第212話 九階層のボス部屋に行くのは先客が去ったあとで

 ようやく九階層のボス部屋にやってきた。

 しかし、妙なことが起こった。

 ボス部屋の扉が開かないのだ。

 地図を見ると、誰かがボス部屋で戦っている。

 数は十三人、さらに別の安全地帯に五人。

 

「もしかして、私たちがここを通ることに気付いて先回りしているのでしょうか?」

「いや、待ち伏せするのなら、こんな九階層まで来なくても浅い階層でいいはずだろ?」


 それに、マークは白い。

 俺たちを狙っている敵ではないということだ。

 ただの冒険者パーティという可能性もある。

 戦闘員が十三人、そして五人が道中を助ける補助要員といったところか?

 だとしたら、彼らが九階層のボス部屋にあってここに通じる隠し扉に気付くことなく十階層に行ってくれたら進めばいい。

 保存食のスナックバーを全員で食べて休憩をする。

 結構時間がかかっているな。

 いや、レベルが低いうちの大人数のレイド狩りと考えると時間がかかるものか。

 じっくりじっくり相手の体力を削っていき、ようやく倒すものだからな。

 思いもよらぬところで足止めを食らったな。

 アイリーナ様が右手の指に嵌っている王家の指輪を握っている。


「大丈夫ですよ、アイリーナ様。国王陛下を救出すれば終わります。ここを超えればあとは地上に戻るだけです」


 エスケプの魔法やシステムの脱出を使っても闇ギルドに戻るだけなので、歩いて上がるだけしかない。

 それでも、もう半分だ。

 それに、雑魚の魔物をいまボス部屋にいる冒険者たちが片付けていくれていたら、戦闘回数がグンと減る。

 ダンジョンボスについては、俺が一緒なので毎回戦うことになるだろうが、そこは勘弁してほしい。

 と思っていたら、安全地帯にいた五人がボス部屋に移動し始めた。

 どうやらボス退治が終わったようだ。

 さて、彼らが通過するのを待つだけ――


 ん?


 ボス退治を終えた冒険者(?)たちが、全員ばらけて何かを探している。

 まさか――


「隠し扉を探してるのか? ターメル、ここの場所は闇ギルドの連中しか知らないのか?」

「ああ。だが、何人か箱に入れて運んだことはある。目隠しをして見えないようにした」


 見えなくても箱に入っていても、階段を下りた回数、ボス部屋の前で待機した時間などを知っていたら、九階層に隠し通路があることは予想がつく。


「やり過ごしたいが」

「……隠れる場所がない」


 九階層のこちら側はほぼ一方通行だったし、隠れる場所もなかった。

 八階層まで戻らないといけなくなる。


「僕の出番だな」

「マクールの? ……そうか、姿を消す魔道具か」

「ああ、僕のところに集まってくれ」


 マクールがそう言って僕たちを集めると光学迷彩を展開した。


「もっとだ」

「もっとって、これでもかなり詰めてるぞ」


 おしくらまんじゅう状態だ。

 マクールの奴、もしかして女性と密着したいだけじゃないのか?

 アムとミスラは触らせないぞ。


「仕方ないだろ、本来はダンジョンの中でしか使えないのに、さっき地上で使ったせいで魔力が溜まり切っていないんだ」

「嘘だったら承知しないぞ」


 魔力ポーションも魔道具相手には使えないからな。

 仕方ないので、俺は背中をマクールに向け、正面でアムとミスラを抱える状態でガードする。

 って、アイリーナ様⁉ そんなにくっつかれたら胸が……じゃなくて狭いですよ。


「トーカばかりモテて……」

「若いな」


 マクールが悪態をつき、ターメルが言葉を漏らす。

 これで本当に姿が隠れているのだろうか?

 俺たちの周辺の光を屈折させているだけで、自分たちが透明になっているわけではない。

 なので、本当に見えていないのか不安になる。

 それに、この状態でいつまで待てばいいんだ?

 と思ったら、隠し扉が開いた。


「見つけました、こちらです」


 声が聞こえた。

 出てきたのはこの国の兵……ってあれ? あの顔……見覚えがある。

 前にラン島で一緒に行動した騎士の隊長さんじゃないか!

 同行している兵の中にも見覚えのある騎士が何人かいる。

 一対、こんなところで何をしているんだ?


「姫様、お気をつけて」


 隊長さんがそう言って一人の女性を案内しているようだ。

 あの女性、なんかアイリーナ様に似ていないか?


「シオン姉さまっ!」


 突然、アイリーナ様が飛び出し、一緒にいた兵たちが警戒して武器を構えるが、即座に武装を解除した。


「アイナ! 無事だったのですかっ!」

「ええ、シオン姉さまこそご無事なようで」


 姉さまってことは、第一王女か!?

 マクールが光学迷彩を解除する。

 突然現れた俺たちに警戒するが、アイリーナ様と一緒にいたのは明白なので武器を向けられることはない。

 隊長さんが俺に気付く。


「トーカ殿っ! どうしてここに――」

「お久しぶりです、隊長さん。とんでもない再会になってしまいましたね」

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