第171話 ポチを元に戻すのはポチを倒せたあとで-2

「覚悟なのだ!」

「覚悟なのぉぉぉ」

「あるじ、やっつけるべし」


 若干口調の異なるポチの分身たちの攻撃を避けつつ攻撃をする。

 分身相手なら手加減する必要もない。というか、手加減できる状況じゃない。

 ポチの分身たちを示すマークは俺より弱いという薄い赤なのだが、それでも中級悪魔よりは強い。

 その爪に掠っただけでも肉が裂け血が出る。

 それに、霧も厄介だ。

 まるでポチの方からは俺の姿が見えているかのように適格に襲って来る。

 そして、なにより厄介なのがポチ本体だ。


「コボルト流犬術けんじゅつ、七天抜刀!」


 ポチが落ちていた棒を拾って、剣術のように攻撃してくる。

 超高速のその剣術に俺はもう防戦一方になっている。


「隙ありなのです!」


 剣を弾き飛ばされた。

 俺は武器を再召喚する前に、武器となるものを取り出して、トドメを刺そうとして狙ってきた棒をそれで受け止める。


「残念、受け止められたのです」

「そう簡単にやられる――がっ」

「でもこっちは受け止められないのだ」


 ポチの攻撃を受け止めている間に横からポチの分身の蹴りを受けた。

 骨が折れたような音がする。

 直ぐにポーションを


「お預けなのぉぉ!」


 別のポチの分身がそう叫んだ途端、ポーションに「使用不可」のマークが出る。

 取り出して見ても蓋が開かない。

 ビーストテイマーの能力、「お預け」。

 それを使うと、一定時間薬を始めとして道具が使用不可になる。


「ぐっ、ハイヒール!」


 修道士のレベルを上げて覚えた中級回復魔法で体力を癒す。

 痛みは引いたが、しかし、回復魔法にはクールタイムがあるし魔力ポーションも使えない。

 このままだとじり貧だぞ。

 と思っていたら地図を見て、ミスラがこっちに近付いてくるのがわかった。


「……トーカ様、なにを――」

「ポチが操られてる。ミスラ、お前は絶対に来るな! 誰もこっちに来るな! これは命令だ・・・・・・!」


 契約魔法の効果により、ミスラが俺に近付けなくなる。

 アムでも一撃で気絶させられた。

 防御が紙装甲のミスラではポチの一撃に耐えられない。

 ポチの狙いは俺だけらしい。


「………………トーカ様」

「大丈夫だ。気絶してるアムを連れて逃げてくれ」


 と言いつつ、ポチの分身の相手だけでもかなりきつい。

 霧の中から正確に俺の位置を見抜いて攻撃してくる。

 俺も同じ場所で止まっているわけではないのに。

 一体何故――地図を使っているわけじゃないだろ?


 そうか、臭いを追っているのか。

 だったら、消臭剤を使って臭いを消せば――いや、消臭剤を出すことはできても、お預けを食らっているので使うことができない。

 ……違う! 逆だ!

 臭いを出せばいいんだ。


「ふふふふ」

「あるじ、どうしたのだ? 急に笑って?」

「あきらめたのぉぉ?」

「潔く散るべし」

「いいや、諦めてない――」


 俺は不敵な笑みを浮かべて言う。


「あるじ、諦めない姿勢は評価するのです」

「いいや、評価するのは俺の方だ。ポチ、四人に分身したのは失敗だったな!」


 俺はそう言って道具欄からそれを取りだした。

 収納したのはいいけれど、出すことができずずっと棚の中で放置していたそれを――


「は、鼻が曲がるのだ」

「あるじ、やめて欲しいのぉぉぉ、いたい、いたい」

「気持ち悪い……いますぐ逃げるべし」


 ポチの分身たちがそう言って逃げていく。

 そりゃそうだ。


「ポチ、お前は鼻がよすぎるんだ」

「あるじ、いったい何を出したのですか」

「キノコだよ。ただのキノコじゃないけどな」


 なんてったって、俺が出したのはラフレンキノコ――最凶最悪の悪臭を放つキノコだ。

 遠くからポチ達の声をは違う絶叫が聞こえた。

 獣人の騎士さんですね、ごめんなさい。

 あ、コボルトと戦ってたブラックウルフもか……命の恩人なのにごめんな。

 アムが気絶していてよかった。

 それにしても、分身たちが霧の中から襲ってきたおかげで嗅覚のことを思い出せてよかったよ。

 もしもポチが一対一で戦いを続けていたら、こんな卑怯な手段、なかなか思い浮かばなかった。


「さて、ポチ。お前、この悪臭の中戦えるか?」

「こ、こんなことでポチは負けないのです」

「そうか、だったらもう一個出すぞ」


 俺はさらにもう一個ラフレンキノコを出す。

 道具を使うことはできないが、取り出すことはできるからな。


「さて、何個出せばお前は気絶するかな?」

「あ、あるじ、卑怯なのですよ」

「なんだ、もう一個欲しいのか?」


 ラフレンキノコは道具欄にまだまだ入っている。

 ポチは両手で鼻を覆うもその双眸には涙が浮かんでいる。

 いやぁ、悪臭に耐えてるポチはかわいそうだな。

 他の分身たちは逃げ出したが、本体のポチは俺を殺さないといけないという洗脳のせいで逃げることもできないのか。


「さて、覚悟しろ!」


 俺はそう言ってラフレンキノコを両手に構える。


「あるじ、やめるのです!」

「お前が正気に戻ったらな!」


 勝負は決まった。

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