第191話 結果は過程のあとで

「パワースタンプ」


 今回のもぐらたたきはアムの一人勝ちだった。

 部屋の中にある無数の穴から、時には穴のない場所ですら掘っては現れるブラックモールに対し、アムのハンマーは次々に一撃で仕留めていた。

 前まではハンマーを使うときはその重さのせいで振り遅れて素早い敵には当たらなかったものだが、今はブラックモールごときに振り回されるものではない。

 ただし、速度がさらに素早い状態のホワイトモールには流石のアムも苦戦したようで――


「ご主人様、お任せします」

「ああ……………………………………………………………………そこだっ!」


 穴の中から出てきた白いモグラ――ホワイトモールに投石能力を使って木の棒を投げた。

 木の棒だったら投石ではなく投棒な気がするが、投石能力だ。

 木の棒がぶつかったホワイトモールはのけぞって動かなくなる。

 やっぱり使えるな、この木の棒は。

 これは、ポチが使っていた棒――【犬が歩けば当たる棒】という名前の武器だ。

 剣の代わりに使ってもただの丈夫な木の棒だが、投擲武器として使うと、ぶつかった時相手にスタン効果を付与することができる。

 丸い石も同じ効果はあるのだが、あれは使い捨てのアイテムだが、こっちは拾えば何回でも使える。

 ダメージがないし気絶耐性のある敵には効果がないのでぶっ壊れ性能とまではいかないが、使いやすい。


「ミスラっ!」

「……ん。水よ顕現せよ!」


 ミスラのウォーターガンが気絶したホワイトモールの頭を打ち抜いた。

 うん、確実に強くなってるな。

 ブラックモールとホワイトモール狩りは順調だ。


「なんてスムーズな魔物退治なのでしょう……それに――」


 とアイリーナ様は死んだホワイトモールを見て言う。


「ホワイトモール――剥製ですら国宝級の珍獣で、最後に目撃されたのは数百年前のはずですが」

「そうなんですか? 暇な日はよく倒してますけど――」

「……ん。この前は十匹は倒した」

「はい。モグラのお肉はあまり美味しくないのが残念です」

「食べた……のですか?」


 興味本位でね。

 鑑定でも食べられないとか書いてなかったからどんな味かって気になって。

 自然の味――といえば聞こえはいいが、土の味しかしなかった。

 アドモンってこの世界だと激レアモンスターみたいな扱いなんだな。

 たぶん、同じ魔物を倒し続けたら進化する――っていうのは俺にだけ許されたこの世界には本来は存在しないシステムなのだろう。


「それで、これはなんですか?」

「「「宝箱です」」」

「突然現れたように見えましたが――」


 ホワイトモールを倒したら50%を引き当ててしっかり宝箱が出現した。


「これも異世界からの召喚者の特権の一つですね」

「過去の勇者の伝承はいろいろと残っていますが、このような伝承はなかったはずです」


 そりゃ、過去の勇者が『ゲームみたいな生活をしたい』なんて望んだりはしないだろう。

 というか、テレビゲームが生まれるより前の時代の転生者っぽいし


「……トーカ様、開けていい? 魔導書の予感がする」

「待て待て。今日は順番的に俺の番だろ?」

「ご主人様、赤色宝箱に限定させていただけると、次は私かと思います」


 む、全員譲らないか。

 これはジャンケンの流れか?


「誰が開けても同じな気がしますが」


 アイリーナ様がもっともに聞こえることを言うが、やっぱり違うと思う。

 蒼剣でも宝箱の演出をスキップして結果だけ見る方法もあるが、やっぱり宝箱演出までしっかり見てこそだ。

 そうでないと、金色宝箱の中身が出たときの興奮や、虹色宝箱への昇格確定演出による脳汁ブシャァァァ! を味わえなくなる。


 通常だったら――


「ん? 金色来たっ! 中身はなんだ? なんだ? おぉ、レア魔導書来た!」


 となる。

 だが、スキップすれば、


「あ、金色宝箱出てたんだ、ラッキー、レア魔導書だ!」


 ほら、興奮具合が全然違う。

 過程は大事だ。

 ということで、


「せっかくだし、今日はアイリーナ様が来ているわけだし、アイリーナ様に開けていただこう」

「はい、ご主人様がそうおっしゃるのであれば」

「……ん、仕方ない」

「え? 私、そこまで開けたくはないのですが……」


 なんだと……!?

 そんな人間がこの世にいるのか?

 宝箱があるのに開けたくないって、ルーレット付きの自動販売機で結果が出る前に立ち去るようなものだろ?

 いや、そりゃ滅多に当たらないのは知っているぞ。

 それでも見てしまうのが人間ってものだ。


 ……そうか、アイリーナ様は王族だから、欲しいものはだいたい手に入る。

 ジュースで当たりの結果を待つよりも、もう一本買った方が早いと思ってしまう人間なのか。


「……ミスラ、アム。ジャンケンで開けていいぞ」

「いいのですか?」

「ああ。アイリーナ様にはボス戦で出た金色宝箱を開けてもらうからな。一番最高の状態で開けてもらってこそ、宝箱を開ける価値がわかるってものだ」


 殺し屋がアイリーナ様を狙っていようがいまいが関係ない。

 まずは俺が彼女を宝箱という名の地獄の沼に引きずり込んでやる。

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