第118話 ゴミしかないと見限るのは全部掘ったあとで
鍛錬場が完成した。
鍛錬場といっても、レベル1だと平らな地面が広がっている場所の隅に物置小屋があるだけの簡素なものだ。
物置小屋の中には、竹竿や木剣が入っていて、それで訓練をするらしい。
鍛錬場レベル1の定員は五人。
この土地の広さだと六人以上入れそうな気がするが、五人と決めた。
俺の村から三人、リエラの村から一人、ガンテツの村から一人選抜し、彼らには自警団となって村の防備に当たってもらうつもりでいる。もともと、意欲的にハスティアから剣の扱い方を教わっていた村人も多かったことから、訓練に対する意欲があるのはわかる。
訓練時間は昼十三時から夕方五時までだ。
ポチが言うには、一日三時間以上訓練したら経験値の恩恵が得られるらしいが、転移門の横の古時計しか時計のない村で、しっかり時間通りに動くのは難しいから一時間余裕を持たせてそう決めた。
ちなみに、雨の日は訓練はお休みにしている。
俺たちもダンジョンに行くことはないだろうからな。
ちなみに、鍛錬場の指導教官はいない。
レベル3になったら鬼軍曹が現れるのだが、いまは自主練習あるのみだ。
鍛錬は俺たちがダンジョンに行く日だけでもいいんじゃないかとアムに提案したが、彼女は首を横に振った。
たとえ経験値が入らなくても毎日訓練をしているということが彼らを精神的にも強くすることができるからだ。
ステータスだけだったら、肉体的な成長はあっても精神的な成長は見込めないからな。
いざ魔物と戦うとなったとき、戦う前に及び腰になってしまえば、勝てる戦いも勝てなくなる。
とはいえ、彼らが鍛錬に励んでいる間はこっちもしっかりレベル上げをしたい。
ポットクールさんが来るまでまだ日程的な余裕があるので、俺たちは新しいダンジョンに行った。
ガンテツの村から南方向に山を下った谷底にダンジョンがあるそうだ。
こちらのダンジョンはジャイアントゴーレムより敵も弱く、そして食べられる魔物が多い。
しかし、ここで狩りをしても手に入れた素材を持って谷から上がるのが大変なため、やはり狩場としてはほとんど使われないらしい。
彼らが普段狩りに使うダンジョンも教えてもらったが、そこは迷宮型ではなく巣窟型――スリープゴートという羊型の魔物が眠ったり子育てのために使っているただの洞窟なので、俺たちには興味のない場所だった。
ダンジョンがあるという谷に来て驚いた。
谷というよりは、巨大な裂け目って感じだ。
一応ダンジョンを利用する人のために用意したであろう縄紐が木の杭に括りつけられているが、長いこと使われていなかったのであろうそれはかなりボロボロになっている。これに身を任せて降りる気にはならない。
少し遠回りにはなるが、比較的安全に降りられそうな場所があるので、そちらから下っていく。
しかし、その道は幅が狭く、俺たちみたいに道具を収納できる能力があれば別だが、そうでないと荷物を持って入るのは大変そうだ。
人気がない狩場というのも頷ける。
「……疲れた。トーカ様、休憩希望」
「いや、待ってくれ。さっきから、ピッピ、ピッピと音がしてるのに気付いてるだろ? それを掘ってからな」
埋蔵センサーが反応しているのだ。
しかも、一カ所ではない。
音の流れからして、複数個所に渡って何かが埋まっている。
「……でも、トーカ様、あんまりうれしそうじゃないね? いつもは嬉しそうなのに」
「まぁ、谷の底で掘れるアイテムって経験上ガラクタアイテム――ハズレしかないんだよ」
蒼剣の中で、敵の幹部が、「ゴミは谷底にでも捨てておけ」って言うセリフをことある事に言うためか、谷底にはガラクタアイテムが非常に多く埋まっている。
「ほら、アムが掘ってきた中にもあっただろ? よくある土偶とか招かない猫とか」
「ありましたね。意味のわからないものばかりでした」
本当に意味がわからないんだよ。
「……トーカ様は商店でガラクタを買ってたよね? あれはいいの?」
「あっちはガラクタアイテムじゃなくて、ガラクタだからいいんだよ」
「……ガラクタアイテムとガラクタは違うの?」
「全然違うな。ガラクタアイテムは、正真正銘なんの役にも立たない、売っても二束三文のアイテム。だけど、ガラクタはガラクタ魔王の家に持っていくと鑑定されてその効果がわかる。中にはガラクタからしか手に入らない貴重なアイテムもある」
「魔王ですかっ!?」
「そう名乗ってるだけで、ガラクタの好きなただのおじさんだ」
この世界にガラクタ魔王がいるかどうかはわからない――たぶんいないと思う――が、それでもゲーマーとしてガラクタは買えるときに買っておかないといけない心理が働いているんだ。
さて、埋蔵センサーからして埋まってるのはここだな。
「とはいえ、アムの穴掘り技能のレベルが上がって運が増えれば、宝箱の進化率が上がるからな。掘らないって選択肢はない。さぁ、アム! どんと掘ってくれ」
「はい! 掘りますね!」
アムが穴掘り能力を発動し、谷底の一部の地面に穴が開いた。
さて、ここまで俺が丁寧に、見つかるのはガラクタ、見つかるのはガラクタと言い続けてきたのは理由がある。
これは物語でよくあることなのだが、期待というのは裏切られるためにあると言われている。
だから、どうせガラクタしか見つからないと敢えて言うことで、ガラクタ以外が見つかるという伏線を作り出したわけだ。
その結果、穴の中から出てきたのは――
【0点の答案:いつも0点しか取らない生徒のいつもの答案。名前の部分は文字が滲んで読み取ることができない】
と、出てきたのは算数の答案だった。
やっぱりガラクタじゃねぇか!
俺はその答案を丸めて捨てようとした――がよく見ると……
(あれ? これ、一問目正解してるんじゃ……)
改めて答案を確認する。
【2+(2×5)=12】
うん、何度見ても正答だ。
それなのにバツをつけられていた。
名前も知らない生徒、いつも0点ばっかり取ってるから、先生が条件反射でバツを付けたんだな。
そうだよな。
いつもハズレしか出ないと言われている谷底だって、もしかしたらハズレしかないと思い込んでいて見落としているだけで、
俺は気合を入れ直し、アムと一緒に谷底で穴掘りを行った。
結果、アムの穴掘り技能のレベルが2つ上がり、手乗り倉庫の中身はガラクタでいっぱいになった。
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