第195話 事情聴取は金額交渉のあとで

 今日は千客万来だな。

 敵はゴーレム兵器だけで姫様を殺せるとは思っていなかったらしく、二の矢を用意していたらしい。

 やってきたのは、見るからに柄の悪い男十人。

 殺し屋A、B、C、D、E、F、G、H、I、Jと名付け……って覚えられんから、ひとくくりで殺し屋でいいや。

 姫を狙ってる刺客らしいが、その辺にいるゴロツキにしか見えない。


「ひひっ、命を狙われてるとも知らずにのんきにダンジョンで散歩とはな。さすがは王族、やることが違うぜ」

「本当だな。でも、二人の男以外美人が多いぜ」

「男二人は殺して女たちはせいぜい遊ばせてもらうぞ。一人ガキが混じってるが」

「小さいのがいいんじゃねぇか」


 アムとミスラに対して変な欲情を抱くんじゃねぇ、殺すぞ。

 だが、気になることがある。

 男二人を殺してって言ったよな?


「なぁ、あんたら。こいつも殺すのか? 一応お前たちの仲間だろ?」

「あぁ? そんな奴知らねぇな」


 どういうことだ?

 用済みだからまとめて殺す――って雰囲気でもない。

 本当に知らないみたいだ。

 仲間じゃないのか?

 だとしたら、別のグループ?


「アイリーナ様、いったいどれだけ命を狙われているんですか」

「さ……さぁ?」


 アイリーナ様も困っている。

 命を狙われる覚悟はあっても、同時に複数の人間に狙われているとは思っていなかったようだ。


「ご主人様、どうします?」

「……倒す?」


 うん、なんか倒しやすそうだ。

 しかし、情報が欲しい。


「そうだなぁ……なぁ、あんたら、誰に雇われてるんだ?」

「はん、雇い主の名を簡単に明かすわけないだろ」


 雇われているのは確定……っと。


「いくらで雇われてるんだ? その二倍出すからこっちにつかないか?」


 このセリフって、悪徳貴族が殺されそうになったときに苦し紛れに言うセリフ第一位だと思う。

 まさか、自分で使うことになるとは思わなかった。

 もちろん、そんなことを言う貴族はほぼ100%の確率で勧善懲悪の名の許に主人公サイドの人間にやられる結末を迎えるのだが――


「な、なぁ、どうする? 報酬二倍だぞ?」

「本当に払えるのか?」

「しかし……」


 揺れてる。

 さすがは金で雇われただけの男たちだ。

 金に弱いのは目に見えてる。


「あぁ、一応言っておくと、俺は自由都市のマフィアの長とは懇意にさせてもらっててな。あんたたち、雇い主を裏切ったのならその制裁が怖いって思うかもしれないが、そのマフィアに紹介状を書いてやってもいいぞ? 金と紹介状があれば生活できるだろ。それともなにか? お前達の雇い主が裏切って、成功報酬を渡すときに口封じに命を狙わないって確信持ってるのか? 俺が雇い主だったら、王族殺しの実行犯なんて、まず手元に置いたりはしないよな」


 男たちがさらに動揺している。


「で、いくらで雇われた? 殺し屋の相場ってわからないんだけど、50万か? 100万か?」


 そう言って、俺は手から金貨を落としていく。

 そして――


「おっと間違えた……さっきそこで瞬殺したジャイアントゴーレムを落としてしまった」


 通路に突然現れるジャイアントゴーレムの死骸を見て、盗賊たちの顔から血の気が引いていく。


「お、俺たちに払われる成功報酬は一人10万イリスだ。本当に二倍の額払ってくれるのか?」

「おい、何を勝手に。裏切る気か」

「バカ。ジャイアントゴーレムを倒す奴らと戦うより、こいつらについたほうが絶対にいい」

「それもそうだな……」

「相手はトーラ王国の宮廷魔術師だぞ! 逆らって無事でいられる――」

「空気と状況を読めねぇ奴は死ね」


 一人の男が反論したが、その男を別の男が剣で切り殺した。

 殺したのは、十人の中でもリーダー格っぽい男だった。

 仲間を簡単に殺すのか。


「そんな顔で見るな、別に俺たちは仲間ってわけじゃない。ただ同じ時に雇われたってだけだ。一応、トーラ王国の闇ギルドで派遣されてる。裏切ったと知られたらもうそっちでは働けない。マフィアを紹介してくれるって話だが、金を貰えば裏切るような奴、マフィアも要らないだろ。俺たちは身を隠す必要がある。金は倍額、この場で払ってもらう。それが可能か?」

「ああ、180万イリスだな……」


 金貨1800枚を取り出す。

 お金は道具欄の中でも道具とは別枠で保存されているので、取り出すのも簡単だ。


「金を先に貰おうか?」

「情報を貰ってからだ。本当は雇い主を教えてほしかったが……宮廷魔術師ってことは雇い主はブスカか」

「いや、バスカだ」


 バスカ?

 誰だ?


「ブスカの弟です。元々ブスカのコネで役所で働いていましたが、裏では不正、犯罪三昧。全てが露見し、数年前に暴行、収賄その他諸々の罪で指名手配されているはずですが――」


 兄弟そろって碌でもない奴らだな。

 なるほど、ブスカは当然、バスカの行方は知らないと言いながら、実は匿っていたのか。

 弟への情もあるかもしれないが、こういうときに闇ギルドに依頼を出させるためだろう。

 ブスカが直接闇ギルドに依頼を出したら、それが露見したとき困ったことになる。

 だが、バスカに依頼を出させたら、露見しても「全ては弟が勝手にやったことだ! 儂は関係ない!」と知らぬ存ぜぬを貫き通せるってわけか。


「依頼を受けて俺たちは自由都市から転移門ってのを使ってここに来た」

「この男のことは知らないんだな?」

「ああ、知らないな。闇ギルドから派遣されたのは俺たちだけのはずだ」


 ゴーレムマスターのことはやっぱり知らないと。

 

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