第131話 魔道具店に行くのは武器屋に行ったあとで

 三人での買い物。

 ていうか、これってデートじゃない?

 毎日のダンジョン通いもダンジョンデートって言えなくないが、一緒に買い物とかってなんか新鮮だ。

 アムとは市場で買い物をしたけれど、あれってどっちかといえば買い出しの面が強かったからな。


「そうだ、服でも買いに行くか!」


 うん、女の子といったら服とか装飾品を見たいよね。

 って勝手な偏見で言ってみたら、


「私は食べ物と武器が見たいです」

「……ん、魔道具が見たい」


 あぁ、そうだった。

 二人は普通の女の子とはちょっとだけ違った。

 ということで買い物開始。

 大通りで気になっていた店を梯子することにした。

 まずは食べ物から。

 宿の夕食の時間を考えると、いまのうちに食べておけば夕食時にはちょうど腹が減っているだろう。

 移動中はスープ料理をあまり食べられなかったので、店の前のベンチに座ってスープ料理を食べる。

 薄味でポチが作った料理の方がおいしかったが、独特な味付けは少し気になる。

 鑑定したところ、ハーブを使っているそうだが、危ないものではないそうだ。

 その後、青果店に行くと盗まれたはずの商品が復活していた。

 話を聞くと、盗まれるの前提で商売をしているため、最初から全ての商品を並べるような馬鹿はしないって笑って言われた。

 何ともたくましい話だ。

 果物を道具欄に収納する余裕はないが、フレッシュジュースを作れるそうなのでそれを購入して三人で飲み、次の店に。

 酒屋は通り越して武器屋だ。

 いろいろと種類があるな。

 俺は聖剣以外使うつもりはないし、ミスラの杖も彼女が使っているものより上等なものはなさそうだ。

 となるとアムの武器だが。


「どうする? 槍を買っておくか?」

「おう、あんちゃん。槍を買いたいのか?」


 ドワーフっぽい店の店主が俺に尋ねて来た。


「ええ。お勧めはありますか?」

「そうだな。これなんてどうだ? 歴戦勇者の槍だ!」


 なんか凄く強そうな槍が出てきた。

 歴戦勇者の槍――名前だけ聞くと伝説の槍っぽい雰囲気だな。

 鑑定してみる。


【立派な槍:攻撃+8。見た目は立派、性能はそこそこの槍】 


 見掛け倒しだった。


「どうだ? 300イリスでいいぞ」

「それだったらこっちの200イリスの槍の方が強いですよ」


 武骨な見た目の修練者の槍。

 見た目はいまいちだが攻撃は+12とさっきの槍より五割増しで強い。


「なんだ、あんちゃん。武器を見る目があるのか。だったらこの槍なんてどうだ?」


 そう言っておっちゃんが持ってきたのは黒い槍だった。


「とてもいい槍ですね」


 アムが一目見て言う。


【クロニクルランス】


 おぉ、なんか凄そうな名前の槍だな。

 クロニクルってどういう意味だっけ?

 歴史を年代順に編纂したもの――とかそういう意味かな?

 ってことは、これも年代物の槍ということになる。

 とりあえず鑑定の続きを読んでみる。

 ええと――


【クロニクルランス:攻撃力+23。鍛冶師クロニクルによって作られた槍。よく研がれている】


 クロニクルって人名かよっ!

 いや、まぁ攻撃力は高めだが。


「あんちゃん。その槍は一本15万イリスはするぞ。払えるのか?」


 と武器屋のおっちゃんが尋ねて来た。


「ここでツケでって言ったた断られて、タダで奪おうとしたらみんなに殴られるんですよね」

「なんだ、わかってるのか。つまらんな」

「ははは。じゃあ、これ一本下さい」


 俺はそう言って、財布から取り出すフリをして、金貨を百五十枚取り出す。


「見た目によらず金持ってるんだな。ああ、悪い」


 つい本音が出てしまったらしい店主は詫びながらも、金貨を数えて金庫にしまう。

 そんなところに置いて盗まれないのかと尋ねたら、当然危ないから閉店前にマフィアの連中が来て売り上げの一部を有償で預かってくれるそうだ。

 どうやら、この国のマフィアは銀行のような組織もやっているのだろう。

 

「あの、この町に魔道具店ってありますか?」

「ん? 魔道具だったらこの通りを真っすぐ行って赤い建物がそれだ。まぁ、こんなところに魔道具を買いに来る奴は滅多にいないから、碌なもんがないがな」

「武器を買いに来る人はいるんですか?」

「そりゃ、この町に住むなら女も子どもも武器は必要だろう」


 とのことらしい。

 なので、次はミスラのための買い物を――と思ったら、何か人が大勢こっちに向かって来る。

 なんだろう?

 と思っていたら、全身鎧を着た男たちが店を出た俺たちを取り囲んだ。


「トーカだな。ボスがお呼びだ。同行してもらおう」

「同行って、そんなの勝手に言われても――」


 なんで俺の名前を知っているのかは疑問だが、厄介事の臭いしかしない。

 さて、どう切り抜けるか。

 いまのところ地図では敵を示す赤いマークではないが、断ったら急に襲われる可能性がある。

 幸い、この程度の人数なら俺たち三人でも切り抜けられる。

 それなら走って宿に逃げ込めば、マフィアが守って――


「おい、あんちゃん! 逆らうな! そいつらはマフィアの遣いだ!」


 守ってくれないか。

 せっかくの買い物デートが台無しだ。

 今回、俺は何も悪いことをしていないと思うんだけどな。

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