第254話 ロボット兵器を仲間にするのは機能停止させたあとで

 霜月の様子がおかしい。

 その証拠に通常の霜月の初期装備は武骨な軍服のはずの彼女が、いつの間にかメイド服に変わっている。

 蒼剣において、俺が彼女にカスタムした服だ。

 別に俺がメイドコス好きというわけではなく、それが最も効率がよかったからだ。

 彼女の右手首が元に戻った。その手には日本刀が握られている。

 これも俺が決めた装備だ。


 霜月が無言で刀を振る。

 俺はその刀を受け止めた。

 強い。

 カイザーよりも強い。


「ご主人様、何故彼女が攻撃したのですかっ!? 彼女は味方ではないのですか!?」

「敵対モードだ! 詳しくはあとで話す! こいつは俺たちの――いや、俺の敵だ」

「……サンダーボルト」


 俺がそう言うと同時に、ミスラが雷の魔法を放った。

 思い切りがいい。

 機械系の魔物が雷に弱いだなんて、彼女は知らないだろう。

 だが――


「雷はダメだ! 完全耐性がある!」

「……先に言って欲しかった」

「説明する前にお前が魔法を使ったんだろう」


 俺がそう怒鳴ると、アムとハスティアが両サイドから霜月に斬りかかる。

 霜月が後ろに跳んで躱したところで、待ち構えていたサラマンダーが炎を吐き出した。

 霜月は炎に包まれる。


 だが――


「無傷っ!?」


 リーナが驚く。

 多少ダメージは入っているだろうが、ミスラと違ってリーナの精霊では単純に力不足だ。

 だが、それでも五対一。

 状況が有利なうちに強制停止しないと――


 と思った直後、彼女のヘルメットから煙が出た。

 視界が奪われる。

 こんな煙の中なら、地図も使えない。


「みんな、俺から離れるんだ」


 霜月の狙いは俺だけだ。

 煙の中でも狙って来るのは俺だけのはず。

 煙とビームは設定上同時に使えないはず。

 来るとしたら接近戦だ。

 カスタム後の霜月と戦うための推奨レベルは50。

 今の俺のレベルは69と推奨レベルより遥かに高いが、しかしステータスだけならレベル50の《蒼剣》の主人公とそう変わらないだろう。

 つまり、推奨レベル――隙を作れば殺されてもおかしくないレベルでもある。

 油断できない。

 待ち構える。

 カウンターで倒す。

 神経を研ぎ澄ます。

 いつまで待っても霜月は俺を襲って来なかった。


「逃げたか」


 そして、煙が晴れたところ、彼女は姿を消していた。

 霜月は戦闘中、自分の不利を悟ると逃げ出すことがある。

 五対一でさらに遠距離からの狙撃が不可能のこの状況を不利と見たのだろう。


「ご主人様――シモツキは味方のロボットじゃないんですか?」

「悪い。あれは敵対モードだ。ロボット兵器は初期状態だと味方なんだが、設定を変えると敵として戦うことができるんだ。そうすると、通常の敵としてエンカウントすることができて、経験値が。さらに倒すとレアアイテムが手に入る」

「そう言えば、今の戦いで私、少し体内の魔力の量が上がったような」

「私も強くなったような気がします。レベルが上がったのでしょう。しかし、この成長速度は――」


 うん、強くなったよな。

 たぶん、ハスティアやリーナのレベルだと、3か4はレベルが上がっているはずだ。

 ロボット兵器と戦うことによって得られる経験値は非常に高い。

 《聖剣の蒼い大地》はアイリス様と一緒に遊んだとき、課金できず、効率よく試練の塔でのレベル上げできなかった俺は、手に入れたロボット兵器を敵対モードに設定して戦う道を選んだ。

 ロボット兵器の弱点である雷に完全耐性を持たせることで、戦闘によって得られる経験値は遥かに上がった。

 尚、メイド服を着させたのは、その状態でロボット兵器を倒した場合、メイドリボンという状態異常完全耐性の激レア首飾り装備が低確率で手に入るからだ。

 しかし、結局敵対モードとして世に放った霜月に再度遭遇することがなく、その状態のままこの世界に召喚されることになった。

 まさか、その設定がこの世界にまで続いているだなんて。


 少し面白いって言ったら不謹慎になるかもしれない。

 でも、ロボット兵器が主人公と別行動を取っている仲間や、モブキャラを襲うという設定はない。

 彼女が狙って来るのは俺だけだ。


 次来たときは必ず倒して、そして機能停止させてやる。

 あ、殺すという意味じゃない。

 一度機能停止させれば、再度仲間として使うことができるからな。

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