第193話 事情聴取は殺し屋退治のあとで-1
安全地帯にいる敵の数は五人。
真っすぐこちらに向かってきて、安全地帯で待ち伏せしている。
どうやら、俺たちがボス部屋から出てくるのを待っているようだ。
俺たちはシステムを使ったり、エスケプの魔法を使ったりしてボス部屋から一瞬で脱出できるのだけれど、当然彼らはそんな事情知らないのだろうな。
もちろん、逃げたりはしない。
「アイリーナ様はここで待っていてください。俺たちが間引きしてきたとはいえ、相手は中級ダンジョンの最深部までたどり着いた人間です」
ミニアイアンゴーレムを排出する前のジャイアントゴーレムを収納して言う。
「いいえ、私も共にいさせてください。できれば戦う前に話を聞きたいので」
「そうですか――アム、アイリーナ様の護衛を頼めるか?」
「はい。お任せください」
「ミスラは逃げようとする敵を魔法で足止めしてくれ。全員捕まえたい」
「……ん、わかった」
その後、細かい打ち合わせをする。
「じゃあ、そろそろ行くか」
パワーレイズを使って力を上げ、そのクールタイムも終了。
外にいる連中は動かないが、陣形は組まれている。
明らかに安全地帯で休憩している冒険者ではなく、ボス部屋から出てくる俺たちを逃がさないための陣形だ。
いつまでもここで待っていたら相手も痺れを切らせて入ってくるだろうが、俺たちから安全地帯に行く。
一応、スポットライトを使う。
アイリーナ様の命を狙っているとするのなら、完全にタゲをこちらに向けるのは難しいだろうけれど、それでも少しは注意をこちらに向けることができるだろう。
アイリーナ様の傍にいるアムにはスポットライトを使わないでもらう。
外に出ると、ローブを纏った男女不明の五人が待ち構えていた。
ローブだけでなく仮面もしていて素顔がわからない。
「はじめまして、どのような用向きでしょうか?」
『怪我をしタくなけレば、我ワれについてきてもらイたい』
ローブを纏った一人が言う。
この場で問答無用で殺す――ってつもりはないらしい。
ただ、なんだろう?
言葉の一部に音割れみたいな違和感がある。
「ついていくのはやぶさかではありませんが、あなたたちの雇い主を教えていただけないでしょうか? 名前を名乗らない上に、使者が素顔も見せない相手のエスコートに応じる程、私は尻軽ではありませんよ?」
『ツいてくれば事じョうは説メいする』
「音がはっきりと聞き取れませんが、その訛り、東のボナメ公国のものですわね」
「ボナメ公国?」
訛りって、音割れ以外は標準語と変わりない気がするが?
翻訳の能力のお陰で、細かい訛りとかが聞き取れなくなっているのかもしれない。
「トーラの属国ですわ」
聞いたことのない。
俺が知っているのは死の大地と接している周辺国だけだからな。
仮面をしているせいで、相手の表情がわからない。完璧なポーカーフェイスだ。
テキサスホールデムポーカーだったら顔を全部隠すのはルール違反らしいので、ポーカーでは通用しない手だけれ。
だが、どうやら的を射ていたようで、突然敵が剣を取り出す。
紫と白の剣だな。
毒の雰囲気があるので念のために鑑定してみる。
【蜘蛛糸の剣:攻撃+10。斬った相手の俊敏を最大値の20%減り、五回斬られた人間は動けなくなる】
捕獲用の武器って感じだな。
「気を付けろ! あの剣で切られたら動きが遅くなるぞ」
「……斬られなければ問題ない。アイスバレット!」
氷魔法を使った。
敵の一人の下半身が凍る。
これ、凍傷にならないか?
と思ったら、別の敵が剣でその氷を砕く。
なんて無茶な――と思った次の瞬間、五人が俺に向かって襲い掛かってきた。
スポットライトの効果だろうか?
「アクセルターン!」
手加減能力を併用して、黒鉄の剣で薙ぎ払う。
死ぬことはないだろうけれど、ただの怪我では済まない。
全員が身体を切られながら吹っ飛んでいく。
手加減能力を使っていなかったら確実に殺している一撃のはず――だった。
だが、吹き飛んだ敵は直ぐに起き上がる。
なんだ、こいつら。
まるでゾンビみたいだな。
いや、本当にゾンビなのかもしれない。
だったら――
「ライトアロー!」
俺はそう言って光魔法を放った。
相手がゾンビなら、これで浄化されるはず――だが効果がない。
なんなんだ、こいつらは?
「ご主人様、妙です」
「ああ、これで立ち上がるなんておかしいだろ」
「いえ、そうではなく、血の臭いが一切しません」
「――っ!?」
そう言われてみれば、剣にも血がついていない。
手加減能力は殺さないというだけで、怪我をさせない能力ではないのに。
それだけではなくあれだけ斬られたら呻き声の一つ出してもいいはずなのに、さっきから一言もしゃべっていない。
(なんだ、この感じ。つい最近戦った相手と同じような)
斬られても血を流さず、叫びもしない、死ぬまで戦い続ける敵。
まさかっ!?
「――ソニックブーム!」
俺は剣戟を放って敵の仮面を叩き割った。
これで相手の素顔が露になる……と思ったのだが、そこに顔はなかった。
のっぺらぼうのマネキンのような顔があるだけ。
「人形!?」
「トーカ様! それはボナメ公国のゴーレム兵器です!」
アイリーナが敵の正体を看破して叫んだ。
道理で叫んだり血を流したりしないわけだ。
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