第27話 達成率100%は左手法を試したあとで

 夜明けとともに俺は野宿していたキャンプ地の近くの池で釣りを始めた。

 朝日が池の水面に反射してとても眩い。

 朝食のためではなく釣り技能を上げるためだ。

 魚を食べようと思ったら、スカイフィッシュが道具欄保管されている。

 ゴブリンキング退治までの期限は残り6日となったが、焦ってはいない。

 ゲームと同じ感覚なので、釣果は上々。

 いつも通り、ゴミも釣れる。スライムも釣れる、半魚人も釣れる……半魚人っ!?


 三叉槍を持っている赤い魚人、レッサーサハギンだ。

 釣られて怒っているのか、糸を引っ張り釣竿を奪ってきた。

 突然始まる戦闘に、俺は慌てて武器を召喚しようとするが、油断していたので先に攻撃をされる。

 なんとか急所を避けたが、左肩に槍が刺さった。

 俺は槍を掴みながら、ファイアボールの魔法を唱える。

 近距離から生み出された炎がレッサーサハギンを呑み込んだ。

 レッサーサハギンが槍を手放すと同時に、槍を引っこ抜き道具欄からポーションを使う。

 昨日下ろしたばかりの古着だというのに、いきなり穴が開いている。


「ご主人様っ!」

「大丈夫だ。少し油断した」


 朝食の準備をしていたアムが駆け付けてくるが、俺は既に紅石の剣を取り出している上、敵はもう武器を持っていない。

 ここからは一方的な勝負となった。


「見たことのない魔物ですね」

「ああ、そういえばレベル12以上でこいつも釣れるんだった。すっかり忘れてたよ」


 釣れるアイテムの種類は釣り竿の種類で、釣れる魔物の種類は主人公のレベルで変化する。

 スライムはレベル関係なく釣れるが、レベル12以上でレッサーサハギン、レベル24以上でホブサハギンと変化していき、レベル60でサハギンキングが釣れるようになる。

 釣れる確率は通常状態で3%。魔物寄せ系の能力、道具使用時は10%、逆に魔物避けの能力や道具を使っていたら釣れない。

 と思い出したのが遅れたせいで、釣竿がダメになってしまった。

 主に俺のファイアボールが原因で。


「これ、食べられるのでしょうか?」

「……鑑定だと食べられるらしい。いまは生焼け状態だからしっかり火を通して……でも、俺は食べたくない」

「わかりました。初めての食材ですからね。ポチさんに調理してもらいましょう」


 アムがそう言ってサハギンの死体を道具欄に収納する。

 調理人の問題ではなく、食材の問題なんだが。

 ポチに、俺は食べたくないと言っておこう。

 それより、俺が気になったのは槍の方だ。


「レッサーサハギンの槍、攻撃力4か……アム、今日はボス戦以外でこれを使ってくれないか?」

「槍ですか? 使ったことがありませんが」

「槍術の技能を上げるためだ。アムはもう剣術技能のレベルが5になってるから上がりにくくなってるんだよ。とりあえず、槍術技能を覚えて、攻撃力の底上げをしたい」

「かしこまりました」


 ということで、まずは朝ごはん。

 ……あ、うん、知ってた。

 最初から今日のメニューは決まってたもんな。

 サハギンを倒した後に、スカイフィッシュの焼き魚を食べるのはあまり気持ちのいいものでは――


「お口に合いませんか?」

「すっげぇうまい!」


 アムが作ってくれたと思ったらやっぱり美味しかった。



 ということで、水辺のダンジョン探索、二日目開始。

 今日はボス部屋周回を行う。

 完全撃破も狙いたい。

 結果、本日三周目で完全撃破達成。

 金色の宝箱から出たのは魔導書「ヒール」だった。

 回復魔法だ。

 ポーションでも十分だったが、苦戦を強いられるようになるとポーションだけでは回復が間に合わないようになるかもしれない。

 ヒールを覚えたのはラッキーだと思う。

 初出として、銀の宝箱から木の首輪を手に入れた。

 木の首輪はレベル15未満の魔物をテイムすることができるが、首輪以外に牧場が必要になるのでいまは使えない。

 あと、銀色の宝箱から銅の髪飾り【防御+2毒耐性・小】が出たのでアムが装備。

 それと、リザードマンの剣は既に20本になっている。

 一応道具欄に入れてるが、持って帰ったら売れるだろうか?

 売れなかったら、村人に配ろう。

 ゴブリンに襲われたとき、全員ろくな武器を持っていなかったからな。

 いざという時必要になるだろう。

 そして、四周目の攻略をしようかと思ったが……


「妙だな」

「どうなさったのですか?」

「地図が埋まらないんだ」


 地図の完成度は95%。

 残り5%なんだが、それが埋まらない。

 隠し部屋でもあるのだろうか?

 よし、本日四周目は隠し部屋がないか周囲を注意しながら歩こう。

 アムにも、壁や床、天井などに違和感がないか一緒に見てもらうように頼んだ。

 そして、壁を左手で触りながら歩く。

 すり抜けられる壁があるかもしれないからな。


「左手法ですね」

「左手法を知ってるの?」

「はい。ダンジョン探索において古くから伝わる攻略法の一つです。必ずボス部屋に到達できる――という噂もありましたが例外も多く、いまでは必ず入り口に戻ってこられる攻略法として定着しています。」


 ダンジョンという天然の迷路が当たり前のように存在するこの世界では、迷路攻略で知られている左手法も古くから浸透してたわけか。

 もっとも、アムの言う通り左手法でゴールにたどり着くのは例外も多い。

 ゴールが迷路の真ん中にあったり、階段などがある三次元で進む迷路では左手法を使ってもゴールにたどり着かないのだ。

 そもそも、俺には地図はあるから左手法は必要ない。


 これは火のついていない灯篭! これに火をつけたら隠し部屋が……現れなかった。

 壁にひびが入ってる。爆弾があれば――って爆弾がない。

 見るもの全てが怪しく見えてくるが、ダンジョン攻略五周目、六周目と終わる。

 やっぱり地図の完成度は95%。結果は変わらず。

 気になる。いったいどこだ?

 攻略本でもあればすぐわかるのだが。

 ダンジョン攻略……左手法……例外。


「そうかっ! あそこをまだ調べてなかった」


―――――――――――――――――――――――――

さて、隠し部屋はどこから入れるでしょうか?

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正解は次回!


迷路の左手法――実は中世ヨーロッパで既にあった攻略法だそうです。

修道院などの庭園に迷路を作る遊びが流行ったそうで、歴史は古いですね。

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