第308話 ワグナーと霜月の相手は百階層突破のあとで

「待て、アムが管理者なんてあまりにも突拍子が無さすぎるぞ」


 そりゃアムはとても強いし尻尾がもふもふだし神がかった美人だけど、神の遣いで結界の管理者?

 そんなの本人からも聞いたことがないし、


「ええ、本当よ。死の大地には結界が張られて誰も近づけないって聞いたことあるかしら?」


 確かにそんなこと聞いたことがある。

 でも、結界とかそういうのって全然なかったよな?

 普通に村に辿り着いたし、不思議な感じはなかった。


「勇者君がこの世界に来た結界を通ろうとしたとき、偶然にも結界は破れていたんだ。だから君は結界に気付かなかった」

「偶然って勇者召喚の弊害か?」

「違うよ。そもそも何故こんな話になったのか思い出してごらん?」


 何故こんな話って、そりゃアムが管理者に……ってん?

 結界を通ったその日、俺はアムと出会った。

 その時、アムはどんな状態だった?

 忘れもしない。

 ゴブリンキングとの戦いに敗れ、瀕死の重傷を負っていた。

 だからか?

 アムが死にかけていたから、俺は結界を素通りすることができたのか?

 だったら、もしかしてアムがあの時元気だったら、俺は死の大地から脱出することができなかったって考えると恐ろしい。アムが怪我してよかったとは思わないが。


「アムが管理者っていうのはわかった。で、残り二つの勢力ってのは? 一つはお前か?」

「名も無き神の勢力――といえばいいかな?」


 俺はカイザーを見たが、そうじゃない。

 カイザーは利用されていただけで、今回のダンジョンの件には無関係だ。

 ライオックは既にスクルドによって退場ころさせられている

 てことは、名も無き神の勢力は霜月か?


「霜月もここにいるのか?」


 俺の質問にスクルドは笑って何も言わない。

 そもそも、こいつに情報を求めるのが間違ってるのか?

 こいつは嘘と本当を織り交ぜて話をしてくる。

 俺たちを誘導している。

 恐らく、未来を見る力、それと連動させているのだ。

 ここで自分が何を語れば、俺たちがどう動き、自分にとって都合がいい未来が訪れるかわかっている。

 だったら何も聞かずに移動したほうが――


「話を続けろ。俺たちに与えたい情報を全部言え」


 カイザーが言った。


「皇帝陛下の方が利口かな? 第三の勢力は魔王の復活も神の降臨もされては困る女神アイリスの勢力――つまり君たちだね。私は君達にアドバイスをするためにここで待っていた」

「アドバイス?」

「神に勝てるのは神だけだ。君たち人間には勝てない。絶対に」


 そう言うや否や、スクルドは消えた。

 一瞬ではない。瞬きする間もなく消えたのだ。

 時間を取った。

 もしも俺の時間を奪うことがスクルドの目的だったとしたら――


『ショートカットを用意してあげたよ。私と話をして遅れたなんて思われたらイヤだから』


 とスクルドの声が聞こえた。

 さっき俺が掘った穴の底にさらに穴ができていて、地下に繋がっている。

 なるほど、確かにショートカットだ。

 俺たちは穴の中に飛び降りた。

 さらに降りた先には別の穴が開いている。

 飛び降りる。

 数え間違いがなければ、ここは百階層だ

 

 本来ならここのボス部屋の完全踏破ボーナスは虹色宝箱確定のはずだが、もうワグナーが倒しただろうか?

 ダンジョンナビを使ってボス部屋のある方向に向かう。

 そのボス部屋の奥にそいつがいたワグナーと霜月がいた。

 アムの姿が見えない。


「思ったより早かったな。皇帝陛下も一緒か」

『対象:トーカを発見。殲滅行動を開始――エラー、目の前の脅威の排除を最優先とする』

「ちっ、融通の利かない機械人形だ」


 ワグナーが魔剣を使って霜月に斬りかかるが、霜月は腕で受け止めて、その指から銃弾を放っていた。

 しかし、ワグナーの前に現れた盾がそれを全て防ぐ。

 若干ワグナーが有利な感じがする。

 よし、ここで纏めて倒してやる。


「貴様らはそいつの相手でもしていろ!」


 ワグナーがそう言った途端、ボス部屋の奥の扉が閉まり、天井付近から巨大な八本の首を持つドラゴンが落ちてきた。

 八岐大蛇ってやつか。

 百階層のボスか、それともワグナーの従魔かはわからないが、これまでの相手の比ではない。

 気を引き締めてぶっ殺す!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る