第194話 事情聴取は殺し屋退治のあとで-2
「ゴーレム兵器!? そんなのがあるんですか」
「ええ……私が聞いていた話ではまだ開発途中のはずなんですが、実用化していたのですね」
人間じゃなくてゴーレムか。
さっきからの声割れの原因も、音声トラブルってことか。
どうやらアイリーナ様はゴーレム兵器を開発していることは知っていても、実用化されていることまでは知らなかったらしい。
でも、相手がゴーレムだというのなら、こっちが取る手段は一つ。
ぶっ壊すだけだ。
手加減は解除。
武器をリーチの長い黒鉄の槍に持ち替える。
そして、
まずは近くにいた一体を突く。
一撃入れるだけで楽に倒せる。
四体のゴーレム兵器が同時に襲い掛かってきたが、同時に槍の間合いということにもなる。
アクセルターン。
槍を振り回した。
黒鉄の槍は突きに特化した武器のため、回転しながら攻撃するアクセルターンだと与ダメージが減るのだが、このゴーレム兵器相手には十分だ。
「先ほどまで苦戦していたのに、たった一撃で」
アイリーナ様が言うが、先ほどまで苦戦していたのは手加減していて殺せなかったからであって、ダメージはしっかり通っている。
だから、一撃入れれば倒せる状態になっていたのだ。
さて、これで残りは――
「ミスラ、通路に向かって撃て!」
「土よ顕現せよ!」
アムの杖からイシツブテの嵐のような攻撃が通路いっぱいを呑み込む。
「ぐはっ!」
誰もいなかったはずの通路から響く男の声。
当然、幽霊などではない。
「今回はちゃんと呻き声が聞こえたな」
最初から違和感には気付いていた。
明らかに前に出ている五人と、その五人とは別行動をとる一人を地図で確認していたからだ。
てっきり、五人が死んだとき、真っ先に逃げ出して計画の失敗を伝える監視役だと思っていた。
突然通路に現れた男が落とした短剣を後ろに蹴って遠ざけ、倒れている男の服を掴んで起き上がらせる。
気絶しているようで、抵抗は見せない。
姿を消していたのは魔法だろうか?
「ミスラ、姿を消す魔法ってあるのか?」
「……光魔法を使える人間なら、その応用で可能」
「ゴーレム兵器を操っていたのもこいつか? アイリーナ様、見覚えは?」
「いいえ、知らない男ですが、ゴーレムマスターのようですね」
ゴーレムマスター?
蒼剣にも、ドールマスターという職業はある。
ぬいぐるみという特殊武器を使える職業で、ゴーレムを操る職業ではなかったが。
「彼の指を見てください」
「指――? そういえば、何か埋め込まれていますね」
一瞬黒子のようにも見えたが、
右手の指に埋め込まれているのは……石?
「それはゴーレムの核です」
「ゴーレムの核の一部です?」
「はい。ゴーレムの核を人の指に埋め込むことで、同じ核を持つゴーレム兵器を操ることができるようになるのです。どうやら、片手分のゴーレムを操るのが限界のようですね」
ピアノで片手で演奏するのと両手で演奏するのでは難易度が全然違う――ってのと同じ理屈かな?
理屈では何匹も同時に操ることができても、操る人間の処理能力には限度があるってことか。
「ボナメ公国では、そのゴーレム兵器の研究をしていました」
「ってことは、アイリーナ様を狙っているのはボナメ公国!?」
的を射た推理だと思ったが、アイリーナ様は頷かない。
この男がボナメ公国の人間である可能性は高いが、ボナメ公国はトーラの属国であるから、トーラ王国でそれなりの地位にいる人間であればゴーレム兵器の存在を知っていてさらにゴーレムマスターに仕事を依頼することもできるという。
もっとも、姫を暗殺しろなんていう依頼となると、簡単に受けることはできないと思う。
よほどの地位の高い人間からの依頼か、もしくはものすごい報酬につられたのか。
……それにしても――
「ポチ、聞こえるか?」
俺はミスラの鞄の中にいるパトラッシュに向かって尋ねる。
『聞こえてるですよ? どうしたのです?』
「怪しいフードを着て仮面を被ったゴーレム兵器に襲われた。こういう奴らが転移門を通ったのなら事前に教えてくれよ」
『そんな人通ってないのですよ?』
え? どういうことだ?
「もしかして……幻影魔法でゴーレムの姿も消していたのではないでしょうか?」
アムが考えながら言った。
あ、そっか。
自分の姿を消せるのなら、ゴーレムの姿を見えなくすることができても不思議じゃないな。
消えている状態で戦われたら危なかったかもしれないが、制限があるのだろう。
どっちにしろ、これ以上の情報はこいつが起きるのを待つしかないか。
壊したゴーレム兵器は証拠品として回収しておく。
蜘蛛糸の剣も回収させてもらう。
俺は聖剣以外の武器を使えないけれど、効果は便利そうな剣だ。
特に手加減との組み合わせはいい。
魔法のような特別な攻撃手段を持っていたりする相手以外だったら、五回切れば生け捕りにできるのだから。
あとはこいつが目覚めるのを待てば――って思っていたら、今回の事件、そう簡単には終わらないらしい。
またこっちに近付いてくる敵がいる。
数はさっきよりも多い十。
『怪しいフードの人は通ってないのです。でも、人相の悪そうな男なら十人ほどガンテツの村に転移していったのです』
ポチ、そういうことは先に言ってくれ。
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