第192話 僥倖はファンファーレのあとで

 ホワイトモールが落とした赤色宝箱から出てきたのは、ミニゲームボックスだった。

 ホワイトモールが落とすミニゲームボックスといえば、蒼剣をやっていないプレイヤーでも何が出るかは想像がつくだろう。

 モグラたたきだ。

 UFOキャッチャーと違って無料で遊べるので、村の人気コーナーになるだろう。

 もちろん、ネタバレNGなので、アムたちには中身は持って帰ってのお楽しみと伝えている。


 アイアンゴーレムは面倒なのでサンダーボルトの一撃で倒す。


「雷魔法はわが国の秘伝なのですが……まぁ、勇者様は特別でしょうけれど」

「……ミスラも使える」

「規格外ですね」


 元気なアイリーナ様だったが、随分と笑顔が引っ込んでいる気がする。

 彼女やこの世界にとっては規格外かもしれないが、ゲームシステムとしては十分規格内です。日本産業規格のJISマークを進呈されるべきだと思うほどに。

 アイアンゴーレムは試しにアイリーナ様に道具欄に収納してもらう。


「私も収納できるのですね――なんと便利な。取り出す時も力が必要ないのはいいです」


 彼女の前に再度アイアンゴーレムが現れる。

 そして再度収納する。

 うん、もしも収納するときや取り出すときに腕力が必要だったら、ジャイアントゴーレムを収納するときに解体しないと難しい。

 ……ってあれ?

 冒険者ギルドで俺がアイアンゴーレムを次々に取り出したとき驚かれていたのは、そのアイアンゴーレムの量ではない、俺がものすごい腕力だと勘違いされたのかもしれない。

 めっちゃ重いもんな、あれ。


「では、行きましょうか! ジャイアントゴーレムも急いで倒しますので」

「そこまで急ぐものでも――ええと、ジャイアントゴーレムってここのボスって話ですけど、ボスは通常、再度出現するのに数カ月から数年必要なのでは?」

「そこは異世界召喚者ですから、毎回来るたびに戦えます!」

「魔物を呼び出す……勇者なのに魔王のようなことをしているのですね……」


 ということで、最奥のダンジョンボス登場!

 撃破!


 え? それでいいのかって?

 俺はこれまで数えるのも馬鹿らしくなるほど倒してきているんだし、それでいいんだよ。

 そして、宝箱が出る。


「全部茶色の宝箱ですね。金色宝箱……というのはありませんが」

「そうですね、今回はハズレのようです」

「……残念」


 そうだな、全部茶色宝箱だ。

 この宝箱では、アイリーナ様を宝箱の沼に沈める計画が成立しない。

 仕方がない、次に賭けるか。

 そう思ったときだった。

 突然聞こえてくるファンファーレっ!


「まさか――」

「まさかっ!?」

「……まさか!!」

「まさか、敵がここ「「「虹色宝箱確定演出っ!」」」に……え?」


 次の瞬間、茶色宝箱が一つ弾けて、中から虹色宝箱が現れた!

 二度目の虹色宝箱だ。

 前回は盆栽キングだった。

 果たして今回は――


「よくわかりませんが、とても綺麗な箱だというのはわかります。一体何でできているのでしょうか? これを私が開ければいいのですね」

「「「ダメです!」」」


 金色宝箱ならともかく、虹色宝箱をそう簡単に順番を譲らない。

 ここは皆で開けるべきだ。


「さて、何が出るかな、何が出るかな」

「ん……魔導書希望」

「それよりゴールド福引回数券ですね」

「ご主人様、早く開けましょう」

「待て、まずは女神アイリス様に感謝の祈りを捧げてからだ」


 ということで、俺たち三人は虹色宝箱を祭壇に見立てて祈る。

 感謝の祈りと言っているが、実のところ、中身がいいものでありますようにという願いがこもっている。

 さて――


「では、開けるぞ」

「はい」

「……ん」

「あ、回復薬ですわね」

「「「――っ!?」」」

 

 突然の声に俺たちがビクッとなった。

 振り返ると、アイリーナ様が茶色宝箱を開けていた。

 よかった、虹色宝箱から回復薬が出たのかと勘違いした。


「ご主人様、伺いますが虹色宝箱から回復薬が出ることはあるのですか?」

「あ……ああ。エリクシルポーションがな……ハズレ扱いだが」

「……ん、気を付ける」


 アムが気を引き締める。

 ああ、ここでエリクシルポーションが出た日には、三日間は落ち込むぞ。


「あの、エリクシルポーションと聞こえましたが? 幻の霊薬ですよね? 八百年前の茨戦争の引き金となった過去の遺物ですよ?」


 アイリーナ様が何か言ってるが無視だ。

 さて、開けるぞ。

 何が出る……か?


「これは――」

「船……の玩具ですか?」

「ハズレ?」

「とれも綺麗ですね。ところどころ金が使われているようですし、芸術品としては価値がありそうです」

「いや、当たりだ! 虹色宝箱から最初に出て欲しいアイテム第七位。順位は低めだが、それはゴールド福引券からも排出されることがあるからであって、俺は好きだしこの時期ならありがたい! これは――」


 俺はそのアイテムの名前を告げる。


「宝船だ」


 そう、七福神が乗っている宝船である。

 わかりやすく帆のところに「宝」という文字が描かれている。


「……効果は?」


 効果は四つ。

 一つ:拠点に設置することで、神棚の代わりに使うことができる。

 二つ:拠点に設置した後、金色宝箱から七福神人形が排出されるようになる。

 三つ:七福神人形を神棚に供えると特別な効果があるが、宝船に供えるとその効果が二倍になる。

 四つ:お供えをすると、一定の確率で宝船限定の神獣を招来することがある。


 という感じだ。

 そう説明したら――


「神棚といえば、安物のお供えを置くと効果があるって前に仰っていましたね」

「……ん。神獣を呼び出したあと、霊珠を大量に使うとも」

「二人ともよく覚えてたな。ああ、神棚は自宅レベル3まで使えないと思ってたが、これで晴れて神棚を使える」

「ついていけませんが、凄いものってことですか」


 当然だ。

 虹色宝箱の当たり部類だからな。

 エリクシルポーションとは違うのだよ、エリクシルポーションとは。


「あ、こちらは砂金が入っていました。これは当たりですね」


 俺の興奮が伝わらず、アイリーナ様は茶色宝箱から砂金を取り出してそう言う。

 残念だが、茶色宝箱に当たりはないんだよ。


「ご主人様、もう一周戦いますか」

「……ん、次こそ魔導書」

「そうだな、虹色宝箱が出たこの調子で、もう一度――お客さんのお出ましのようだ」


 開きっぱなしにしていた地図を見ると、こちらに近付いてくる反応が四つ。

 どうやらアイリーナ様を狙っているという人間か?

 少し様子が気になるところがあるが、なにより――


「くそっ、いいところだっていうのに邪魔が入った」

「あの、トーカ様。今回、ダンジョンに来た目的はそのお客様だということを忘れないでください」


 忘れてないけれど、それでもタイミングってのがあるんですよ、タイミングっていうのは。

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