第307話 ワグナーの狙いを知るのはライオックの正体を看破したあとで

 アムを攫ったワグナーを追って進むと、その先にいたのはカイザーの部下のライオックだった。


「ライオック、貴様、何をしている?」

「もちろん悪だくみですよ。皇帝陛下」


 ライオックはそう言って、ニヒルな笑みを浮かべる。

 以前に出会った雰囲気が全然違う。

 本当に同一人物か?

 地図に表示されているマークは薄い赤だ。

 俺より弱い敵のはずだ。

 だが――この雰囲気、覚えがある。

 俺は覚悟を決めて、


「サンダーボルト!」


 魔法を放つ。

 超高速で飛んでいく雷撃はライオックを捉えたかに見えた。

 だが、その前に現れた光の壁が俺の雷を防ぐ。


「いきなり攻撃ですか? 短気な方だ」

「お前、まさか――」

「気付かれましたか?」


 まるで悪さがバレた子どものような表情を浮かべるライオック。


「何が気付いたというのか?」

「逆に皇帝陛下は気付かれませんか? 長年あなたに仕えた配下が偽物にすり替わっていたというのに」

「偽物だとっ!?」


 驚くカイザーをよそに、ライオックの姿が幼い少女の姿に変わった。

 いつも俺の前に現れるときのスクルドの姿に。


「皇帝陛下ははじめましてだね。私はスクルドだ」

「まさか、トーラ王国の宮廷魔術師をしていた邪神のスクルドか」

「おや、私の情報は伝わっているようだね。感心感心」

「いったいいつからだ!? いつからライオックに!? 本物のライオックはどうした!? 何が狙いだ」


 スクルドは先ほどのライオックの時と同様に心のうちがわからない笑みを浮かべて言う。


「やれやれ、質問が多い皇帝陛下だ。順番に答えよう。入れ替わったのは武道大会を開催すると決めたあと。本物のライオックにはこの世界から退場してもらった。そして狙いはライオックの狙いを半分・・阻止することだよ。君はわかっていないようだったが、ライオックは霜月を爆発させ、帝都の半分をそこの勇者くんと元老院の人間もろとも破壊し、その力により君の身に神を宿らせ、その神の力を利用し、自分が皇帝になることだったんだよ」

「そんなはずが――」

「彼の野心は君も薄々勘づいていたはずだよ? あの神と既にそういう契約もしていたんじゃないかな?」


 カイザーは言い返さない。

 心当たりがあるのだろう。

 俺に言ったことも全てが出鱈目じゃなかったってことか。


「で、お前は半分阻止するって言ったよな? どういうことだ?」

「そうだね。この場所には現在、三つの勢力が渦巻いている。一つは魔王の再臨を望むワグナー。彼はクナイド教の中でも異端中の異端。魔王こそがこの世界の神だと信じ、魔王の復活を目論んでいる」

「なっ!?」

「心当たりはあるだろう?」

「あの魔剣の力か?」

「違う違う。魔物を操る方の力だ。全ての魔物は彼に頭を垂れる。それはまるで魔王そのものじゃないか」


 言われて気付く。

 魔物は魔王によって生み出された。その魔物がワグナーに従っている。

 確かにそれは魔王の力だ。


「魔王を復活ってどうやるんだ?」

「魔王の肉体はこの迷宮の奥に封印されている。女神アイリスの結界によってね。その結界を破り、魔王の肉体を生き返らせるには二つの力が必要になる。魔王の肉体に注ぎ込む膨大なエネルギーと結界の管理者の血。ワグナーは膨大なエネルギーを霜月の核エネルギーで賄おうとしている」

「じゃあ管理者の血ってのは? まさか、アイリス様を?」

「まさか。いくら彼が魔王の力の一部を持っていると言っても所詮は人間。女神には勝てないよ。そもそも管理者はアイリスではない。管理しているのは神の遣いだよ」

「神の遣い――まさか?」


 疑問だった。

 何故、ワグナーはアムを殺すのではなく彼女を連れていったのか。

 魔王を封じる結界を管理しているのは女神の遣い。

 妖狐族は古来、神の遣いの種族だと言われていたって聞いたことがある。

 つまり、結界を管理しているのが、アムだっていうのか!?

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