第253話 少女の目覚めは初期起動のあとで

「四分の一引っ張った!」


 虹色宝箱を手に入れたことで、歓喜の雄たけびを上げる。

 三回目だし確率的にはそろそろだろうと思っていたが、最悪十連続くらいハズレを引くのが四分の一の悪夢だ。


「ご主人様、私が開けてもいいですか?」

「ははは、ダメに決まってるだろ。今回は俺一人で開ける――って、ミスラ、抜け駆けしようとしない」

「……魔導書ぉぉぉ」


 誰が開けるか言い争っている後ろで、ハスティアとリーナが、


「普段はとても仲がいいのですが――」

「なるほど、虹色宝箱とは、ここまでヒトを変える魔性の箱なのだな」


 とか言ってるが、うーん。

 これまでは三人で開けてきたが――


「今回は俺に譲れ。次はアム、ミスラと順番にするから」


 と言い切った。


「あの、今回もみんなで開けるというのは――」

「いや、これまでもみんなで開けてきた。争いを生まないために。ただな――」

「宝箱を一人で開けるというのは、他の人より先に中身を見ることの優越感と、そしてそれを仲間に見せるときの興奮、その他喜びの感情が一気に入って来るのです」

「……ん、それにミスラ一人で開けた方が魔導書が入ってる」


 ミスラのは別に統計を取ってるわけじゃないので判断できないが、自分が開けた宝箱に自分が欲しいものが入っていたときの記憶は印象に残りやすいので言ってることはわかる。

 とりあえず、順番に開けるということで全員が納得した。

 そして俺が宝箱を開こうとするが、アムとミスラが横から覗き込もうとする。


「待て! まずは俺が一人で見る」


 二人を下がらせる。

 そして箱を開けた。

 こ、これは――


 俺はそれを宝箱から出すと、皆も驚いた様子だった。


「これまで、宝箱から犬や羊などたくさんのものを見てきましたが――」

「……ん、いろんなものを見てミスラはもう驚かないと思っていたけど――」

「宝箱の中に入っていてもいいものなのでしょうか? さすがに――」

「勇者様、その……彼女・・は人間なのか? 生きているのか?」


 と皆が彼女を見る。

 宝箱から取り出したのは、外見年齢小学生くらいの女の子だった。ただし、頭に大きなヘルメットを被っている。


「ああ、まず最初に、彼女は人間ではない。ロボットだ」

「ロボット……といいますと、ジハンくんみたいなものですか?」

「……それとも、コレクションアイテムのロボットシリーズ?」


 カジノにある自動販売機型のロボットと、穴掘りで手に入るロボッロシリーズのことを思い出してアムとミスラが尋ねた。


「どっちも正解だな。機械で作られたロボット兵器『霜月』――それが彼女の名前だ」


 蒼剣の世界では先史文明のオーバーテクノロジーって設定だった。

 一緒に戦うこともできる。

 ただし、仲間ではないのでステータスは存在しないし、パーティ枠も埋まらない。

 俺が蒼剣をプレイしているときにもロボット兵器を使っていた。

 霜月だけでなく、弥生、葉月、長月を使っていたな。

 いろいろとカスタムも可能で、いろいろと弄らせてもらった。

 確か起動用のスイッチはこのヘルメットの後ろだったような……これか?

 霜月の起動を試みるも、やっぱり動かないな。

 

「ああ、ミスラ。パトラッシュを道具欄に入れてくれないか?」

「……何故?」

「パーティに同行できるサポート枠のキャラは一体限りなんだ。サポートキャラってのはペットやドラゴン、そしてこういう戦闘用のロボット兵器を指す。たぶん、パトラッシュが外に出て一緒にいると起動できないんだと思う」

「……ん、わかった。パトラッシュ、ごめん。中で待ってて」


 ミスラが鞄の中にいたパトラッシュを道具欄に入れようとする。

 道具欄の中にいると時間の流れから隔離されるので苦痛とかはないので、パトラッシュは特に嫌がる様子もなく頷いた。

 パトラッシュを道具欄に入れて、再度起動を試みる。


『初期起動中。30パーセント、50パーセント、80パーセント、初期起動終了。アップデートデータを確認……』


 霜月が合成音声みたいな声で言う。


「ご主人様、これは?」

「目を覚ますための下準備みたいなものだ。ちょっと待ってくれ」


『アップデートデータのダウンロードを開始。ダウンロード完了。インストール開始。50パーセント、100パーセント、バックアップデータを確認』


 バックアップデータ?

 あれ? 蒼剣にも起動メッセージはあったが、バックアップデータなんてメッセージはあっただろうか?


『バックデータを復元開始……衣装を変更、知識を変更、装備を変更。初期起動完了』


 霜月はそう言うと目を開けて、俺をじっと見て、そしてその拳を俺に向けた。

 やばい、これはっ!?


 突如、彼女の手首から先がぽろっと落ちて、その空洞からビームが発射された。

 

「ウォーターガンっ!」


 俺の水と霜月のビームが激突――ぐっ、初級魔法じゃきつい。

 押し負けると思った俺は思わず横に飛びのいた。

 ダンジョンの壁に大きなくぼみができた。

 ダンジョンの壁を傷つけるなんて、初期状態の霜月の攻撃力じゃないぞ。

 ていうか、あのビーム、カスタム機能レベル5の最終兵器じゃないか。


 バックデータの復元ってもしかして――蒼剣の俺のゲームデータを復元したのかっ!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る