殺せって言われていない。それに、あいつが言っていることを否定できないんだよな」


 亜人も差別されずに暮らすことができる社会を作るために、絶対的な力が必要だという話だ。

 もちろん、それだけが目的ではないとは思うが、しかしアニータがカイザーに忠誠を誓っているのは確かだ。デクって呼ばれている男が大鬼族ってのも事実なのだろう。

 能力主義で亜人を仲間として同行させている。

 それだけでも、皇帝の言葉に信憑性が出てくる。


 今後は関わらずに勝手にやってほしい。

 もしもカイザーが亜人差別をしない帝国を完成させたら、遊びに行ってもいいよな。


「さて、邪魔は入ったが、ダンジョン探索を楽しもう」


 もしもカイザーが神になって暴走したときのことを考えると、強くなる必要がある。

 そのためには、金色宝箱や虹色宝箱を手に入れてその恩恵に預からねば。

 いままではただの趣味だったが、もう趣味だとか言っていられないな。

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