第267話 ジャングルの秘宝はバナナを食べたあとで

 ダンジョンーー小島のダンジョンと呼ぶことにした――に続く階段が目に入った。


「よし、行くぞ」

「宝箱が楽しみですね」

「……魔導書」

「レベル上げと武器が楽しみです」


 アムがトールハンマーを、ミスラが四元素の杖を、ハスティアが草薙の剣をそれぞれ構えて気合いを入れる。

 うーん、やっぱりミスラの装備をなんとかしたいな。

 そう思いながら階段を下りていき……ん?


「……少し暑い」


 俺が思ったことを先にミスラが言った。

 うん、暑い。

 ムシムシしている。

 ダンジョンの中って夏でも冬でも同じ気温で魔物さえいなければ過ごしやすい場所が多いのだが、このダンジョンは蒸し暑かった。

 耐えられないほどではない。

 それに、ダンジョンの中なのに木が生えている。


「これはバナナか?」


 緑色のバナナの樹が生えていた。

 バナナに擬態した魔物ではなく、正真正銘のバナナだ。

 鑑定する。

 うん、やっぱりバナナだ。

 毒もない。

 そのまま食べれると書いてあるので食べてみる。


「ん、種があるのか」

「これはそのまま食べるには向いていませんね。調理したら美味しく食べられそうです」

「……食べにくい。あんまり好きじゃない。」

「栄養価はありそうだから私は気に入りました」


 評価は少し分かれてるな。

 俺はなしよりのありだ。

 ただ、想像したバナナよりも甘味が少ない。

 果物より野菜に近いかもしれない。

 うーん、この種を植えても種のあるバナナしか生えてこないだろうな。

 たしかバナナの苗が宝箱から出るはずだから、食べたかったらそれを狙うしかないだろう。


「変わったダンジョンというのは木が生えているダンジョンということでしょうか?」

「どうだろうな? とりあえず進んでみるか」


 ダンジョンを進む。

 すると、他にも変わったポイントがあった。

 ダンジョンの中だというのに川が流れていた。

 釣りポイントだ。

 今回は急ぎではないので、釣りをしてみる。

 こういうダンジョンだと変わった魚が釣れて釣り経験値も美味しい。

 釣り竿も四人分持ってきているので全員で釣り開始。

 俺は高級釣り竿を使う。


 よし、いきなり強い引きが!


「来たっ!」


 釣れたのは、狂暴そうな小魚だ。


「見たことのない魚ですね」

「ああ、これはギザニアだな」


 鑑定でもそう表示されている。

 ピラニアみたいな外見の狂暴な小魚。歯の部分がギザギザになっているのが名前の由来だ。

 素揚げにするとおいしいらしい。

 蒼剣にはこのギザニアのような架空の魚も結構釣れる。

 その後、ギザニアが入れ食い状態になった。

 そんな中、ハスティアにも強い引きが。


「釣れた! これは宝箱か!?」

「お、ジャングルの秘宝だな! おめでとう、ハスティア」


 ハスティアが石の箱を釣り上げた。

 釣りをしているとレア箱が釣れることがある。

 正真正銘の大当たりだ。


「何が入っているんだろう……ん? アムもミスラも興味がないのか?」


 ハスティアがジャングルの秘宝の蓋を持ったところで、違和感を覚えて尋ねた。


「いえ、興味がないことはないのですが……」

「……ん、トーカ様があんまり反応していないところを見ると、期待できない」

「勇者様、もしかして、よくないものが入っているのでしょうか」


 ハスティアの手が動かない。

 不安にさせてしまったようだ。


「いや、いいものだぞ? 釣りで手に入る宝箱はだいたい宝石か換金アイテムだからな」

「あぁ、これは確かに立派なダイヤモンドだ」


 大きなイエローダイヤモンドが四つも入っていた。

 オークションにかければかなりの値になるだろう。

 ウサピーは大喜びだな。

 俺からしたらハズレかというとそうではない。レア箱が釣れたときに手に入る釣りの技能経験値が非常に高いのだ。

 その証拠に、さっきまでなかったハスティアの釣り技能レベルが一気に5まで上がり、運が1増えている。


「本来であれば喜ぶはずなのだが、勇者様のパーティの価値観はやはり独特だな」


 ハスティアは何故か嬉しそうにそう言った。

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