第119話 夏の草は刀の虫のあとで

 穴掘りでガラクタを大量に掘りあてた俺たちだが、気分を変えてダンジョンの中に入る。

 谷底のダンジョンは心なしか湿度が高くてジメジメしている。

 よく見ると、ダンジョンの中にぼんやりと光るキノコも生えていた。

 これは絶対に食べられないな。

 

【ホシヨタケ:光るキノコ。食べると猛毒状態になる。】


 はい、食べられないと。

 解毒ポーションと組み合わせたら食べられるかもしれないが、そこまでして食べたくはない。

 普通の食用キノコがまだ残っている。


 他にもキノコが生えていないかなとみていると――


「デカっ!?」


 急に大型犬くらいのサイズのキノコが――走り出した。

 あぁ、キノボウか。

 よく見ると、柄の下に小さな足が四本生えている。


「キノボウですね」

「こっちでもキノボウって呼ぶんだな」


 スライム、ゴブリンに並ぶ三大雑魚モンスター、キノボウ

 ゲームによっては、歩き茸とか、ランニングマッシュとかいろんな名前があり、蒼剣ではキノボウと呼ばれている。

 体当たりをしてくるだけの魔物だ。


「はい。とても美味ですよね」

「食べられるの!?」

「そのままでは毒ですけど、天日干しにすると食べられます。いい酒のつまみになるそうなので、捕まえてミケさんへのお土産にしましょう」

「あ……うん」


 巨大な蛇とか人を食べるオレンジとか食べてきたわけだし、魔物を食べることにはいまさら抵抗はない。

 でも、毒キノコを食べるのか。

 まぁ、現地の人が大丈夫って言ってるものは大丈夫なんだろうな。

 アムがアイアンハンマーでドカンと倒して道具欄に収納した。

 なんでハンマー?

 潰してから天日干ししたほうが効率よく乾燥するから?

 切る時は剣を使わずに手で裂いた方が美味しい?

 よくわからないが、よくわかった。

 俺もキノボウを倒すときは黒鉄のハンマーを使うことにしよう。


「……トーカ様、キノボウのドロップアイテムでキノコが追加されてる。今夜はキノコ鍋」

「キノボウのドロップアイテムはキノコだな。採取できるキノコと同じで、毒キノコと食用キノコが混じってるから鑑定せずに食べたらダメだぞ」

 

 ミスラは鑑定能力を持っていないから注意しないといけないな。

 そんなことを思いながらダンジョンを進む。

 今度は紫色のキノボウ――毒キノボウがあらわれた。こいつは毒キノコしか落とさない上に、触ると毒状態になるので魔法で倒す。


「ようやくキノコ以外の魔物が出てきましたね」

「ああ、ソードビートルだな」


 角の部分が剣になっている巨大カブトムシだ。


「こいつは倒し続けるとアドモンが生まれるからな。集中して倒すぞ。それを食べたら昼飯だな」

「……できる薬は?」

「攻撃薬だ」

「……次に期待」


 そう言うな。

 攻撃は最大の防御って言うんだから貴重なんだよ。

 ということで相手の角に対抗し、こっちも剣で戦う。

 ソードビートルとの勝負は、本当に剣の打ち合いみたいになるな。

 とはいえ弱い魔物なので早々に撃破。

 倒し続けると、進化した魔物――アドバンスモンスター、略してアドモンが現れた。


「……キノコ?」

「ああ、剣の部分がキノコになってるソードビートル――刀虫夏草だ。刀のある虫だったのに、夏になると草(キノコ)になるってところからそう名付けられたらしい。ちなみに、キノコが本体な」


 カブトムシの死体に寄生したキノコがその死体を動かしているらしい。

 見た目はグロテスクなんだが、薬用キノコという食用にも薬にもなる貴重なキノコを落とす。

 カブトムシが死んでキノコに操られてる状態を進化と呼んでいいのかは疑問だが。


 刀虫夏草は眠り胞子を巻いて相手を眠らせてくるから、即座に倒さないといけない。


「本体はキノコだ。虫の部分を攻撃しても死なない。キノコの中には刀が仕込まれているから簡単に切れない。火魔法だとせっかくの薬の成分になるキノコ部分がダメになる。なので――」

「潰します!」


 アムがアイアンハンマーで潰した。

 刀とか関係なく刀虫夏草がぺちゃんこになる。

 アドモンはダンジョンの雑魚モンスターの中では最強クラス、下手したらボスより強いこともあるのに、あっけないな。

 悪魔退治でレベルを上げ過ぎたか?

 安全マージンを考えてもそろそろ上級者用のダンジョンとかに挑みたいが、どこかにあるだろうか?


「……宝箱、出た」

「ああ、赤い宝箱だな。アム、ミスラ、開けていいぞ。俺は中身知ってるから」

「そうなのですか?」

「……なんで?」

「刀虫夏草の宝箱は十回目まで完全テーブル制――何が出るかは決まってるんだ」


 そういうことで、この中身を知っている俺は、二人に宝箱を開ける権利を譲った。

 アムとミスラが宝箱を開けて、それを取りだす。


「ご主人様、これは?」


 アムが困惑している。

 まぁ、無理はない。

 彼女が取り出したのは小さな丸太だった。


「椎の丸太だ」

「……はずれ?」

「テーブルが決まってるからハズレも当たりもない。でも、便利な拠点アイテムだぞ? 家に設置すると毎日シイタケが生えてくる。じゃあ、昼飯にするか……とそう言えば昼飯はこれだったな」


 いつものサンドイッチに加え、もう一品ある事を思い出した。

 ちょうどいいのか悪いのか。


「これがアムの分、これがミスラの分な」

「これは……」

「……例のキノコ」


 二人に渡したのは串に刺さった焼きキノコだった。

 盆栽キングから生えたステータスアップ用のキノコが三つになったので、三人で焼いて食べようと、ポチに頼んで昼飯にしてもらったのだ。


「アムは俊敏、ミスラは防御、俺は攻撃が上がるキノコだからな。味わって食べるぞ」


 そう言って三人で盆栽キングから採れたキノコの串焼きを食べる。

 味は松茸に似ている。

 というか松茸そのものだ。

 当然、俺は大変満足な味。

 しかし――


「変な香りですね」

「……やっぱり美味しくはない」


 なぜかその香りがアムとミスラには不評なんだよな。

 前回は香りを最大限に楽しむため、ポチに頼んで土瓶蒸しもどきを作ってもらったのだが、その香りが不評だったため、今度は焼きキノコにしてもらったが、それでもダメなようだ。

 俺は松茸は好きなので独り占めしたいくらいなのだが、ステータスの兼ね合いもあるからそうも言えない。

 なんか残念だな。

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