第26話 宝探しは地図を見つけたあとで

 ダンジョンから脱出した俺たち。

 銀の宝箱から出てきた紙を見て興奮する俺に、アムが尋ねる。


「ご主人様、それはなんですか?」

「これは宝の地図だよ」

「宝の地図?」

「うん。ほら、この地図、さっきの水辺のダンジョンの一部になってるのはわかるだろ? この地図の場所に宝が置いてあるんだ」

「この地図を見る限りわかりやすい場所にあるようですし、既に他の誰かが見つけているのでは?」

「その点は大丈夫。宝の地図を持っていないと見つからないようになってるから(ゲーム仕様で)」


 しかも、宝の地図に書かれた場所の宝箱は、必ず金色か虹色宝箱確定。

 割合は金色75%、虹色25%。

 運をカンストしたところでボスを倒したときに虹色宝箱が手に入る確率は一個あたり1.5%くらいなのに対し、25%の確率で虹色宝箱が手に入る。

 ハズレでも金色確定なのだから、銀色宝箱から出現するアイテムの中で一番の大当たりである。


「って急がないと」

「急ぐ? どうしてですか? 他の人に取られる心配がないのでしたら――」

「宝箱が出てくる時間は、宝の地図入手後三十分間限定なんだ」

「それは急がないといけませんね」


 アムが納得してくれた。

 幸い、宝の地図の場所はマッピングしている範囲内にあったので、一直線に目的の場所に到着した。

 そこに光る宝箱――金色宝箱だ。

 ……まぁ、四分の一は簡単に出そうで簡単ではない。


「金色の宝箱ですね。初めて見ました」

「よし、アム開けてみるか」

「頑張ります……ご主人様。金色の宝箱から出るアイテムの中で一番貴重なアイテムはなんですか?」

「そうだな。ゴールド福引回数券かな? 今は使えないけど、カジノの福引所で金色以上確定のレア福引券10枚綴りだし。結局のところ、蒼剣では福引所がエンドコンテンツの一つになるからな……恒久ステータスアップアイテムとかペット育成とかで……あ、でも個人的にはスタンプカードも捨てがたい」


 スタンプカードは、九マスのダンジョンの名前が書かれているカードで、そのダンジョンをクリアするごとにスタンプが押されスタンプが貯まるごとに3個、6個、9個とアイテムが貰える。3個で銀色宝箱相当、6個で金色宝箱相当、9個で虹色宝箱相当のアイテムが確定して手に入るうえ、宝箱の中身の出現テーブルもスタンプカード専用のものになっている。

 アムは俺の希望アイテムを聞いたうえで宝箱を開ける。

 でも、いま言ったものの出現率は決して高くない。というか低い。

 物欲センサーというものがある。

 欲しい欲しいと願ったものは、そのセンサーが察知し、出ない仕組みになっているのだ(都市伝説)。

 だから、きっと出ないだろう。


「ご主人様、すみません。目的のものではなかったですね」

「うん、仕方ないよ。そう簡単に出ない…………ってそれっ!?」


 目的のものではない。

 彼女が宝箱から取り出したのは白い指輪だった。

 ハッピーリングじゃないか!


【ハッピーリング:防御+1。ホワイトマテリアルの指輪。宝箱のランクがよくなることがある。ただし、ダンジョンに入っている間に外すと、そのダンジョン攻略中は効果を失う。重複不可。付属効果【運+5】】


 【運+5】のハッピーリングっ!

 廃人御用達アイテムじゃないか!

 有志の調査結果によるとハッピーリングを装備していると、茶色の宝箱が銀色になる確率が4%、銀色の宝箱が金色になる確率が2%、金色の宝箱が虹色になる確率が1%、それぞれUPする。

 廃ゲーマー御用達の逸品だ。

 しかも、運+5は運上昇の付属効果の中では最大値。

 女神アイリス様のところで俺も運上昇のハッピーリングを求めて何度も金色の宝箱を開けたが、【運+2】のハッピーリングが最高値だった。

 

「これはアムが装備してくれ!」

「よろしいのですか?」

「ああ。運が一番高い人が装備したほうが価値があるんだ」


 俺はそう言って指輪を彼女の指にはめる。

 よし、これでダンジョン攻略が益々楽しくなるぞ!

 その後、俺たち二人は再度ソードリザードマンを倒して宝箱を手に入れた。

 完全攻略はまた無理だったが、銀色の宝箱が一個出たので、ハッピーリングの効果が出ていると感じる。

 そして、その日の夜。


 村で借りたテントを張って野宿だ。

 ここまで遠いと一日で帰るのは勿体ないからな。

 村に来るまではテントも何もない場所で野宿をしていたので、それに比べれば優雅なもの。

 もちろん、床に敷くのは段ボールだ。


 食事はポチの弁当……は既に食べ終えたので保存食の出番。

 俺にとっては食べ飽きたスナックバーだが、アムがとても嬉しそうに食べている。

 たぶん、弁当よりスナックバーの方が美味しいのだろう。

 寝る前にペットボトルの中にお湯を入れて道具欄に保存していたので、着替える前にそのお湯を使って身体を拭く。

 一応戦いが終わるたびに拭いていたが、それでもリザードマンの返り血が全部ぬぐい切れていないからな。


「ご主人様、背中を拭かせていただきますね」

「ああ、頼む」


 アムが背中を拭いてくれる。

 力加減はちょうどいい。

 お湯の温度のさらにその向こう側からアムの手のぬくもりが優しさとともに伝わってくる気がする。

 彼女が俺の手を上げて、脇の下まで拭いてくれる。

 大丈夫だよな? くさくないよな?

 不安になりながらも、女性に身体を拭いてもらうときの何とも言えない快感に少し興奮気味になる。

 そして、その後、アムの背中を拭くことにする。


「ご主人様、お願いします」


 薄暗いテントの中にかすかに見える彼女の白い肌。

 ……理性が吹っ飛びそうになる。

 きっとそのまま理性を飛ばしてもアムは受け入れてくれる。

 だが、現代日本では、夫婦の上でも合意が必要だと決まっているのだ。


「あの……アム、頼みがあるんだが」

「はい。ご主人様の望みをかなえるのが私の望みです」


 彼女は俺を受け入れてくれた。

 暫くしてから俺はもう一度背中を拭いてもらった。


――――――――――――――――――――

今日はもう一話更新予定。

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