第120話 トリフ探しはトカゲがいなくなったあとで

 軽めの食事を終えようというところで、何かが近付いてくる足音が聞こえた。

 弱い魔物しかいないが警戒する。

 通路の奥から二足歩行で歩き、服を着て首にオシャレな黄色いバンダナを巻いている魔物が現れた。

 たぶん、オークだ。

 アムが剣を抜き斬りかかろうとする。


「待った! 攻撃するな!」

「ダメ!」


 俺だけでなくミスラもアムを止めたとき、アムの剣は既に抜かれていてオークに肉薄している距離だった。

 アムがすかさずその場で地を蹴り後ろに跳びのく。


「どうしてですか――」

「あれは敵を示す赤いマークがついていない――何故かNPCの白いマークだった……んだが、ミスラはなんでだ? お前が大きい声で止めるってことはよっぽどなんだろ?」

「……ん、あれは――」


 ミスラが言おうとしたとき、


「すまんすまん。人がいるとは思わなかったのさ。驚かせたさね」


 その声はオーク……ではなく、オークの後から現れた人間の言葉だった。

 六十歳くらいのお婆さんだった。


「もしかして、このオークはあなたの従魔ですか?」

「そうさね。首に巻いてる黄色い布がその証さね」


 ただのオシャレファッションではなくて、あれが従魔の証だったのか。

 うちのポチとかミケの分も用意したほうがいいのだろうか?


「すみません、不勉強でそれが従魔の証だとはわかりませんでした」

「……ミスラは知ってた」


 そうか、ミスラはそれであのオークが従魔だって気付いたのか。

 オークっていうと、物語とかだと女騎士を襲って、「くっころ」をさせる凶悪な魔物――ってイメージが強かったので、お婆さんと一緒にいるというのは違和感があるな。

 それにしても、よくもまぁあの巨体で谷の底まで降りられたものだ。

 俺たちが通ってきた道は狭くて通れないだろうから、あの引っかけられた縄を使って降りて来たのだろうか?

 だとしたら、あの縄、思っているより頑丈なのかもしれない。


「このあたりはソードビートルが多いから、うちのゴンザレスを先行させていたのさ。あたしはメリサ。トランデル王国のBランク冒険者さね」

「Bランクっ!? 失礼しました。俺はトーカ。彼女はアムルタートで、こっちがミスラ。俺たち三人ともトランデル王国ではCランクの冒険者です」

「Cランク……もっと上に見えるさね」

「まぁ、登録したばかりなので――ところで、メリサさんはここにどうして?」

「ああ、トリフ狩りに来たのさ」

「トリフ!? トリフがあるんですかっ!?」


 俺は思わず大声で尋ねてしまった。

 アムがトリフとは何かと尋ねたので答える。

 トリフとは蒼剣に登場する高級食材の名前だ。

 たぶん、トリュフのことなのだろうと思うが、蒼剣ではなぜか名前が違っていた。

 聖剣の蒼い空の主人公は、貴族の屋敷でそのトリフを使ったクリームパスタを食べて、そのうまさのあまり涙を流す――というエピソードがあり、俺も蒼剣の世界にいったら食べてみたいと思っていた。

 そのトリフがこの洞窟にあるなんて。


「ああ。とある貴族様の依頼でね。でも、いまは時期が悪かった……トリフの収穫場所に厄介な魔物が入り込んでるのさね」

「厄介な魔物?」

「キノコオオトカゲ……キノコを好んで食べる巨大なトカゲさね」


 キノコオオトカゲもこの世界にいるのか。

 キノコを主食としている魔物で、キノコだったらなんでも食べてしまう。

 蒼剣で登場するこの魔物――結構強い。

 正直言って、ジャイアントゴーレムより強いという意見もある。

 純粋な強さだけならアイアンゴーレムにも劣るだろう。

 毒キノコの毒の成分を体内に溜め込み、敵が来ると痰とともに吐き出す。その痰に当たると様々な状態異常を複数引き起こす。

 だが――


「戦おう」

「やめたほうがいいさね。キノコオオトカゲの痰に触れるとその毒が体内に入り込んで動けなくなる」

「大丈夫です。その痰に対抗する薬を持ってますので。それに、遠距離攻撃できる手段もありますから」


 キノコオオトカゲの弱点は冷気系の魔法だ。

 相変わらず、俺たちにはその手の魔法がない。

 なので、剣戟を飛ばすソニックブームで仕留めようと思う。


「ここで止めても無駄さね。ついておいで。無茶だって言う理由を教えてやるさね。若い命を粗末にしたくないさ」


 そう言って、メリサさんはオークに引き返すように命じ、元来た道を戻っていく。

 ってあれ?


「ご主人様、どうしたのですか?」

「うん、この奥に他にも誰かいるみたいだ」


 白いマークが四つ見える。

 

「メリサさんの仲間って奥にいるんですか?」

「いいや、私の仲間はこのオクロウだけさね」

「オクロウって名前なんですね……」

「でも、あんたの言う通り、この奥には四人組の冒険者がいるさね」


 別グループの冒険者がいるらしい。

 彼らもトリフの収穫依頼を受けてここに来たのだろうか?

 でも、様子がおかしい。

 白いマークの近くに赤いマークもあるのだが、どちらも全く動いていない。

 魔物の近くにいて戦っている様子がないのだ。

 いったいなぜ?

 不思議に思いながら進む。

 メリサさんが俺たちに止まるようにいい、奥をゆっくり見るように指示を出した。


 俺が見たのは、コモドドラゴンよりも巨大なトカゲが、キノボウを食べているところだった。

 キノコならなんでも食べるので、大きなキノボウは最高の餌なのだろう。

 どうやら、あの部屋はキノボウの湧きポイント(魔物がダンジョンから生み出される場所)らしい。

 キノコオオトカゲにとって最高の餌場だろう。

 そして、四人の冒険者は――


 あぁ……あれは酷い。


 そこにあったのは四体の石像。

 どうやら冒険者はキノコオオトカゲの毒によって石化状態になってしまったらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る