第249話 皇帝からの情報開示は仲間の紹介のあとで
黒騎士は自分のことをトウロニア帝国の皇帝と言った。
「その顔、疑っているのか?」
「疑ってません……なんとなく、そうかもしれないって思ってました」
帝国の人間であり、高そうな鎧を着ていて、めっちゃ偉そう。
それだけでも可能性は高かったが、俺が最も関わりたくない人物だと思っていた。
ヨハルナ様から聞いていた。
トウロニア帝国の皇帝は自らの身に神を降ろし、本物の神になろうとしていると。
そのための準備をしていると。
もっとも、神様についてはアイリス様が対応してくれるって言っていたので、俺自身はトウロニア帝国に行かなかったら向こうからちょっかいをかけてこない限り関わることはないだろうと思っていたが、物欲センサーの逆か。関わりたくない関わりたくないって思っている相手に限って向こうから来てしまう。
こういうの、引き寄せの法則って言うんだったか?
つまり、絶対に会いたくないって思っていたからこそ、もしかしたら黒騎士が皇帝ではないかと思っていた。
「ほう、俺の正体に気付いていたのか。それでも俺の部下にならないと?」
「ああ、俺は町長って立場だし――」
「死の大地周辺に国家を築くから俺の下にはつけないと?」
そこまで知っているのか。
いまはまだまだ準備段階なんだがな。
ウサピーとトンプソンが動いてくれている。
「なら、死の大地周辺を帝国の傘下に加えようか?」
「困る。帝国は獣人やエルフといった亜人を差別しているんだろ? 俺の仲間には見ての通り、妖狐族とハーフエルフがいる。彼女たちを差別するような国に属したくない。それを良しとする人に仕えるつもりもない」
「貴様、カイザー様が望んでそのような差別をしていると思うな!」
ターニアはそう言って首につけていたチョーカーを取った。
すると、彼女の頭に耳が生えた。そして、本来あった人間の耳が消えうせた。
あの耳――猫耳?
「黒猫族だったのか」
「黒豹族だっ!」
猫じゃなくて豹だったようだ。
どうやら、黒豹族を黒猫族扱いするのは失礼にあたるらしい。
「カイザー様は私のように不当な扱いを受けていた獣人を保護している。貴様のいう差別を誰よりも快く思っていないのはカイザー様だ」
「そうなのか? 帝国の皇帝陛下は絶対的な権力を持っているんだし、皇帝が差別するなって言ったら――」
「殺されるだろうな。確かに絶対的な権力を持っているが、絶対的な力を持っているわけではない。亜人を差別することで利を得ている者は何人もいるから、そのうちの誰かが暗殺者を雇うだろう。実際、歴代の皇帝は皆、絶対的な権力を持っているにもかかわらず、何人も暗殺されている」
古代ローマ帝国の皇帝のうち約6割は病気や寿命以外での死を迎え、その三分の一は暗殺だったって聞いたことがる。
絶対的な権力を持っていても絶対的な力じゃないか。
じゃあ、カイザーが神の力を得て絶対的な力を得たいのは、もしかして亜人を守るため?
それだけが理由じゃないと思うが、俺の中の皇帝像が大きく変わった。
「陛下――これ以上は――」
「おう、そうだった。こいつは俺の部下の魔術師のライオック。あと、あそこで怯えているデカいのは荷物持ちのデク。ライオックは人間族だが」
「自己紹介をするように言っているのではありません。あまりこちらの内情を話すべきではないと申しているのです」
ライオックが疲れた様子で言う。
「そうか? 仲間の紹介は大事だぞ。ライオックは表向きは元老院のスパイだが、実は俺の方から元老院に送った二重スパイだ。もっとも、実はやはり元老院の人間で三重スパイという可能性もある」
「だから、そういうことは部外者に言うべきではないと申しているのです!」
ライオックはかなりの苦労人だということだけはわかった。
こんな奴が神になって、本当に大丈夫なのか?
「デクは大鬼族だ。力があって鍛えればいい戦士になると思うのだが、鬼狩りで両親が殺されるところを目の前で見たらしくてな。あの通り臆病になってしまった。だから、もし俺と戦うことになってもデクだけは見逃してやってくれ」
「そっちからちょっかいをかけてこないのなら戦うつもりはない。先に通してほしいんだよ」
「ああ、そうそう、俺がダンジョンに来ている理由を話していなかったな」
こいつ、俺の話を聞くつもりないだろう。
「俺がこの身に神を降ろすための下準備だ」
「…………」
「その反応、やはり知っていたか」
俺の反応を見たか。
ここは「なにバカなことを言っているんだ?」という目で見るべきだったか?
それとももっと驚くべきか?
いや、驚いたさ。
まさか本人の口から聞くことになるとは思わなかった。
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